アトランティス3
外周へ侵入したハイエースが、赤い印の場所で停車した。
海側に面した防潮堤の外壁が、印を境に荒い作りになっている。
車から潜水具を一式持ち出した進は、おもむろにジャケットを脱ぎ、ダイビングスーツを着用した。
酸素ボンベなどの器具を点検し、手慣れた仕草で背中へ装着する。
隣で乗っていた岩男も車から降り、進の手助けをしていた。
一通り進のダイビングスーツや潜水具のチェックをした後、岩男が親指を立てる。
足元の影に振り返った進も、岩男に親指を立て、そのままひっくり返るように勢いよく背中からダイブした。
日光が乱反射する泡のカーテンが消えた途端、日影側から潜水した進は闇に飲まれる。
ヘルメットのライトを点けると、海蛇のようにのたうつ鎖が遠目に見えた。
(今日も荒ぶってやがるな)
小笠原諸島の父島近海は、島から少し離れると海流が異常に早くなる所があった。
少し南下すると台風の発生地帯となるので、穏やかな方が珍しい。
防潮堤の下は、剥き出しとなった鉄骨が林立しているような所もあり、万が一海流にでも巻き込まれたらひとたまりも無いだろう。
鉄骨の一本に電磁石を取り付け、それを足場にしたままソーラーパネルの基部を固定するボルトの位置をマーキングする進。
「おやっさん、一番、終了しました」
「おつかれ。 海流の塩梅はどうだ?」
潜ったらすぐに聞けよ、と苦笑する進。
「いつもより荒ぶってやがりますぜダンナ。 天気予報じゃ快晴が続くから安心していたのに」
「そうか、なら今日の所は二番で終わりにするか。 移動すっから頼むぞ」
通話の途中で、命綱が右へと引きづられる感触があった。
綱の動きに合わせ、鉄骨伝いにカニ歩きをする進。
本来なら一度陸にあがってから改めて二番の上からダイビングするものだが、時間が勿体ない時は効率重視で犬の散歩をする事がある。
人使いの荒さに内心毒づく進のすぐ横に、何かが落ちてきた。