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5.ミレイナ、ドラゴンを保護する(2)

  ドラゴンを保護した翌日、ミレイナはまだ明け方の魔獣舎の扉を開けた。シンと静まりかえった空気に、カチャンという金属がぶつかる音が溶ける。


(あの子、少しは元気になったかしら?)


 ミレイナは恐る恐る獣舎の中を覘いた。藁の上で昨日保護したドラゴンは大人しく座っているのが見えた。ミレイナの気配に気が付いたようで、長い首を持ち上げてこちらを見つめている。


 餌入れを覘くと、中に入れていた木の実や葉っぱは全てなくなっていた。食欲はあるようだと、ホッとする。


 [おはよう。調子はどう?]


 ミレイナが笑顔で問いかける。

 ドラゴンは首を傾げて「ギャア」と鳴いた。


(あれ……?)


 ミレイナはもう一度[おはよう]と声をかけた。しかし、返事はやっぱり意味をなさない「ギャア」という音だった。


(もしかして、ドラゴンには言葉が通じないの?)


 ミレイナは衝撃を受けた。


 今まで、半獣の姿でドラゴンに話しかけたことがなかったので知らなかった。もしかすると、魔獣は魔獣でも普通の動物の姿に近い他の四匹とドラゴンでは、大きく種別が異なるのかもしれない。


 昨日もこのドラゴンは一言も喋らなかったけれど、それはしらない場所に警戒しているだけだと思っていたのだ。


(どうしよう。言葉が通じないと、困ったことがあっても聞けないわ)


 けれど、ミレイナはすぐにこの弱気な考えを打ち消した。

 そもそも、前世でペットショップで働いていたときだって、犬や猫の言葉がわかったわけではない。それでも、様子を見ながら感情を読み取ってきた。

 今のところ澄ました様子で座っていて食欲もあるのだから、きっと調子はいいはずだ。


 [でも、名前がないと不便ね……]


 ミレイナはそのドラゴンをじっと見つめる。


 [うーん、『ラドン』はどう?]


 ミレイナはおずおずと『ラドン』と呼び掛ける。

 ラドンはミレイナを見返し、「ギャア」と鳴いた。ミレイナはその様子を見て、きっと気に入ってくれたのだと思って相好を崩す。

 そして、今日も頑張ろうと気合いを入れた。



 ◇ ◇ ◇



 その日の午後、ミレイナは早くも困ったことに直面していた。

 ラドンが歩いて岩山に登り、飛ぶ真似をしているのだ。しかし、翼を痛めているので当然飛ぶことはできない。


 [ラドン! 傷が開いちゃうから戻っておいで!]


 ミレイナは岩山の下から呼び掛ける。しかし、ラドンは首を傾げてこちらを見返すだけで、また同じ事を繰り返そうとする。


(困ったなぁ……)


 昨日怪我したのだから、まだ傷は塞がっていないはずだ。

 あんなに羽ばたく練習をしては、また傷口が広がってしまう。

 どうしたものかとミレイナが頭を抱えていると、俄に四匹の魔獣達が騒がしくなった。


 [ジェラールとゴーランが来たよ!]

 [ジェラール!]

 [ゴーラン!]


 口々にフェンリル達が叫ぶ名前を聞いて、ミレイナは慌ててケープの下の耳と尻尾を消す。背後を振り返ると、すでにゴーランを連れたジェラールは至近距離にいた。


(危なかったわ……)


 ミレイナはホッと胸をなで下ろす。

 ケープのフードを被っているとは言え、出来るだけ自分が獣人だと知られるリスクは減らしたい。


「昨日保護したあいつの様子はどうだ?」


 魔獣舎に入ってきたジェラールは、ミレイナの顔を見ると開口一番にそう聞いてきた。きっと自分が保護した魔獣が元気にしているか、心配していたのだろう。


「それが、少し困っております」

「困っている?」


 ジェラールが怪訝な顔をしたので、ミレイナは説明するより見せた方が早いと、ラドンの元にジェラールを案内した。


「元気になっているではないか」


 何に困っているのかわからないと言いたげに、ジェラールはこちらを見る。


「あんなに羽ばたいては、傷口が広がってしまいます」


 ミレイナが眉尻を下げると、ジェラールは何かに気が付いたようにハッとした。


「そうか。アリスタ国にはドラゴンがいないのだったな。ドラゴンは魔力が強く、傷を癒やす再生能力も普通の魔獣の倍以上だ。あれくらいの動きであれば、問題ない」

「え? そうなのですか?」


 ミレイナは驚いて聞き返す。


「そうだ。現に、実際に飛んではいないだろう? 飛ぶほど力を入れれば傷口が開くと分かっているから、自分で加減している」

「へえ……。知らなかったわ」


 ミレイナは感心しながらラドンを眺める。

 やはりドラゴンは普通の魔獣とは一線を画する生き物のようだ。


「次にドラゴンが保護されたときに備えて、よく覚えておきます。他に、ドラゴンを保護する上で知っておかねばならない事はありますか?」


 ミレイナはジェラールを見上げる。空のような美しい青い瞳と目が合った。


「そうだな……。可能な限り、早く森に返したほうがいい」

「可能な限り早く? それはなぜですか?」

「ドラゴンは家族愛がとても強い。(つが)えば一生その相手しか愛さないし、子供のことを何よりも大切にする愛情深い生き物だ。きっと、あいつがいなくなって、親ドラゴンは今も探しているはずだ」


 愛情深いと聞いて、ふと思い当たることがあった。

 ジェラールもペットとして二週間過ごしただけのララを必死に探していた。もしかすると、ドラゴンだけでなく竜人もそういう傾向はあるのではないかと思った。

 未だになぜミレイナを食べるだなんて言ったのかだけが謎だけど。


「そうですか。では、早めに返すようにします」


 ミレイナはこくりと頷く。


 ふとジェラールの足下を見ると、魔獣達が集まってきていた。きっと、みんなジェラールやゴーランと遊んでほしいのだ。

 けれど、ちょっと様子を見に来ただけの忙しいジェラールを掴まえて遊んでやってくれと言うのは無理があるかなとも思い直す。


「陛下。よろしければ、この子達を撫でてあげてください。とても喜ぶので」


 ミレイナは少し考えてからそう声をかけた。ジェラールは驚いたようにミレイナを見返し、自分の足下で尻尾を振る魔獣達に視線を移す。

 ジェラールが手を差し出すと、魔獣達はより一層尻尾を強く振った。


「可愛いでしょう?」


 大喜びする魔獣達を見て、ミレイナまで嬉しくなる。この子達は、ジェラールとゴーランが大好きなのだ。


「生き物と触れあうと、気持ちが和みます。いつでも遊びにいらしてくださいね」


 ミレイナが笑顔を向けると、ジェラールはなぜか少し困ったような顔をした。



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