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7.ミレイナ、迷子捜しをする(4)

 そうして入った魔獣の森で、ジェラールは思いもしない景色に出会った。

 ゴーランが急に足を速めたと思ったので急いで追いかけると、そこには魔獣達を連れたミレイナがいたのだ。背中にはクレッグをおんぶしている。


「え、え? もしかして、ゴーラン?」


 背中に子供をおんぶしているせいで両手が塞がっているミレイナは、突然現れたゴーランにただただ驚いているようだった。

 周りではフェンリルの子供達が突然のゴーランの登場に尻尾を振って大喜びしている。


「あ! 伯父上だ!」


 ミレイナの背中で、クレッグが叫ぶ。そこで、ようやくミレイナはジェラールの姿に気付いたようだった。


「伯父上って……えっ! ジェラール陛下!」


 こちらに気付いて目をまん丸にし慌てて頭を下げようとしたミレイナだが、背中にクレッグを負ぶっているせいでバランスを崩しかける。

 ジェラールは咄嗟にその体を支えようと手を伸ばした。その拍子に、目深に被っていたミレイナのケープが脱げかける。


「!?」


 ジェラールは我が目を疑った。

 今、ミレイナの頭にあるはずのないものが見えたのだ。


 ミレイナは慌てたように脱げかけたケープを被り直す。


(まさか……な……)


 ジェラールは恐る恐る、ミレイナを支えているのとは反対の手をミレイナの頭へと伸ばした。ぽすんとケープは頭の形に沿って潰れる。


「あの……、陛下?」


 ミレイナは硬直したまま、ジェラールを見上げている。


「支えてくださりありがとうございます。もう大丈夫です」

「あ、ああ」


 ジェラールは慌ててその体を腕から解放した。クレッグはストンとミレイナの背中から下りて、ジェラールの足に抱きついてきた。


「伯父上!」

「探したぞ、クレッグ。無事でよかった。話は戻ってから聞こう」


 ジェラールはひょいとクレッグを抱き上げる。ミレイナのほうを見ると、何事もなかったようにケープを被ってこちらを見つめていた。


(気のせいか……)


 ミレイナの頭にウサギのような耳が見えた気がしたのだが、見間違えのようだ。


 そもそも、そんなものが生えた人間など見たことがないし、以前ケープを被っていない姿を見たときにもそんなものはなかった。


「歩けるか?」

「はい。大丈夫です」


 ジェラールの問いかけに、ミレイナはしっかりと頷く。


(疲れがたまっているんだな……)


 ジェラールは小さく首を振ると、クレッグを抱いたまま王宮へと歩き出した。



    ◇ ◇ ◇



 王宮ではセシリアが、今か今かとクレッグの帰りを待っていた。

 ジェラールがクレッグを抱いて戻ってきたとき、セシリアはクレッグの名前を呼びながら駆け寄ってきた。近くにいたラルフも足早にこちらにやってくる。


「クレッグ!」

「お母様!」


 クレッグも母親に気付いたようで、ジェラールの腕から降りるとタタタと走ってそちらに駆け寄る。セシリアは数時間ぶりに再会した我が子をぎゅうっと抱きしめた。


「どこに行っていたの。心配したのよ」


 セシリアの泣きそうな声に、クレッグは眉尻を下げる。


「ごめんなさい、お母様。上手に飛べるから大丈夫だと思ったんだ」

「お母様よりも、見つけてくれた陛下にお礼を」


 セシリアに促されてクレッグが振り返ったとき、ジェラールは首を横に振った。


「俺ではなく、ミレイナに礼を。クレッグを見つけたのはミレイナだ」

「うん、そうだよ。あのお姉さんが助けにきた」


 クレッグもそれに同意する。


「まあ、ミレイナさんが?」


 セシリアはミレイナにクレッグを探してくれとお願いしたものの本当に探し出してくれるとは思っていなかったようで、驚いたようにミレイナを見つめる。

 ミレイナは少し気恥ずかしく感じて身じろぐと、後ろを振り返った。


「私と言うより、あの子達が頑張って探してくれました」


 その場にいた全員がミレイナの連れていた魔獣達に注目する。そこには三匹の子供のフェンリルと、一匹の子供のラタトスクがいる。


「そうか、確かにこの三匹はゴーランと同じフェンリルだから、探す能力もあるのかもしれないな。セシリア様の言ったとおりだったということか」


 ラルフがふむと頷く。


「ラトも手伝ってくれました」


 ミレイナはすかさず補足した。ラトが木に登って周囲を見てくれなかったら、クレッグを探し出すことはできなかった。


「あと、ドラゴンが僕を運んでくれたよ。パクって」


 クレッグが興奮気味に説明すると、さすがにその場にいた全員が驚いていた。

 しかし、ミレイナを助けてくれたドラゴンが以前魔獣の保護獣舎にいたドラゴンだったことを告げると、ジェラールは納得したように頷く。


「ドラゴンは愛情深い上に、義理堅い。おそらく、子供のドラゴンを助けてもらった恩を忘れずにいて、今度はお前が困っているのを見て助けてくれたのだろう。どちらにしても助かった。礼を言う」

「いえ、私は何も……」


 ジェラールにお礼を言われ、ミレイナは照れを隠すように両手を振る。


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