第87話 起動
1日が過ぎ、シオン一行は宿泊場所をチュール家へと変更する。しかし当然なのだがまだ家具も寝具すらも揃ってはいない。だが床にはとても大きな毛並みの良い絨毯だけがその家の内部を彩り、異彩を放っている。
「ベローズさん、この絨毯凄いんですけどこれも買ったんですか?」
「いいえ、買ってないのだわ。でも毛並みがどこかドノイスに似ているような気がするかしら?」
「これは当機が作成したドノイスの絨毯でゴザリますれバ」
シオンはこれに似た感じの皮を見た事があった。そう、件のフェブリスキンだ。このドノイスの毛皮の絨毯もイリスの謎技術により作られたモノならばこの見事さは納得がいく。と言うよりはこれを売り物にして自分等はこの2段下の絨毯でも十分ではないかと思ったりもしたのだが、そこはベローズが売るかどうかを決めるので口出しはしなかった。
「シオン様、ハイエト付近では難しいカモ知れませんがコレト同じように毛皮や木材がアレバ当機が加工いたしますル」
「組合の仕事に出た時にですよね。確かに木材はちょっと厳しいかもです、郊外には全く森や林のような場所を見かけませんでしたから」
「遠出するにも時間がかかるから少々面倒なのだわ。木材の入手に徒歩で最低でも2日は必要かしら?」
「で、アレば少し突貫工事をしてソノ問題を解決いたしマスる」
そう言い残しイリスは庭にある倉庫に入り、戸を閉め、何かをやらかそうとしている。
「突貫工事をしてどう問題が解決するんでしょうか……?」
「イリスの言動がシオンに分からないならば、わらわにも分からないのだわ。まあ、何とかすると言うのなら何とかするのではないかしら?それよりも家具を買い揃えるのが優先事項なのよ」
……昼を過ぎて夕方に差し掛かる時間までには家具を買い揃え、家の中にまで持ち運び、各部屋へと設置を完了させた。しかし夕飯の時間になってもイリスは倉庫から一向に姿を現さない。心配にはなるのだが食べ盛りの子供2人が加入したことにより、そちらを優先させることに決定し、夕飯は家具の運搬作業のご褒美として焼きドノイスを腹いっぱいになるまで食べさせる事となる。
そしてイリスが姿を現したのは次の日の朝方になるのであった。
「おはよーシオン兄ちゃん。昨日のお肉は美味しかったよー、あれってもしかすると毎日食べてたりするの?」
「おはようございます。そうですね、毎日じゃ飽きるからってニーアさんが日替わりで色々作ってくれますよ」
ニーアの作る料理はシンプル且つ豪快なモノが大半を占める。だがそれは調味料と調理法が限定されているからであり、決して手抜きなどではない。どちらかと言うならば素材の味に対してよりベストな味付けをするのがニーア流と言ったところなのだ。
ルピスの額にある第3の目がシオンの背後にいる人物をジッと見つめた。
「シオン様、一応デスが工事の方は完了いたしマシタでごぜます」
そこには普段と変わらない姿のイリスが立っており、シオンに工事完了の報を届けに来ていた。だが工事とと言ってもイリスの服装には乱れもヨゴレも付いてはいない、一体どんな工事をしたのかが気になり早速その現場へと足を向ける事にした。
倉庫の外側は普通に木造のどこにでもある物置のような倉庫である。その倉庫の内部に1歩侵入すれば……やはり普通の倉庫の内部だった、地面にポッカリと開いた穴を除けば。
「まだ地面を固めてはオリマせん。内装はこれより2日以内に仕上げる予定でゴザます。そしてシオン様、その穴へと進ンデくださりましぇ」
しおんはイリスに言われるがままその穴の中へと降りる。その穴は緩い下り坂のような作りになっていて真っ暗。だが天井も高く、横も広く幅をとっているために息苦しさのようなモノは感じられない。
そして少しだけ進んだ場所にはシオンがTVで見た事のあるようなモノが鎮座していた。
「イリスさん、これって……バイク?」
「ハイ。現在の材料カラハ全員で乗り込める大きさの車は制作出来まセンでした。最大時速250km、最大3人乗り、2340年製の旧型消音機能にヨリ駆動音はほぼ皆無で走行イタシまする」
「どう凄いのかはよく分かりませんが、何て名前なんです?」
「トキマツでござます」
そのバイクはサイドカーが付いており、全体的に色は黒、シオンの体格に合わせたのか跨っても丁度足が付く大きさになっていた。しかし疑問は尽きる事が無く湧き出て来る。
「これ、燃料とかどうしているんですか?ガソリン?」
「燃料は現状で得らレル最高効率のバイオエタノールを使用シ、ソシテ生体認識によりシオン様のみガ触れる事でトキマツは起動する仕組みでゴザます」
燃料の問題を一応はクリアしたようだが、本質的な問題は次になる。
「でもこのバイクじゃ物を運んだり出来なくないですか?」
「ハイ、それはシオン様が座ってイル座席を開いてくださりましぇ。そこへ得た物品を仕舞ウト地下研究所へと転送サレますれば」
座席の下にはイリスの手のひらと同じ転送機能が付いており、そこに物を入れれば転送される仕組みになっているが見た目はただの物入れだったりする。そしてイリスとは違い取り出す仕組みはついておらず、回収専用の転送措置だと言う。しかしそれでも便利加減は天井知らず。
だが最大の難関は残っていた。
「あの、僕はバイクとか運転した事が無いんですが」
「我々の故郷でアル日本には習うより慣れロとの言葉がありまする。何事にも得手不得手はあり得、ソコハ経験で乗り切るのが日本人の魂でござりマスれば」
イリスの説明はいわゆるブラック企業が推奨するところの精神論だがソコさえ乗り切れば走行距離と速度、そして大量の物資が手に入る。シオンはやるしかない、と心を決めた。
操作説明をイリスから丁寧にレクチャーされ、少しだけトキマツを前進させようとすると言葉通りエンジンの音などはほぼ聞こえず、5メートルほど前に進んだ。これならば何とかなるか?と好奇心と不安はない交ぜになり、しかしシオンの好奇心はやはり男なのだった。
そこから1時間も経たないうちに訓練を兼ねた物資入手の外出が始まるのである。
チュール家のトイレも水洗へと変更され、こっそりと下水も付けています。もうイリス無双でいいんじゃね?w




