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7.ミレイナ、迷子捜しをする(1)

 ミレイナが初めてラングール国に来た頃は朝晩の冷え込みが強かったが、最近はだんだんと暖かな陽気に包まれてきている。

 王宮の庭園を覆う芝生は青々とした絨毯を広げ、花壇には美しい花が咲いていた。


「あ、ネモフィラだわ」 


 庭園の外れで動物たちと日なたぼっこをしてすごしていたミレイナは、芝生の中に瑠璃色の小さな花を見つけて表情を綻ばせる。


 ネモフィラはアリスタ国のミレイナの家の近くにも咲いていて、よく見かけた。


(みんな、元気かなぁ……)


 故郷にいる友人達のことが、ふと脳裏に浮かぶ。

 一番最初に浮かんだのは、親友だった女性──マノンのことだ。ミレイナが獣人であることを知る、数少ないひとりだった。


 親は既にいないけれど、仲良くしてくれる友人がいたから寂しくなく過ごしてこれた。

 みんなは今、何をしているだろう。もしかしたら、ミレイナが急にいなくなったので心配して探しているかもしれない。


[ミレイナ、どうしたの?]


 ネモフィラを見つめたまま感傷に浸っていると、いつの間に近くにきたのか、エミーナが不思議そうにこちらを見つめていた。


[あ。ちょっと、お友達のことを考えていたらさみしくなっちゃったの]

[お友達?]

[うん。私が生まれた国にいるのよ]


 エミーナは少し首を傾げてからミレイナに近づくと、片足をミレイナの膝の上に載せる。


[今は私がお友達でしょ?]


 ミレイナは目を見開き、エミーナを見つめる。

 エミーナの後ろから、他の魔獣達も何事かと集まってきた。


[どうしたの?]

[ミレイナがお友達に会えなくなって寂しいんだって。だから、私が友達だよって言ったの]

[僕も友達だよ]

[僕も、僕も!]


 次々にそう言って慰めてくれる魔獣達に、ミレイナは相好を崩す。


[そうだね、ありがとう]


 首にぎゅっと抱きつくと、ふわふわの毛並みに触れてスーッと寂しさが和らぐのを感じた。


[みんながいるから寂しくないわ]

[うん、そうだよ。それに、ジェラールも毎日会いに来るじゃない? ジェラールも友達だわ]


 エミーナはふりふりと尻尾を振る。

 ジェラールはあの晩以来、ミレイナがいる時間にも時折獣舎に来ることが増えてきた。やはりあそこに来ていることを周囲に知られるのは嫌なようで、薄暗くなった頃が多い。


[ふふっ。そうね]


 竜王陛下をお友達など、恐れ多い。

 けれど、そう言われて悪い気はしなかった。



 

 一時間ほど経っただろうか。いつものように探し物ゲームをしながら魔獣を遊ばせたミレイナは、そろそろ魔獣舎に戻ろうとした。


 そのとき、ミレイナは、ふと遠くが騒がしいことに気付いてそちらを見た。


 庭園を挟んで向こう側、王宮の付近で軍服を着込んだ男性達が一人の女性を囲んでいるのが見える。女性は泣いているのか顔を覆っている。


「どうしたのかしら?」


 もしかして、女性があの男性達に嫌がらせでもされて泣かされているのだろうか。

 そうであれば見過ごすわけにはいかない。

 ミレイナは一旦魔獣達を獣舎に戻すと、すたすたとそちらへ近づく。


 まだ距離は一〇〇メートル以上あったが、耳を澄ませば彼らの会話が風に乗って微かに聞こえてきた。


「もう一度探して!」

「めぼしい場所は探しました。今場所を変えて探していますから、お待ちください」

「いなくなってから半日経っているの。もしかしたら、アリスタ国の密猟者に撃たれたのかもしれないわ」


 その女性はそう言うと、さめざめと泣き出した。周囲にいる軍服姿の男性達がそれを慰めている。


(今、アリスタ国って言ったかしら?)


 ミレイナは思わぬところで故郷の名を聞き、更にその女性に興味を持った。


 遠目に見ても豪華な黄色のドレスを着た二十代前半くらいの、若い女性だ。

 プラチナに近い美しい金髪の上半分を結い上げ、残りは緩くカールさせて垂らしている。大きく開いたドレスから覘く白い肩は、小さく震えていた。


(何か事情がありそうだけど……)


 ミレイナは更に近づき、周りにいる男性の一人に見覚えがあることに気が付いた。

 艶やかな黒髪は短く切られ、瞳は黒曜石のようだ。ジェラールと同じくやや冷たそうに見えるが、より男性的な見た目から印象はだいぶ違う。


 あの人は、確か陛下の側近の──。


「ラルフ様、どうかされましたか?」


 ミレイナはその集団で、唯一面識のあるラルフに声を掛けた。ラルフはハッとしたようにこちらを振り向き、ミレイナの顔を見て拍子抜けした顔をした。


「ああ、ミレイナか。なんでもない」


 ラルフはミレイナに事情を話す気はないようで、早く戻れと言いたげににこりと微笑む。

 その表情を見てこれは自分の出る幕はなさそうだとミレイナがシュンとして踵を返そうとすると、「待って!」と呼び止められた。

 振り返ると、泣きはらした目の女性がすがるような目でこちらを見つめている。


「ねえ。あなた、さっきフェンリルを連れていたわよね? お願い、うちの子を探して。お兄様がいないから探せないの」

「え?」


 突然のことに、ミレイナは困惑した。


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