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第9話 勉強

 「じゃあ今度の解説は食べる事の出来る魔物と食べられない魔物を教えようかな、あんまり興味が無いなら別の話にするよ?」


 「興味あります、砂エビと擬態蟹は美味しかったです!」


 礼儀正しく手を上げてシオンがニーアの解説に興味津々の態度をとる。


 2匹のフェブリを討伐し家に帰りついた後、採取した木の実や果物を村長宅に預け、同時に討伐数を報告。残りの時間はシオンの勉強に充てようとニーアの提案だ。とは言っても今まで狩って来た獲物の特徴や味、何故食べられないかなどの基本味覚に正直な勉強と言える。しかし知っていれば「何か」があった時には役に立つ、知らないよりは僅かでも身になれば良い。そんなニーアの気持ちからの勉強。


 「美味しいとすぐに覚えるよね、キッカケは何であれ学ぼうとする気持ちが大切だ。シオンには教え甲斐があって私は嬉しいよ」


 遅めの昼食を採りながら革鎧を脱ぎ、上機嫌に解説は始まる。


 「そもそもの話、さっき倒したフェブリは何で食べないと思う?分からなくても良いからシオンの考えを言ってみて」


 「そう、ですね……多分、ヒトの形に近いから?」


 「それもあるけど大体が単純に不味いんだってさ、私は食べた事が無いけどフェブリを食べるとお腹を壊すんだって」


 「お腹を壊す……菌とか毒のせいでしょうか」


 「きん、はよく分からないかな。何だいそれは?」


 ニーアの返答にシオンは困り果てた表情で返す。それもそのはず「菌のせい」だと言われても、その「菌」の発見がこの世界ではされていない。そしてそれをTVの知識などで知ってはいてもシオンには説明が出来ない。


 パンのような麦の粉を発酵させて膨らませるのは単に経験則で知っている物、伝えられた物であり、それが菌の作用で行われるとは発見がなされていないのだ。故にシオンは頭をフル回転させて拙くも答えを捻り出す。


 「目に見えない……小さな、生き物が……体にいい事や悪い事をするんです。僕も詳しくは分からないですが菌とはそんな感じの生き物です」


 シオンの言は当たらずとも遠からず。詳しく説明するならばまだ他にも沢山ある。だが真剣な表情で説明をするシオンの言をニーアは信じた。


 「目に見えない小さな生き物……シオンは物知りなんだね。元居た所の知識なのかな」


 「そう、ですね。地球の日本と言う場所からどうやってかここに来てますね。僕は異世界人……です」


 「異世界人……そして今は私の家族だよ」


 ニーアはシオンの手を握りそう伝える、シオンの方は「家族」の言葉にただコクリと頷く。


 「じゃあ勉強の続きだね。次は植物の魔物の話をしようか、ここらにも出て来るんだけど動物なら魔物も人も関係なく襲ってくるシャトーレって魔物がいるんだ。ソイツを見つけたらすぐに狩らなければならない」


 「危険な魔物なんですか?」


 「いいや、ソイツの実がとっても美味しいんだよ」


 「……重要ですね」


 そんな気の抜けた話を夜まで続けながら2人は今日を過ごす。何気ない日常風景は2人にとってとても重要なモノであり、この世界においても貴重で贅沢なモノの1つである。




 夜が明ける。朝日が射し込んで明るさと薄暗さが同居したそんな時間、ムクリとシオンは起き上がる。隣には勿論ニーアが眠っている、その事を確認するとそこから抜け出し村の中へと移動した。


 何となくの行動だ、何気に1人で村の中を歩くのは初めてで、起き上がった時点では村の散策をしようなどは思ってもいなかった。単純に興味の表れ、いつも付き添ってくれるニーア無しで歩くのはどんな気分なのだろう、そんな気まぐれの行動。


 シオンは辺りを見回す。村人の住居、ニーアの家もほぼ同じ仕様なのだが掘っ立て小屋に藁を混ぜた土壁が張り付き、藁で編んだ縄にはタケで出来た竿が通され、そこには草鞋のような物が括り付けられている。他にも草の束が多数、ヨモ草を乾燥させているのだ。


 他にはタケ製品の大きなザルや籠が土壁に立てかけられており、どことなくTVで見た事のある日本の田舎の風景のようだとシオンは思った。


 村の中を歩く。畑には無数の野菜やヨモ草が栽培されており、それに近寄って手を触れずにジッと眺めるだけでも興味がムクムクと湧いて来る。畑の近くには小さな用水路が流れている、シオンが流されてきた川にそれは繋がっていて、その用水路は村の中を駆け巡っている。


 「この村にはもう慣れたか?ボウズ」


 「……おはようございます、まだ慣れてはいないです、何もかもがとても興味ありますよ!」


 犬耳と尻尾を持つ村人から声をかけられた。大きな籠を背負っているので畑から朝の収穫をしようとしている村人だろう。その村人はシオンの快活な受け答えにカカと笑う、村人にとっては村の生活は何もかもが普通の事で、それを他種族の子供に興味があると言われれば上機嫌に笑いもするだろう。シオンにとっても村人は不思議な存在であり、村人にとってもシオンは不思議な存在なのだ。


 「ボウズがここに来てくれたおかげだろうな、ニーアが元気になったのは。それだけでもありがたい事なのに食料も沢山持って帰ってくれる、最初はどうなる事かと思ったがな」


 「……?ニーアさんは元気が無かったんですか?」


 「ああ、いつも張り詰めた顔でな、こう……繁殖期のドノイスみたいだったぞ」


 ドノイス。昨日ニーアに教えてもらった魔物の一種で、イノシシのような外見の食べる事の出来る魔物だ。しかし攻撃性が強く誰しもが簡単に狩猟出来る物ではない、村人のタンパク源であり、森の恵みの奪い合いの相手でもある。そしてこの村人の言う繁殖期のドノイスの表現はニーアの性欲的な事ではなく気性的な事である、間違ってはいけない。


 「ニーアさんは優しいですよ。ちょっとだけ、その……色々とアレですけど……」


 うつむき気味に顔を赤らめモジモジと恥ずかしそうにするシオンの姿を見て村人はプスーッと吹き出した。内心、村人はこう思う「新しい村の住人が増える日も近いな」と。


 「まあアレだ、ボウズ。これからもニーアと仲良くしてやってくれ。んで重要な事なんだが……デキたら村全体で面倒を見るから安心して良いからな!」


 「……?」


 現代日本ならセクハラ問題確定、暗喩だらけの会話に気付く事無くシオンは強く頷く。いつの間にか朝日は村の全てに満ち溢れ、多数の村人が各々の仕事に向かって行く、その様子をシオンは遠目に眩しそうに眺めていた。

 

魔物と動物に違いはあまり無く、巨大化、凶暴化した動物を魔物と呼びます。例外アリw

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