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3.ミレイナ、魔獣係になる(4)

 その日の夕方、ミレイナはメイド長の部屋へと向かった。

 隣を歩くのは、意気消沈した様子のリンダだ。リンダはミレイナを心配して部屋の前まで一緒に行くと言って聞かず、付いてきてくれた。


「ミレイナ、ごめん……」

「いいのよ。元はと言えば、私が魔獣の保護施設に近付いたりしなかったらこんなことにはならなかったんだから」

「でも、そのせいでミレイナが……」


 リンダは泣きそうな表情を見せる。


「メイド長、怒るかしら?」


 ミレイナは、昨日の朝話したばかりの落ち着いた中年の女性を思い浮かべる。


「今日辞めてしまった人に怒ることはあっても、ミレイナに怒ることはないと思うんだけど……。でも、ごめんね」


 リンダはまた泣き声で謝罪する。

 ミレイナは「大丈夫、大丈夫」と明るく笑い飛ばした。


 メイド長の部屋は、王宮の一階の一角にある。ミレイナはスーッと息を吐くと、ゆっくりとドアをノックした。


「どうぞ」


 硬い声が聞こえ、ミレイナは一人で入室すると後ろ手でパタンとドアを閉じる。メイド長は執務机に向かい、何かの書類に目を通していた。


 メイド長は、少し吊り目のまじめな雰囲気の女性で、オールバックにした髪を後ろでお団子にしている。

 年の頃は四十歳前後だろうか。ミレイナが会うのはこれが二回目で、一度目はメイドとして働き出すことが決まった昨日の朝だ。

 リンダによると、若いときはまだ幼かった現竜王陛下であるジェラールのお世話係をしていたらしい。


 作業が終わるまで待とうと、じっとしていると、ようやくメイド長が顔を上げる。


「話は陛下の使いの者から、概ね聞いております。陛下の魔獣の収集癖は困ったものね。傷ついていると放っておけないようで、ようやく元気になっていなくなったと思うとまたどこからか拾ってくるのよ」


 メイド長はそう言うと、はあっと息を吐いた。

 

「魔獣係が早々に辞めてしまったのは想定内だとして、あなたはその後任に立候補したそうね? 本気かしら?」


 銀縁眼鏡の奥の深緑の瞳がこちらの真意を探るように眇められる。

 リンダから話を聞いた限り、魔獣係はなりたがる人が少ない上に、みなすぐに辞めてしまうらしいので、自ら立候補するというのは信じられないのだろう。


 じっと見つめられて居心地の悪さを感じる。

 けれど、ミレイナは唇を引き結ぶとしっかりと頷いた。


「本気です。私、以前に動物のお世話をする仕事をしていたんです」


 以前と言っても前世だけど、とはもちろん言わない。


「でも、アリスタ国に魔獣はいないのではないかしら?」

「確かに、アリスタ国には魔獣はいません。けれど、魔獣を魔力を持つ動物の一種だと思えば、さほど変わらないと思います」


 メイド長は少しの間、じっとミレイナの顔を見つめる。そして、ふむと頷いた。


「話はわかったわ。では、明日よりあなたを魔獣係に配置します。しっかりと役目を果たすように」

「っ! はい!」


 ミレイナはコクコクと頷く。

 元来動物は好きなので、魔獣係になることに抵抗はない。

 問題は、あの獣舎の魔獣達がミレイナに懐いてくれるかどうかだ。


(あの獣舎は本当にひどい有様だったわね……。頑張らなくっちゃ!)


 ミレイナは並々ならぬ闘志を燃やしたのだった。



    ◇ ◇ ◇



 その後、ミレイナはメイド長から直接魔獣係の仕事内容について説明を受けた。今日まで魔獣係をしていた人が引き継ぎをすることもなく、急にいなくなってしまったからだ。

 メイド長によると、数時間前にメイド長室に押しかけて魔獣係が嫌だと大騒ぎを始めたので今度は洗濯係にしようとしたところ、立腹してメイド自体を辞めてしまったという。


「彼女のご実家には強く抗議しておくわ。どの係に宛がっても『自分は違う職場がいい』と言っていい加減なことばかりするから、もう四度目の配置換えだったのよ。でも、まさか二日でこんなふうに辞めてしまうなんて。侍女役になりたかったのでしょうけど、こんな仕事ぶりでなれるわけがないわ」


 メイド長ははあっと嘆息する。

 侍女役というのは、高位文官などのお茶出しをしたりする役目で、メイド内では花形の職場のようだ。


「──だいたい以上よ。必要な清掃道具は魔獣の保護施設の獣舎の裏に置いてあります。餌は王宮内の調理場から不要になったものを分けてもらってちょうだい」


 毎週のように人が変わっているせいか、メイド長の説明は慣れたものだった。何も見ることなくすらすらと話してゆく。


「何か確認したいことはある?」

「獣舎のことで何かしたい場合は、誰にご相談すれば?」

「あそこの魔獣は全て陛下が気まぐれに連れ帰られたものだから、そういったことが必要なら、側近のラルフ様にお伝えるように」

「わかりました」


 ミレイナはこくりと頷く。

 ラルフとは確か、ジェラールの側近だ。人間として王宮に連れてこられた翌日に話をしたから、顔は覚えている。


「他には何かある?」


 メイド長に聞かれ、ミレイナは少し考えてからおずおずと口を開いた。


「作業用に、フード付きのケープがほしいのですが用意して頂けないでしょうか? ほら、埃とかがひどそうなので……」

「わかったわ。手紙を書くから、それを持って衣装部屋にいって受け取っていらっしゃい」


 メイド長は特に疑問を持つことなく頷く。


「ありがとうございます!」


 ミレイナはぱあっと表情を明るくして、お礼を言った。

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