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Section 5-Eight

今回は、サービスシーンがあります!

……年齢制限がいらない程度(のはず)なので、ご安心ください。

ともあれ、ミステリはもう始まっています。すでに手掛かりはいくつか仕込まれてしますので、前回までと合わせて、今回もお楽しみください。


「つまり、船内に他にも爆弾が仕掛けられている可能性があると?」


 ごつい体つきの船長が、腕を組みながら言った。鍛え上げられた上腕二頭筋がかなり太くて、服の袖がはち切れそうだ。


 操舵室と同じ階にある、一番広い部屋に、わたし達も含めたすべての乗組員が集まっていた。一番広いといっても、二十人ほどの乗組員が入って窮屈さを感じるくらいで、それほど広くはない。まあ、掻き分けて進めるぐらいの余裕はあるが。

 現在、船は自動操縦に切り替えている。船首に爆弾が仕掛けられ、今しがた爆発したことを知らせるために、そして乗組員の安全を確保するために全員を集め、わたしから詳しい説明を船長にしたところだ。他の乗組員では要領を得なかったし……。


「断定はできない。この金属板に書かれている内容が、事実であるとは限らないし。だが、爆弾を手作りするには手間がかかるし、悪戯でこんな真似をするとは思えない。用心するに越したことはないと思う」

「そうだな……今回は誰も怪我をしなかったが、もし誰かが船首を通っていたら、爆発に巻き込まれた可能性がある。しばらくは、船内をうろつかない方がいいだろうな」

「それに、爆弾犯が船内に留まっている可能性だってある。一か所に集まっていた方が、犯人も手出ししにくいだろう。乗組員の中に犯人がいたとしても、同じことだ」


 室内がにわかにざわつき始めた。自分たちの中に犯人がいる、そうでなくても犯人が船内にいるというのは、あまりに危険極まりない状況だ。生きて陸に戻れるか、それすら不安に感じているかもしれない。


「まったく、犯人はなんだってこんな真似を……逃げ場のない船の上に爆弾なんか仕掛けて、いったい何のつもりなんだ」

「まあ、悪戯ではないとしても、何らかの目的があるのは間違いない。もっともそれを探っている余裕は、今のわたし達にはなさそうだが」

「次にまた、いつ爆発が起きるとも限らないからな……とりあえず、近くの港に寄って、乗組員を避難させよう。救命艇は人数分あるが、外からの助けなんて期待できないし、なるべく陸地に近いところで船を離れた方がいい。そうすれば、自力で救命艇を動かして、陸地に上がることもできるだろう」

「ちなみに、救命艇を動かせる乗組員って、どのくらいいるの?」

「…………」


 黙る船長。把握していない、というわけじゃなさそうだ。


「救命艇は最後の手段にしよう。動かせる人がろくにいないんじゃ、かえって危険が増すだけだ」

「そう、だな……」

「あの、その前に警察に通報するのが先なのでは?」


 シャルロットがわたしの背後から顔を出して言った。屈強な体つきの船長に、ちょっと苦手意識があるみたいだ。

 船長は難しい顔をして首を振った。


「無線で警察とかに連絡はできるが、この辺りの警察なんて信用できないからな。銃を構えた治安部隊を出動させることはあっても、爆弾や犯人を捜すなんてことは、とてもじゃないが期待できない」

「きょうび、警察はどこもそんな感じだからな」


 警察組織が正常に機能するのは、国が安定している時だけだ。あらゆる国が不安定な情勢になった昨今、警察は国による後ろ盾も制御も失い、治安維持の名目で好き勝手を繰り広げている。その実態はヤクザやマフィアと大差ないと言われるほどだ。


「じゃあ、近くの港に到着するまで、わたし達は何をすればいいのですか? 港に着く前に爆発が起きたら意味がないですよ」

「そうならないよう祈りつつ、わたし達で出来ることをするしかないな」

「何をするつもりだ?」


 船長の問いかけに、わたしは胸に手をあてて答えた。


「操縦を担当するひとを除いて、乗組員は全員、この部屋から出ないようにするんだ。港に着くまでの辛抱だ。そしてその間に、わたしとシャルロットで爆弾を探す」

「ええっ!」


 乗組員たちの間にどよめきが広がった。よく聞いたら、シャルロットも同じように驚きの声をあげていた。そういえば事前に相談するのを忘れていたな。


「ああ、すまん。シャルロットにも言ってなかったな」

「そうですよ、聞いていませんよ! というか危なくないのですか?」

「もちろん危ないよ。どんな仕掛けになっているかも分からないし。でも、本当に船内に仕掛けられているなら、取り除かない方が被害も大きくなる。幸い、爆弾を解体する技術は身につけているから、見つけたらその場で解体するつもりだし。シャルロットは見つける手伝いさえしてくれたらいいから」

「気を遣ってくれるのは嬉しいですけど、なぜわたしに手伝わせるのです?」

「そうだよ、探偵さん」船長が言った。「船内は広いし、内部構造を知っている乗組員に手伝わせた方がいいんじゃないか?」

「あんなグダグダの初期対応をやらかす乗組員に、爆弾探しを手伝わせろというの?」


 わたしが冷たく言い放つと、部屋の中は一気にしんと静まった。

 いくら船内の構造に詳しくても、こればかりは任せられない。普通の乗組員が、爆弾の扱いに慣れているはずもないのだ。まして船首で爆発が起きた時の慌てぶりを見れば、爆弾を発見したときに冷静に行動できるとは思えない。

 対してシャルロットは爆発の時も冷静に行動できていたし、手伝いを任せるには適役だといえるだろう。彼女と二人で探そうと考えたのは、それが理由だ。


「それにさっきも言ったが、乗組員の中に犯人がいる可能性もある。自由に行動できる時間を与えれば、一度調べた場所に後から爆弾を仕掛けることだってできるからな」

「言いたいことは分かるが、女の子二人だけで探すのは危険じゃないか?」

「その程度の危険なら十分に対処できる」


 アムリゴの兵士として、諜報員として、探偵として、あらゆる修羅を掻いくぐってきたわたしは、ためらいも恐れも見せずに言った。もちろん油断はできないが、シャルロット一人くらいなら、危険から守れると信じている。

 わたしの言葉からにじみ出る自信を見て、船長は渋々ながら頷いた。ここはわたしに委ねた方がいいと、判断したようだ。


「分かった……では、我々はどうすればいい? この部屋に留まったままというのも、どうかとは思うが」

「じゃあ、この部屋の周りだけでも、危険物がないか調べてほしい。怪しいものを見つけても決して触らずに、これでわたしに連絡してくれ」


 そう言ってわたしは船長に、連絡用の通信端末を渡した。ビエラットが依頼した事件でも活用した、小さくてもしっかり役目を果たせる優れものだ。


「おう、分かった」

「それと、乗組員の身体検査も並行してやってほしい。起爆装置を隠し持っている可能性があるから……手製の爆弾なら、小さくて精密な装置ではないだろうけど、靴の中とかも念のために調べてくれ」

「了解した。しかし、本当に隠し持っている奴がいたら、どうしたらいい?」

「そういう奴は身体検査を一瞬でも拒むはずだから、そういう素振りを見せたら、調べ終えた人たちで取り押さえてしまえばいい」


 なんて言ったら案の定、乗組員たちから不満の声が飛び出した。


「なんだよ、それは。俺たち乗組員の扱いが雑すぎるだろ」

「こっちは乗組員でもお客さんでもないあんたらを、乗せてやってる立場なんだぞ」

「というか、そういうあんたらは身体検査しなくていいのかよ」

「そうだぞ、あんたらが犯人だっていう可能性だってあるだろうが」

「船の中をうろつくんなら、先にあんたらの身体検査をするべきだろ」


 あー、うるさい。人前でなければ両手で耳をふさいでいるところだ。こんなだから爆弾探しに付き合わせたくなかったんだよ。


「ダメです!」


 大声を上げたシャルロットが、大きく両手を広げてわたしの前に立った。ん、もしかして、わたしをかばっているのか?


「ローゼさんのお召し物を引ん剝くなんて、わたしが許しません!」

「なんでシャルロットが許可するかどうかなんだ」


 思わず突っ込んでしまった。他人の心配より、まず自分の衣服が引ん剝かれることを心配したらどうなのだ。勇ましいのは結構だけど、自分だって同じくらい疑われているのだが。


「落ち着け、お前ら」荒ぶる乗組員たちを制止する船長。「さっきの爆発で火を止めたのは彼女たちだろう。疑うのは筋違いじゃないか」

「船長、こいつらに肩入れするんすか。俺たちをコケにするような奴らっすよ」

「だからって彼女たちにまで身体検査を強要するのはやりすぎだろう……」


 船長はなんとかなだめようとするが、乗組員たちの不満は治まらない。まったく、このままだと余計な言い争いに発展しかねない。どうしたものか。


「……まあ、わたしが犯人なら、あえて必死に消火活動をして信頼を得て、自由に行動することで次の犯行をやりやすくするけどね」

「んんっ?」


「だからまあ、わたしを疑うのは、決して筋違いではないよ」

「ちょ、ローゼさん、何を」


「だけどこっちに、爆弾騒ぎに関して探られたくない腹はないし、別に調べられてもわたしは問題ないよ」

「ま、待ってください、ローゼさん。それは……」


「ほら、好きなだけ調べたらいいさ」


 そう言ってわたしは、さあ来いと言わんばかりに両手を広げた。

 ……色気のない下着だけを纏った、あられもない姿で。


 実はしゃべりながら次々と服を脱いでいたのだ。シャルロットや周りの連中が唖然となりながらも、わたしは服を脱ぐ手を止めなかった。下手に口で無実を訴えるより、こうした方が相手を黙らせやすい。

 うぅむ、予想はしていたが、乗組員はほぼ全員が男性、意識せずともわたしの半裸姿に目がいってしまうようだ。船長はしっかりと目をそらしている。そしてシャルロットは、両手で目をふさぎながら、指の隙間からわたしをちらちら見ている。顔も耳も真っ赤だ。


「ろ、ローゼさん、あの、あなたには、その、アレは……恥じらいというものは」

「そんなもの、戦場で捨てた」


 目まぐるしく状況が変化する戦場にいて、迷いや躊躇は禁物だ。だから女としての恥じらいは徹底的に排除したのだ。……元々そんなになかったけど。


「あーっ! もうダメです! 皆さん、これ以上ローゼさんに性的な視線を向けないでください! このひとの貞操はわたしが守ります!」


 シャルロットがまた、大手を広げてわたしをかばってきた。わたしの半裸に向けられる男たちの視線を遮っているようだ。正直、言っていることは意味が分からないが。

 というか、これでは脱いだ意味がない。シャルロットはたぶん意地でも動かないし、これ以上長引かせると別の問題を引き起こしそうだ。潮時だな。


「よし、それだけまじまじと見たなら十分だな」


 そう言ってわたしは、脱いだ服をまた着用し始めた。あっけにとられる乗組員たちやシャルロットをよそに、あっという間に元の格好に戻ったのであった……。まあ、脱着の面倒な服なんて興味がないから、脱ぐのも着るのも速攻でいけるのだが。


「ほら、シャルロット。わたしの貞操は無事だから安心して」

「あ、はい……」

「というわけで、わたしの身体検査は終わったってことでいいわね。じゃあ、わたし達は爆弾の捜索に行くから、その間に乗組員の身体検査、ちゃんとやっておいてね」

「あ、ああ、分かった……」


 船長が呆然としながらもちゃんと頷いたので、わたしはシャルロットを連れて部屋を出ることにした。変なことで時間を浪費しているうちに、爆弾を探して解体することができなくなってもいけないし。

 と思ったのに、懲りずに呼び止めてくる乗組員がまだいた。


「ちょっと待てよ。もう一人の女の子がまだ、身体検査をしてないぞ。連れていくなら検査しておいた方がいいんじゃねぇか?」

「おぉ、そうだよな」

「そうだそうだ」


 シャルロットも検査すべきという声が急速に広まっている。しかもわたしの時みたいな、嫌悪感むき出しで疑うような感じはない。……絶対に下心があるな、これ。

 いい加減に面倒くさくなったので、わたしはドアの前で一度振り返って、ひと言だけかけることにした。


「くたばれ」


 はい、場が一瞬で凍りついた。しばらく動けず声も出せないだろうから、今のうちに出ていくことにしよう。あんぐりと口を開いているシャルロットの手を引いて、わたしはその場を後にした。


  * * *


 無人の廊下を、シャルロットと連れ立って進んでいく。旅客用と違って、貨物船の内部はそれほど複雑じゃない。その辺の壁に貼られていた、避難誘導用の案内図を見れば、目的の場所への行き方はすぐに吞み込めた。

 とりあえず、最初に行くところは決めている。犯人がこの船に危害を加えるために爆弾を仕掛けると仮定すれば、その場所は自ずと限られてくる。


「あの、ローゼさん……」


 歩いている間も思考を働かせていたが、シャルロットの声でふと我に返る。どういうわけか、シャルロットはまだ顔が赤かった。


「手、まだ繋いでないといけませんか……」

「ああ、すまない」


 考え事をしていて、彼女の手を握ったままなのを忘れていた。すぐに離した。

 てっきりシャルロットは、わたしとずっと手を繋いでいたのが恥ずかしいのかと思っていた。それでも、今は人目がないから気にする必要がないと思うのだけど。だが手を離してもシャルロットの赤面は治まらなかった。


「どうした? また熱が出たのか」

「いえ、ある意味ではそうですが、体調不良とかではなくて……さっきのその、ローゼさんのあのお姿を思い出したら、なんというか……」

「ああ、わたしの半裸姿を見ていたたまれなくなったのか」

「少しはオブラートに包んだ言い方をしてくださいね!」


 怒られてしまった……どうも苦手なんだよな、迂遠なものの言い方というのが。


「というかローゼさんって、思ったより体つきが綺麗ですよね……元軍人さんですから、てっきり筋骨隆々な体型かと思っていたのですけど」


 シャルロットはもじもじと指先を絡ませながら、恥ずかしそうに言った。まあ、下着だけの姿を見せるのは初めてだったし、緊張するのも無理はないが。


「筋肉量が増えすぎると、かえって動きが鈍くなるから、実践向きではないんだ。内側の筋肉とか、あるいは関節や腱を鍛えることはあったけどね。素早く的確に……腕力で男に劣りがちだから、敏捷性で勝負するしかなかったんだ」

「な、なるほど……」

「おかげでライフルの弾も余裕で躱せるようになったよ。今はあんまり使う機会がないけどね」

「そんな機会ないほうがいいです。というかローゼさん、いつの間にか人間をやめていませんか」


 何を言うか。わたしは今も昔も変わらず人間だ。まあ、今も昔も普通の人間ではいられなかった気もするけど。


「ところでローゼさん、これからどこに行くのですか? 船内は広いですし、ある程度は候補を絞っておかないと、探すのは難しいですよね」

「ああ、最初に探す場所はもう決めている。一番下の階、ここでいえば機関室だ」

「機関室、ですか? 確かに、船を動かす機構が壊れたら、かなり厄介ですよね」

「それもあるし、喫水線より下にある所で、もし壁に爆弾が仕掛けられていたら、どうなると思う?」

「あ、そうか……」シャルロットは気づいて青ざめた。「船体に穴が開いて、そこから海水が流れ込んで、船が沈んでしまいます」

「今はコンテナをたくさん積んで、喫水線の位置も高くなっている。船底部分の壁にかかる水圧も強いだろう。一気に流れ込んできた海水に耐えるだけの強度が、船内のドアにあるとは思えない。二、三か所ほど穴が開けば、瞬く間に船の中は海水で満たされ、あっという間に沈没してしまうだろう」


 機関室はスクリューを動かす装置もあるから、普通は船の底、それも船尾に近いところにある場合がほとんどだ。簡単に入れる場所ではないはずだが、犯人が乗組員に紛れているなら侵入は不可能じゃない。コンテナが積まれている船倉(せんそう)からも近いところだし、コンテナを運び入れる作業に紛れて、機関室に侵入して爆弾を仕掛けるのは可能だ。

 犯人がどこまでの被害を目論んだか分からないから、この推測が当たっているとは限らない。これはあくまで、わたしが犯人の立場だったら、と仮定して最悪の場合を考えた結果だ。確かめないわけにはいかなかった。


「大変なことになりましたね……ただでさえ船の中は逃げ場がないのに」

「ああ。まさに、『板子(いたご)一枚下は地獄』だな」

「え? あの、今なんと……?」

「ナオコさんに教えてもらった、ジパニカの慣用句だよ。船は、舟板一枚で底の深い海と隔てられているから、板が壊れたらあの世へ真っ逆さま……という、船に乗ることの危険性を意味する言葉だ。地獄っていうのは、あの世っていう意味だ」

「へえ……そういうのも、ナオコさんが教えてくれたのですね」


 シャルロットの表情がなぜか曇っている。ナオコさんの話をしていると、たまにこうなるみたいだが、理由もタイミングもよく分からない。これも、ろくな人間関係を築いてこなかったツケなのだろうか。


「それより急ごう。解体するための時間は十分に確保しておきたい」

「そ、そうですね! 急ぎましょう!」


 少し速度を上げて、わたしとシャルロットは廊下を進んでいく。


 船の中は地獄と隣り合わせになっているだけで、地獄そのものではない。だが、板子が壊されれば、船内は一瞬で地獄と化す。そんな事態は何としても避けなければならない。

 しかし、不思議なことに、それほど重大な危機が差し迫っているはずなのに、わたしに緊張感はあまり生じていない。戦場にいた時は、有事でない時でさえ緊張感で頭が冴えていたというのに。やっぱり、軍を離れてから感覚が鈍くなっているのだろうか。

 まあ、どうでもいい。今は探偵として、地獄と隔てる壁を守ってやる。


……どこがサービスシーンやねん。

感情欠陥の語り手がセミヌードになっても、煽情的な描写のしようがない。つくづくこの女探偵は色モノに向かない。相棒を脱がせようとすれば「くたばれ」と言われるし、当分サービスシーンは期待できそうにありません……。


ところで、ようやくこの章のタイトルの意味が明かされました。舞台が船ということで、予想していた読者もいると思います。元ネタが日本の慣用句なので、ローゼと日本の関わりを提示するならこの章しかない、という理由で、過去編を延々やってきたわけです。

さて、爆弾探しはどうなるのか。次週、怒濤の展開が待っています。

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