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10.ミレイナ、竜王陛下と再会する(1)


 それを知ったのは全くの偶然だった。


[おはよう、どこに行くの?]

[町に用事があるの。買い物もしたいし]


 家の前の木の幹で羽を休める渡り鳥達に話しかけられたミレイナは、笑顔でそう答える。


 その日、ミレイナはその足でマノンの働くお店にキャロットケーキを買いに行き、その後これまで採集した魔法石を領事館に売りにいった。

 魔法石はアリスタ国では希少な魔力供給燃料なので、販売は領事館で管轄しているのだ。

 ただ、いつもなら領事館の別館なのだが、その日はたまたま床の張り替え工事をしているということでいつもと場所が違い、本館だった。


「はい、どうぞ」


 魔法石の重量と放出する魔力量を測定した役人は、淡々とした様子で銀貨四枚を差し出した。


「銀貨四枚? 以前なら、この量だったら五枚だったわ」

「需要と供給の関係で買い取り価格は変わるんだよ。嫌なら売るのを止めるかい?」

「いえ、ならこれでいいです……」


 ミレイナはしぶしぶ頷いてそれを受け取ると、部屋を出た。


 領事館の本館は木造三階建ての洋館で、横に長い建物の内部には一本の長い廊下が通っている。階段は中央に一箇所だけだ。二階の端の部屋を出たミレイナは、家に帰ろうと階段へと向かう。

 そのとき、遠くから「ラングール国」「竜王」という単語が聞こえてきた気がして耳を澄ました。


(上の階かしら?)


 ミレイナはそっと階上を覘く。人の気配はないので、室内で会話をしているのだろう。

 なんとなく気になって、目を閉じて耳に意識を集中させる。


「本当にうまくいくんだろうな?」

「和平協定を結びたいと話してあり、先方は乗り気です。協定の契約書にサインしたところで乾杯の杯を渡せば疑われません。一気に呷らせれば、いくら竜王でもただでは済まないでしょう」


 ミレイナは断片的に聞こえてきた会話の内容に、眉を寄せた。


(これって……)


 いても立ってもいられず、忍び足で階段を上る。そして、廊下の一番奥、閉まっている扉に耳を寄せた。


「竜王が亡き者になったことで、ラングール国が攻めてくるのでは?」

「それこそがこちらの狙いです。あちらから攻めてきたのであれば、反撃しても国王陛下もなにも言わないでしょう。なにせ、野蛮で粗暴な民族な上に、竜王は『白銀の悪魔』と呼ばれるほどの残虐非道ということにしてありますからね。先方が突然剣を抜いたのでやむにやまれずと言っても、誰も疑わないでしょう。竜王がいないラングール国など恐るるに足りません。明日に備えて、兵力は既に国境沿いに集めてあります」

「なるほど、抜かりないな。かの地を手にいれれば、さぞかし魔力の原料がたくさん採れるだろうな」


 ガハハッと下品な笑い声が上がる。

 ミレイナはあまりのことに、体が震えるのを感じた。


 これは密会だ。

 しかも、ラングール国に和平を持ちかけておびき出したところで竜王であるジェラールを亡き者にして領地を横取りしようという陰謀の。


(大変だわ! ジェラール陛下に知らせないと)


 でも、どうやって?

 ミレイナは呆然とする。

 自分には今、ジェラールと連絡を取る術がないのだ。


 動揺して足下がふらつき、ガタンと音がたつ。


(いけないっ!)


 ミレイナは咄嗟に荷物を物陰に隠し、自身もウサギに変化して廊下に置かれた彫刻の裏に隠れた。


「誰だ!」


 バタンとドアが開け放たれて男達が顔を出す。

 廊下はシーンと静まりかえり、人ひとりいない。念のために階段の下も覗いているのが見えた。


「気のせいか……」


 男達は首を傾げると、再び元の部屋へと戻ったのだった。



    ◇ ◇ ◇



 頭が混乱して、どうやって帰ってきたのかすら思い出せない。

 途方に暮れたまま帰宅すると、家の前で鳥の鳴き声がしてミレイナは顔を上げた。今朝お喋りをした渡り鳥が何かを話しかけてきている。

 ミレイナは辺りを見渡して誰もいないことを確認すると、半獣へと姿を変えた。


[いい買い物はできた?]

[ええ。美味しいキャロットケーキを買ったわ]


 ミレイナは力なく笑うと、手に持っていた紙袋を少し高く掲げる。


[その割に、なんだが元気がないけど?]


 鳥にそう聞かれ、ミレイナは言葉に詰まる。あんな話を聞いて、元気に振る舞えるはずもない。

 部屋から出てきた男に、ミレイナは見覚えがあった。あれは、ミレイナが住む地域──トルカーナ地方一帯を治める領主だ。

 その領主が、明日、和平交渉に見せかけてジェラールを殺してしまおうと言っていたのだから。


(どうにかして、ジェラール陛下に知らせる方法はないかしら?)


 そのとき、ミレイナは鳥達を見てハッとした。彼らに伝言係を頼めばいいのではないだろうか。


[ねえ、お願いがあるの。今日中にラングール国にまでいって、竜王陛下に手紙を届けてほしいの]

[今日中に? それは無理だよ。遠すぎる]

[そんな……]


 ミレイナはせっかく思いついたアイデアが使えないと知り、愕然とした。


[どうかしたの?]

[竜王陛下にどうしても知らせたいことがあるの]

[竜王に? 明日以降でもよければ、届けるけど?]


 ミレイナはゆるゆると首を横に振った。先ほど聞いた話では、明日ジェラールが来ると言っていた。明日、ラングール国に行ったのでは間に合わない。


 ミレイナの泣きそうな表情を見た鳥達が、事情を聞いて首を傾げる。


[じゃあ、これならどう? 明日竜王陛下が来たら、きみに教えるよ。僕らは情報網が広いから、竜王が飛んで来れば気が付くはずだ]

[本当?]


 涙ぐんでいたミレイナは、一縷の望みを見出して目を輝かせた。


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転生した平凡女子、もふもふ好きな竜王陛下に拾われて溺愛される…?
「竜王陛下のもふもふお世話係 ~転生した平凡女子に溺愛フラグが立ちました~」

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