プロローグ 2
「今夜も無事に始まりました『カグヤの旅路』、ライブ中継で送ります。 レポーターの渚あかねです。 そして、解説としてつくば大学の助教授の」
「佐々木一です。 今回も、よろしくおねがいします」
カメラの隅で、網の中から少女が助け出されている。
家族らしき青年が、おつかれーとか言いながら少女にペットボトルを差し出し、すました顔でペットボトルを呷る少女がカメラから外れた。
カメラが切り替わり、月に向かって遠ざかる『銀河鉄道』を映す。
点になっていく銀河鉄道から再びカメラが切り替わり、スタジオ内が映し出された。
バックのモニターには、仮説ホームから発車する『銀河鉄道』が大きく写っている。
「今回で『カグヤの旅路』も20回目を迎えました。 小笠原諸島の父島近海で起きた海難事故に端を発した事象、『カグヤの旅路』ですが、ここまで解析されるのに実に二年の歳月が流れました」
思わせぶりに目をとじた助教授は一呼吸した後、ゆっくりと語り出した。
「『カグヤの旅路』とは、端的に言うと「満月の夜、中天に月が通過する時に無重力海域が発生する」という現象です。 時間はまちまちですが、概ね午後11時50分から深夜0時10分までの約20分間になります」
テロップを説明するような助教授の言葉に、相鎚を打つ女性レポーター。
「件の海難事故では、台風が消滅して該当海域が晴れ渡ったという異常事態が報告され、満月との因果関係を一助する切っ掛けになったとの仮説もありますが、ここでは割愛させて頂きます」
そう言って再び深呼吸する助教授。 この人の癖だろうか?
「話を戻しますと、この現象は、実に興味深い。 該当海域から実に宇宙空間までの間がすっぽりと無重力状態となるのです。 我々人類は、言わば天然の『軌道エレベーター』を発見した訳であります!」
助教授は、そう言いながら立ち上がる。
「助教授、落ち着いて下さい」
レポーターの声に我に返り、ばつが悪そうに咳払いをして机から降りる助教授。 お立ち台のように机の上で踊るつもりだったのか?
「さて、『カグヤの旅路』を発見したは良いが、問題はどうやって利用するかという事です。 まずはプラットフォームの確保。 これは近年開発された海上都市『アトランティス』を該当海域に進駐する事で一応の決着が付きました」
そう言って深呼吸する助教授。 腕時計を指さし「時間、時間」と口パクをするスタッフ。
「『アトランティス』のリニアモーターカーの後部車両を推進機関とするのは私のアイデアです。 言わば即席のマス・ドライブですよ。 無重力空間が存在するのは、せいぜい20分間。 リニアモーターカーが最高時速を出しても高度200Kmに達するかどうか。 だが、そこは大気のマットが無い宇宙の入り口。 そこからならば僅かな推力でも衛星軌道に到達出来る訳です。 そこから……」
「お時間が来てしまいました。 助教授、今夜は本当にありがとうございました。 それでは皆さん、また次回お会いしましょう」
「ちょっと待て、話はここから(ブツッ)」