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6.ミレイナ、露天市にいく(2)

(お詫び)

前話でミレイナの名前を別作品のヒロイン名と書き間違えるという痛恨ミスをしてしまいました。修正するまでの間に読まれた方、混乱させてしまい申し訳ありませんでした。

そして教えてくださった方々、ありがとうございます!


 焼き菓子やドライフルーツ、ナッツなどが置かれている。


「今日のお勧めはドライフルーツだよ。甘くてとびきりうまいぜ?」


 露天商が威勢のよい声でセールストークを始める。ミレイナはたくさん置かれた商品を眺めながら、ふとそのひとつに目を止めた。


(ナツメヤシか……)


 そこには、干したナツメヤシがこんもりと籠に盛られていた。

 ララとして過ごしていた頃、よくジェラールが執務中にナツメヤシのドライフルーツをつまみ食いしてたことを思い出す。


(どんな味がするのかしら?)


 売っているのは時々見るけれど、実は一度も食べたことがない。赤茶色のそれは、前世で子供の頃に駄菓子屋さんで見かけたあんずにも少し似ている。


「これが気になるかい? これはだな、最高級のナツメヤシを太陽の光でじっくりと乾燥させた極上の逸品だ」


 ミレイナの視線に気付いた露天商の営業トークに熱がこもる。


「これ、ください。一袋……、やっぱり二袋で」

「毎度あり!」


 なんとなく気になって、買ってしまった。しかも、二袋も。


 露天商の店主は人のよい笑みを浮かべてナツメヤシをカップで掬うと、それを順番に紙袋に入れた。

 リンダもドライフルーツを買っていたのでそれを待っている間に、ミレイナは袋からひとつ、ナツメヤシを取り出す。


 口に入れて噛むと、予想より柔らかな食感がして甘さが広がった。


(甘くて美味しい)


 これが大好きだとは、ジェラールはあのクールな見かけによらず甘党なのかもしれない。

 そんなことを思って表情を綻ばせていると、商品を買い終えて紙袋を持ったリンダが不思議そうにこちらを見つめていた。


「ミレイナ、楽しそうだね?」

「え? そうかな?」

「ナツメヤシがそんなに好きだなんて知らなかったわ。二袋も買うなんて」

 

 リンダの視線はミレイナの手元に向いている。


「あはは。美味しいよね」


 ミレイナはへらりと笑って誤魔化す。





 そのとき、リンダの後方の遙か遠くを竜が飛んでいるのが見えて、ミレイナは目を細めた。後ろに誰かが乗っているように見えたのだ。


「あの竜、誰か乗っている?」

「え、本当?」


 リンダが後ろを振り返り、そちらを眺める。


「ああ、あれ。いいなあ」

「え?」

「あれはデートよ。前に言ったじゃない。竜化した男性の背中に乗せてもらえるのはね、特別なデートなんだよ。ほら、飛んでいるときの背中って無防備になるでしょ? そこに乗せるくらいだから、『あなたは私にとって、特別な人です』って愛の告白をしているのと同じなの。プロポーズみたいなものかな」

「へえ……。素敵ね」


 確かに、以前そんな話を聞いた気がする。


 ミレイナは薄らと茜色に染まった空を悠然と飛ぶ竜を見つめる。

 ミレイナは空を飛ぶことができない。あの背中に乗ったら、一体どんな景色が広がっているのだろうと思った。



    ◇ ◇ ◇



 ミレイナとリンダが王宮に戻ったのは辺りがすっかりと薄暗くなった頃だった。

 随所にある灯籠に魔法の光が点され、幻想的に王宮を浮かび上がらせている。


(今日の午後は魔獣舎に行っていないけど、みんな平気かしら?)


 ふと、午前中だけ世話しておいてきた魔獣達はどうしているだろうと心配になった。ご飯はしっかり用意したし掃除もしてきたのでなにも心配はいらないはずなのだが、なんとなく気になったのだ。


「リンダ。私、ちょっと魔獣舎に寄って行くね」

「え、今から? 一緒に行こうか?」

「ううん。大丈夫」


 ミレイナは笑顔でリンダに別れを告げると、目的の場所へと向かった。


 魔獣舎に近付いたとき、ミレイナはそこに誰かがいることに気が付いて足を止めた。魔獣の遊び場と王宮の庭園とを隔てる柵の前で座り込む人影があったのだ。


(誰だろう。珍しいな)


 ミレイナが魔獣係になってから、誰かが好んで獣舎に近付いてくることなど一度もなかった。


 奇妙なことに、その人はいつもミレイナがきているようなケープを頭から被っていた。よく見ると、その人物は自分のところに集まってきている魔獣に何かを与えているのも見える。


「あの、どうかされましたか?」


 ミレイナは恐る恐る、その人に声を掛けた。

 ミレイナが近付いてきたことに気付いていなかったようで、振り返りざまに見えたケープの下の水色の瞳は驚いたように見開いていた。


「……ジェラール陛下?」


 髪色はケープで隠れてよく見えないが、彫刻のように整った顔立ちは間違いなくジェラールのものだ。なんでこんなところに竜王陛下が? と疑問に思ったものの、ミレイナはすぐにピンときた。


「もしかして、この子達に会いに来てくださったのですか?」


 ジェラールは一瞬視線を漂わせると、すっくと立ち上がる。


「たまたま通りかかった。お前達の働きぶりを確認しにきただけだ」


 たまたま通りかかるのに、都合よく餌を持っていて、しかもこの格好はないだろうに。


 ミレイナは、ジェラールという人のことがだいぶわかってきた。

 恐らく、本当は大のもふもふ好きだ。でも、もふもふと戯れにきたというのが恥ずかしく、竜王としての威厳を保つためにそう言っているのだろう。


 相変わらずの態度に、思わず口元がにやけそうになる。


 

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