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Section 3-Three

しばらくローゼ単独のシーンが続きます。ご了承くださいませ。


 結論から言うと、役場で新たな手掛かりは得られなかった。コルドバが娘を探しているということは、役場の職員も聞き及んでいたが、特に役場の方で捜索はしていないという。それも当然のことで、捜索願を受理する仕組みというのが、この国にはない。政府機能さえ衰えている現状では、どこの国でも同じようなものなのだ。

 まあ、役場への確認は、最も運よく効率よく見つけられる方法だから、最初にやっておきたかっただけだ。はなから結果など期待していなかった。

 というわけで、次はこの街のあらゆる店を回って聞いてみる。

 何軒か立ち寄って、コルドバから借りたエミリアの写真を見せながら聞き込みを続けるうちに、最初に手応えがあったのは精肉店だった。……より正確にいうと、吊るした枝肉を切り売りしている店だが。


「ああ、この子ね。昔はよく来ていたわよ」


 写真を見せられた中年の女性店主は、迷うことなくそう言ってのけた。


「昔って、いつぐらいの頃?」

「二十年近く前の話だよ。母親と一緒によく肉を買いに来ていたねぇ」


 なんだ、コルドバたちが森に移り住む前の話か……はっきりとは聞いていないが、どうやらコルドバ一家は、移住する前はこの街にいたらしい。


「ああ、そう……で、ここ最近は? 姿を見かけたりしたのか?」

「いいや、全く」店主は首を振った。「というか、前にも別の人に聞かれたことあったけど、あんたもこの子のこと探してるのかい」

「まあね。その、以前に聞いてきた人っていうのは、この子の父親を名乗ってた?」

「ええ、そうだったわね」

「わたしはその父親に依頼されて、同じように娘さんを探している探偵なんだ」

「探偵……って何だい? 聞いたことないね」


 がくっ。この街でも探偵はなじみのない職業なのか……。


「えっと、個人でやる調査業だと思ってくれ。ちなみにこの娘さんの写真は、その父親……コルドバさんから預かったものだ」

「ほお……」


 店主はもう一度、わたしの手にある写真を見る。今度は鼻先がつくくらい接近して、じっと凝視しているが、何か気づいたことでもあるのだろうか。


「……あんたらは、この子を見つけてどうするんだい。連れ戻すのかい」

「そこまでは依頼されていない。ただ消息を知りたいだけだ。生きているのか死んでいるのか、今の時点でどこにいるのか……それを知れたら十分だそうだ」

「賢明だね。この街もよそと同じく、決して治安がいいわけじゃない。ろくでもないやり方で幅を利かせる連中も大勢いて、そいつらに媚を売ることで生きている奴もいる。そういうのに下手に介入すると、どんな痛い目に遭うか分かったものじゃない」


 消息を突き止めたところで、連れて帰るのは容易じゃないと、この店主は言いたいらしい。そのくらいのことはわたしも理解していた。エミリアが道を踏み外して、後戻りできない状況にいる可能性も、ないとは言い切れないからだ。

 まあ、どんな結果に終わったとしても、わたしはありのままの事実を報告するまでだ。それが探偵としての責任だし、そもそもわたしは嘘をつかない。


「それで、この写真の子だけど……確証はないんだが、つい最近見かけた気がする」

「へっ?」


 さっきは全く姿を見てないと言っていたが、急に思い出したのだろうか。反応に戸惑ったわたしをよそに、店主は通りの向こうを指差して話した。


「この道を真っすぐ行ったところに、ユーロピア系の服を売ってる店があってね、その店の前で見かけたと思うんだ。まあ、思い過ごしかもしれんがね」

「そ、それ、いつ頃のこと?」

「いつだったかねぇ……一か月とかそのくらい前だったと思うけど」


 どうも曖昧さの残る話だ。まあ、自分の記憶に絶対の自信を持つ人の方が珍しいのだ、確証がないのも当然といえる。だからこの証言だけで、一か月ほど前までこの街にいたと決めつけることはできない。

 だが、確かめる価値はあるはずだ。


「分かった、その店の人に聞いてみるよ」

「ああ。見つかるといいね」


 店主のおばさんの返事を聞くまもなく、わたしはその服屋へと向かった。


  * * *


「一か月前か……悪いけど、よく覚えてないよ。僕も毎日店頭に立っているわけじゃないからね」


 服屋の店員の青年が、困り果てたような反応を示した。


「そうか……」

「まあ、この店は若い人向けの服を取り扱っているから、このくらいの歳の子が来ても不思議はないと思うけどね」


 話によるとこの店は、ユーロピアの国々から輸入した若者向けの衣服を、格安で売っているという。貿易はほとんど下火になっているとはいえ、季節を問わず着られて性能もいいユーロピアの服は、戦争で家財を失くした人たちに重宝されている。この街を歩く人たちの中にも、特に若年層に、ユーロピアの服を着ている人がちらほらと見受けられる。

 ちなみにこの青年もユーロピアの出身らしい。道理でシャルロットと同じく、この地域の人間にしては肌が白いと思った。


「それで、この子がどうかしたの?」

「四年前に家を出て以来、音信不通ってことで、探してほしいと頼まれた」

「そうなんだ……僕はユーロピアから来てまだ日が浅いけど、この辺りで女の子が生計を立てるとなると、体を売るような仕事がほとんどだって聞いたことがあるよ。その子ももしかしたら、同じようなことに……」

「なっているかもしれないし、そうでないかもしれない。きっちり調べて事実を把握し、依頼主に報告するまでがわたしの仕事だ」

「ああ、探偵さんってそういう仕事をする人だからね」


 ユーロピア出身だからか、この青年は探偵という職業を知っているようだ。


「それにしても、四年か……お父さんも心配しているだろうね」

「まあ実際、心配しているからこそ、探偵に依頼しているわけだし。それより、他の所では見たことないか?」

「うーん……」青年は頬をぽりぽりと掻く。「あんまり覚えはないなぁ。肌の色が濃い人なんてそこら中にいるし、よほど目立つ行動でもしてないと、記憶にも残らないよ。さっきも言ったけど、僕はこの街に来て日が浅いから」

「あなたはいつからこの街にいるの?」

「半年くらい前かな。だからそれよりも前に街を出たり、あるいはヤバい連中の手に渡ったりしていたら、目撃のしようがないんだ」


 やはり人間の記憶なんて、時間が経つほど頼りにならなくなる。肉屋の店主が別の誰かと間違えたのか、それともこの青年が不運にも出くわさなかったのか、今のままではどちらともつかない。分かってはいたが、やはり足取りを追うだけでも厳しそうだ。


「そうだ、うちの店長から聞いたんだけど、ここから西の方に行くと、女の子の体を売って稼いでいる店がたくさんある界隈があるって」

「売春ってやつか。どこにでもあるな」

「そこなら街の女の子の情報が集まっているだろうし、聞いて回れば、その子の目撃情報が出てくるかもしれないよ」


 なるほど……コルドバもさすがに、自分の娘が売春婦になっている可能性は考えない、というか考えたくないだろうから、そうした界隈には足を運んでいないかもしれない。普通に民家を尋ねて回るよりは、収穫があるかもしれないか。


「分かった、行ってみるよ」

「僕から提案しておいてあれだけど、君も女の子なんだから、そういう所に行くときは気をつけた方がいいよ?」

「心配無用だ。その気になれば、素手で息の根を止められる」

「え?」


 冗談ではないが冗談にしか聞こえない発言に、眉をひそめた青年に、店長らしき女性が声をかけてきた。


「ねえ、ちょっとこっち手伝ってくれる?」

「はぁい。じゃあ、僕はこれで」


 そう言って青年はわたしに背を向け、走り去っていった。

ローゼの調査はもう少し続きます。

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