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5.ミレイナ、ドラゴンを保護する(1)

 魔獣係に任命されて一週間。

 この仕事は思った以上に自分に向いていた。


 すっかりとミレイナに懐いている魔獣達はいつも愛想を振りまきながら寄ってくる。尻尾を振りながらトタトタと擦り寄ってくるのが、本当に可愛いのだ。

 たまにリンダも手伝いに来てくれるので、そんなときは半獣にならない代わりにリンダと楽しくお喋りしながら作業をしている。


 そんなこんなで、ミレイナは毎日とっても楽しく魔獣係をこなしていた。


[おはよう!]

[おはよう、ミレイナ!]


 この日も、朝ミレイナが魔獣舎に向かうと、四匹の魔獣達が走り寄ってきた。ミレイナは体を低くすると、順番に彼らを抱き留める。


[はい、順番ね。まずはシェットからよ]


 ミレイナが声を掛けると、黒い耳をぴんと立てたフェンリルのシェットがミレイナの腕に飛び込んできた。ミレイナは魔獣達の状態を目視で確認する。

 ミレイナは半獣になれば魔獣と喋れるので彼らに直接体調を聞くこともできるが、その他にもこうやって毎日健康に問題がないかをチェックしているのだ。


 今日も異常はなく、四匹の魔獣はミレイナがオーケーを出すと元気に遊び回っていた。


(さてと。先に獣舎の中の片付けでもしようかしら)


 ミレイナは魔獣達が外で遊んでいる間に、屋内を清掃することにした。黙々と作業をしていると、エミーナがミレイナの様子を見に来た。


[ミレイナは遊ばないの?]

[ええ、先にお掃除しちゃうわね]

[私、またこの前の遊びしたいわ]


 エミーナはミレイナの足下にちょこんと座る。

 先日、ミレイナはフェンリルの鼻のよさを利用して『探し物ゲーム』をした。ミレイナのハンカチを屋外も含めた広い魔獣の保護施設のどこかに隠し、それを彼らが探してくるという遊びだ。エミーナはすっかりとこの遊びが気に入ったらしい。


[じゃあ、また後でやりましょう]

[本当?]

[ええ。約束ね]

[やったぁ!]


 エミーナはぴょんぴょんとその場でジャンプをして喜びを表わす。しかし、ふと動きを止めると鼻をひくひくとさせた。


[血の臭いがするわ]

[血?]


 ミレイナは箒を持っていた手を止めて眉を寄せる。


(もしかして、外でシェットあたりが怪我をしたのかも!)


 シェットはやんちゃなのでいつも岩山から飛び降りて遊んでいる。足を滑らせて大怪我でもしたのかもしれないと、ミレイナは慌てて外に飛び出す。

 そして、獣舎の入口にいた人物にヒュッと息を呑んだ。


「……ジェラール陛下?」


 そこには、こちらに近付いてくるジェラールがいた。

 頭を隠すケープを被っているので姿は見られていないはずだけれど、ミレイナは咄嗟に耳と尻尾を消して完全な人へと姿を変える。


「こいつを保護してきた」

「こいつ?」


 よくよく見ると、ジェラールは何かを大事そうに抱えていた。ミレイナはジェラールが腕に抱えているものを恐る恐る覗き込む。


「これは、ドラゴンですか?」


 サイズは体長五十センチ程とさほど大きくもないが、それは紛れもなくドラゴンだった。

 体は赤茶色の鱗に覆われており、足下だけが黒い。こちらを見つめる金色の瞳には縦に瞳孔が走っていた。


(もしかして、竜化した人?)


 ラングール国にいる竜人は人型と竜型の二つの姿を取ることができる。

 もしやこのドラゴンは竜化した人なのかとミレイナが不安げに見つめると、ジェラールはそんなミレイナの心を読んだかのように首を横に振る。


「これはただのドラゴンだ。翼を怪我して倒れているところをゴーラン──俺の従獣だ──が見つけて保護した。恐らく、巣立ちに備えて飛ぶ練習をしていたところで落ちて、動けなくなったのだろう。翼の手当はしてある」


 確かに、よく見ると翼の付け根に包帯が巻いてあった。


「ドラゴンはどんな住環境を好むのか、教えて貰える人を紹介してもらえませんか? よく知らなくって」

「なんだ? 先日、魔獣の世話は自分に任せろと言っていたのに」


 ミレイナはその皮肉交じりの言い方に、少しムッとした。


「これまでは世話をする対象にドラゴンはおりませんでした。アリスタ国にドラゴンはいませんでしたので、世話をしたことがないのです。実際に見るのも初めてです」


 あの弓矢で打たれた日に空を飛んでいたのをのぞけば──と、ミレイナは心の中で補足する。口には出さないが。


「ああ、そうか。悪かった」


 ジェラールは少し気まずそうに視線を逸らした。

 ミレイナはジェラールの足下に集まる四匹の魔獣達に目を向けた。

 四匹ともしきりに何かを言っているが、残念ながら、完全な人型になっているミレイナにはただの鳴き声にしか聞こえない。


「切り立った崖の上に巣を作って暮らすことが多い。小枝を集めた、鳥のような巣だ。これは草食のドラゴンだから、餌は果物や木の実でいいはずだ」


 ミレイナはぱっと顔を上げる。鳥のような巣ということは、とりあえずは獣舎内にある藁で代用できる。


「教えてくださり、ありがとうございます」


 笑顔でお礼を言ったミレイナは、大急ぎで藁をかき集め、即席の巣を作る。ジェラールはその巣に、そっとドラゴンを置いた。


「気になることがあったら、医務室に行けば見てもらえるように伝えておく」


 ドラゴンは初めての場所に落ち着かない様子で辺りを見ていた。



 気が付くと、先ほどまで晴れ渡っていた空をいつの間にかすっかり分厚い雲が覆っているのが小窓から見えた。

 ザーザーと大地を叩く雨音が、獣舎内まで響いている。


(大雨だわ……)


 ミレイナは獣舎の入口から外を見る。石張りの床はすっかり水に濡れ、色が変わっていた。エミーナと探し物ゲームをしようと思っていたけれど、これでは無理そうだ。


「ひどい雨だわ。雨に降られる前に保護できてよかったですね」

「そうだな」


 ジェラールはそう言うと、暫しの間小窓から灰色の空を見上げる。


「ウサギは──」

「はい?」


 ジェラールが何かを言いかけたので、ミレイナは聞き返した。


「ウサギはこんな大雨の日に、どうしている?」


 ミレイナはうーんと考えて、首を傾げる。


「そうですね……。地面に掘った巣穴の中で寝ていると思います」

「そうか。濡れているわけではないのだな?」


 ジェラールの一見冷たく見える表情が、ホッとしたように緩むのがわかった。


(もしかして、まだララのことを心配しているのかな)


「もしかして、以前探していたと仰っていたうさぎを心配されているのですか?」


 ジェラールは答えることなく、獣舎の入口部分、雨の打ち付ける地面を眺めている。


「きっと今頃、気持ちよくお昼寝して幸せな夢を見ていると思いますよ」


 ミレイナが笑顔でそう声を掛けると、ジェラールの口の端が少しだけ上がる。


(あっ。今、わらった?)


 すぐに無表情に戻ってしまったが、ララに見せたようなジェラールの自然な笑顔に、ミレイナも思わず笑みを溢した。


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