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5.ミレイナ、ドラゴンを保護する(4)

 その十分後、ジェラールが魔獣の保護獣舎に行くと、ケープを深く被って肩にラタトスクを乗せたミレイナが、三匹のフェンリルと一匹のドラゴンを後ろに引き連れ出かけようとしているところだった。


「どこへ行く?」


 ジェラールが声を掛けると、ミレイナは驚いたようにこちらを見た。ケープを目深に被っているせいで、視界が狭く気が付かなかったようだ。


「ジェラール陛下! ああ、びっくりしたわ」


 ミレイナの後ろに付いていたフェンリル達が飛び出してきて、ジェラールの周りを嬉しそうに回る。

 ミレイナは目深に被っていたケープを両手で整えると、益々目深に被った。こんなに目深に被って、視界の邪魔にならないのだろうかと余計な心配が湧くほどだ。


「この子達のお散歩に行こうと思います。今日は、ラドン──このドラゴンを陛下が拾った辺りにいこうと思うのです。もしかしたら、親ドラゴンが見つかるかもしれないから」


 そういうと、ミレイナは少し屈んでまだ腰の高さほどしかない小さなドラゴンの頭を撫でる。

 ドラゴンは嬉しそうにグルグルと喉を鳴らした。親ドラゴンを探すということは、傷が癒えているので見つけられたらそのまま野生に返すつもりなのだろう。


「もう、傷は完全に癒えているのか?」

「はい。昨日も今日も飛ぶ練習をしていたのですが、問題なさそうでした。親ドラゴンがいれば返してあげるのがいいかと」


 ミレイナはこくりと頷く。

 そして、まるで鳴き声に耳を傾けるかのようにフェンリル達を見つめてから顔を上げると、まっすぐにジェラールを見つめてにこりと微笑んだ。


「よろしければ、陛下も行かれませんか?」

「俺も?」

「はい。息抜きになるのではないかと思いまして。今日もやっぱりお忙しいですか?」 


 ミレイナに微笑みかけられて、ジェラールは返答に迷った。

 正直言うと、忙しい。


(数時間程度なら、夜に仕事をすれば遅れを取り戻せるか……)


 あまりにも時間が掛かりそうであれば、自分だけ先に戻ればいいだけだ。


「わかった。いいだろう」

「よかった。この子達も喜びます」


 ミレイナは嬉しそうに笑ったが、ふと笑みを消してジェラールを見上げる。


「陛下。ケープを被られますか?」

「ケープ?」


 ミレイナは頭と体がすっぽりと隠れる、くるぶし丈の赤茶色のケープを被っていた。ここに来ると、いつもこの格好をしている。


 ミレイナの視線が自分の髪に向いていることに気づき、ジェラールは何を言わんとしているのかを悟った。

 実をいうと髪の色は魔法で変えられるのだが、ミレイナはそれを知らない。たしかに、髪色を変えても格好や顔を見て竜王だと周りに悟られては、それはそれで面倒だ。


「ケープは余っているか?」

「はい。洗い立てのものがあります。男女兼用のものなので陛下も着ることはできるかと」


 ミレイナは一旦獣舎のほうへと戻ると、綺麗に折りたたまれたケープを手に戻ってきてそれをジェラールに手渡した。ミレイナが着るとくるぶし丈まで隠れるのに、ジェラールが羽織ると膝までしか隠れない。けれど、豪奢な衣装や整いすぎた顔を隠すのにはなんら問題なかった。


「歩いていきますが平気ですか?」

「問題ない」


 ジェラールが頷くと、ミレイナはほっとしたように表情を緩め、自分とジェラールの姿を見比べるとはにかむような笑みを浮かべる。


「ふふっ、お揃いですね。では、行きましょう」


 髪の毛をすっぽり隠すように被ったケープからは、太陽の匂いに混じって甘い花のような香りがした。



    ◇ ◇ ◇



 ミレイナ一行はいつものように王宮の庭園を突っ切って裏口へと向かう。

 雨が降っていなければ一日最低一回は散歩にいくようにしているので、だいぶ慣れたものだ。


 途中、ミレイナはメイド服姿の一行が前から歩いてくるのに気付いた。集団はミレイナ達に気付くと、こそこそなにかを話しながら、脇道へと逸れてゆく。


「見て、あの子まだ辞めていなかったのね」


 こちらを見つめるメイドの一人がそう言うのが聞こえ、ミレイナはそちらに視線を向けた。


「まあ! 先日陛下の元に押しかけて罰を受けたというのに、今度は下男を誘惑しているなんて。本当に節操がないわ」


 若いメイドが驚いたように口元に手を当ててこちらを見つめている。


「およしなさい。人には釣り合いというものがあるのです」


 落ち着いた態度でそれを制したのは、いつぞやにジェラールの部屋にお茶を運んできた、あの金髪のメイドだった。


「そうですわね。下女と下男なら確かにお似合いですわ。それにしても、よく陛下のお部屋まで入り込むことができたものだわ。知らない間に入り込むネズミみたい」

「まあ、ネズミですって!」


 ほほほっと嘲笑の笑い声がしてミレイナはムッとした。

 正々堂々正面から本人に案内されて部屋に入りましたけど、なにか? と言ってやりたい。もめるだけだから、言わないけど。


 それにしても……、とミレイナは金髪の美少女を眺める。


 あのメイドは一見周りを窘めているように見せかけて、ミレイナのことを侮辱している。


「やっぱり、陛下にはレイラ様のような方がお似合いです。こんなに長く陛下付きの侍女をされているのはレイラ様しかいらっしゃいませんし。今度の舞踏会が楽しみですね」

「まあ、うふふっ。ありがとう」


 金髪のメイドがまんざらでもなさそうにうふふっと笑う。


(あの人、レイラっていう名前なのかしら)


 相変わらず、見た目は抜群に美しい人だと思う。

 ぱっちりとした目に、美しい金の髪。愛らしい笑顔は人々の庇護欲をそそるだろう。


「ミレイナ」


 そのときだ。背後から声を掛けられて、ミレイナはびくりと肩を揺らした。


「さきほどからあちらを見ているが、あの者達がどうかしたのか?」


 振り向くと、ジェラールが怪訝な表情でこちらを見つめていた。

 ウサギ獣人であるミレイナは通常の人に比べて格段に耳がいい。今の会話も一言一句しっかりと聞こえたが、ジェラールには何も聞こえなかったのだろう。


「いいえ、なんでもありません。早く行きましょう」

「そうか?」


 ジェラールは不思議そうな表情でミレイナが見つめていた方向に視線を向けたが、それ以上は追求せずにミレイナに従った。


(せっかくのお出かけなのに、最初っから気分をそがれちゃったな。あなた達が下男呼ばわりしているこの人が竜王陛下なんだけどねっ!)


 ミレイナは湧き上がるイライラ感を振り払うと、再び歩き始めた。

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