アトランティス1
『金輪建設』と書かれたプレハブ小屋の扉が勢いよく開かれ、一人の男が飛び出てきた。
肌に密着するタイプのアンダーウェアを着込み、白いジャケットを羽織った男は、昨日の『カグヤの旅路』で少女を確保した男、霧闇進だ。
毬をついていた少女、小鳥まいが扉から遠慮がちに見送っている。
小屋の隣にある駐車スペースに止まっているライトバンの運転手に謝罪をするように右手を上げながら車のスライドドアを開ける進。
ハイエースと呼ばれるワンボックスタイプのライトバンには四人が乗っていて、全員が作業服姿だ。
「おやっさん、今日もよろしくお願いします」
ハイエースに乗り込んだ進が、助手席の男に声をかける。
目を閉じていた男は、目を半開きにして「うん」と言い、すぐに目を閉じた。
男は、金輪建設の社長をしている、金輪力斗という男。 従業員が十人ばかしの子会社だが、自衛隊の幹部だったコネで防衛関係の仕事が次々と舞い込んで来る身分である。
進が乗り込んだ後部座席の右側でゴソゴソやっているのは熊山力也。 焚き付け用に雑誌を切り裂いている所らしい。
隣で見ていた霧森岩男が眉をひそめる。
彼の目線を追った進も顔をしかめた。
雑誌の記事に「恐怖!アトランティスの無重力」という文面があったからだ。
馬鹿な三流雑誌が載せた無責任な記事の風評被害で、都市の観光業界が被った甚大な損害は記憶に新しい。
その出版社からの謝罪は無く、その話題はここアトランティスでは半ばタブー視されている筈なのだが?
二人の冷たい視線に気付いた力也は慌ててグチャグチャと握り潰す。
「空気読めよ力也。 それのせいでこいつ、バイトをクビになったんだからな。 スキューバダイビングのインストラクターってのは儲かってたんだろ? 進」
「それなりに稼がせて貰ってましたよ、岩男さん。 まあ、潜水士の資格があったおかげで、この仕事に乗り継げたんだから結果オーライと考えてますよ」
進は、そう言いながら首から下げた資格証をブラブラさせた。