アトランティス7
アトランティスの基部となる、直径四キロメートルの居住区。
この居住区から五百メートル離れた場所に設営された、幅五百メートルの防潮堤が取り囲んでいる。
海面から高さ十メートルの防壁は、日照権と折り合いを付ける為に妥協した産物で、本来の防潮堤としては心許ない。
波に合わせて傾く事で多少の荒波は受け止める事は出来るのだが、問題もある。
サーファー気取りで水平に揺れ動く居住区の方はまだいい。
荒波に翻弄されつつ水平に保つ為に格闘するのは、二重の防潮堤なのだ。
嵐の日は錨泊する海上都市という性質上、防潮堤の基部を固定する数十本の安定棒が見え隠れする程暴れ回る。
近年、父島周辺で相次ぐUFOの目撃情報は、多分アトランティスだろう。
内側の防潮堤を少し進み、自衛隊の敷地内を取り囲む柵の前にある正門を顔パスで通過したハイエースは、空き地の中に建つ校舎の前に停車する。
校舎の入り口には「父島分隊駐屯地」という看板が立ててあった。
左右に伸びる廊下を右に進み、金輪は最初の部屋へと入る。
「おう、お疲れ」
ねぎらいの言葉で出迎える分隊長。
分隊長と話をしていた幹部が右手を上げて微笑む。
「久しぶりだな、矢田」
金輪と矢田の二人は、お互いに肩を叩く。
「おやっさん、この幹部さんと知り合いなんですか?」
幹部……矢田言悟三等海佐は進に視線を向けると、笑いながら軽く敬礼の仕草をする。
「金輪、おやっさんって呼ばれるようになったのか」
「まあな、お前がいるって事は天牙もいるんだろ?」
「ああ、久しぶりに防衛大卒の三羽烏が揃うんだ、アメ公も黙っちゃいねえぜ?」
部屋中に爆笑が響いた。
アトランティスの基部が完成した当初、内防潮堤は自衛隊の管轄となっていた。
その後、日米安保条約の改正で、半分は在日米軍の所有地となった。
条約改正の見返りとして日本の米軍基地は全て移転すると国会で決まった時、沖縄を始めとした基地周辺住民は手放しで喜んでいたものである。
面白くないのは自衛隊の方だった。
着任するやいなや、狭すぎるとゴネた米軍は現在、内防波堤の三分の二を占領し残った三分の一で肩身の狭い思いをしているのだから。