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第8話 それはやがて国を脅かすモノ

 数日が経つ。村でのシオンの生活は僅かではあるが慣れつつある。しかし現代日本人なら大いに戸惑う事柄がある、トイレの問題ともう1つ、ここでは英語が通じないと言ったところだ。シオンの無きにしも非ず程度の学力では別段困るような所は無いが所々で引っかかってしまう事はある。


 例えば、だ「え、えっちな事はいけないと……アッ!……思い、ます……ア……ッ」と力なく主張したとしても「えっちな事……?って何かな~」と微妙に通じているような、いないような状況にほぼ毎日陥ってしまう。シオン、貞操の危機である。そう、危機「である」絶妙にこの危機を上手く潜り抜け何とか毎日をうやむやにして過ごしていた。まだ何も起こってはいない、例え単純に時間の問だ……大丈夫、まだ何も起こってはいないのだ。


 もう1つのトイレの問題なのだが、シオンにとってこれはあまり問題が無かった。病院生活の時は常時大人用オムツをさせられておりその中で用を足していた。


 この村では桶に用を足し、定められた場所に廃棄し、藁や枯葉と一緒にして土に埋めると言ったトイレ事情だ。シオンとしては最初こそ戸惑いがあったもののオムツの不快に比べればソレはすぐに慣れた。


 さておき、そんな生活が数日経った。


 「今日は森の方で警備に回ろうか、魔物狩りをするよシオン」


 「……魔物狩りですか?エビとか蟹じゃなく?」


 「今回のはフェブリって言う、何だろう、一言で言うなら小さな……人間かなぁ。ソイツ等が増えすぎると厄介な事になるんだよ」


 「どんな事が起こるんですか」


 「そうだね、確保出来る食糧が減る事ともう1つ、群れになって手近な村落を襲うんだよ。人が作った武器や防具を奪ってそれを装備するんだ、繁殖力も強いし下手すると国が1つ呑まれる事もある」


 ニーアの家の中、朝食で軽く炙ったパンを食べながらの会話。ここでシオンに新しい情報が入って来る「フェブリ」と言う名の魔物。背丈は平均でシオンよりも小さいが獰猛でヒト種と同じものを食べ、人里を襲っては家畜もヒトも食う人類の敵性種族。


 繁殖力が強く、群れを作り、道具を使用する知恵がある。個体は弱いと言えども群れを成し道具を使用するならば、ソレはヒト種にとって脅威以外の何物でもなくなってしまう。その他特徴として野犬のような魔物を飼育し騎乗して戦う事もあり、特に厄介なのが弓を使用する個体と魔法を使う個体である。


 「魔法を使う個体はかなり珍しいんだけど、居ない事も無いって程度だね。私は見た事が無いけど」


 「魔法……ニーアさんは魔法を使えるんですか?僕は魔法を使えるようになるんでしょうか?」


 「うーん、魔法については私もよくは分からないんだよ。私の予感も魔法に近いんであって魔法では無い……と思うし」


 この村には魔法を使える村人はいない。そもそもの話、魔法が何であるかの問題も全く研究されてはいないのだ。


 「まあとにかく今日は警備だね。ヨモ草の煙もあるから村に魔物は近寄って来ないけど見つけたら叩くよ」


 


 この数日間でシオンは自分の身体能力を計ろうとしていた。結果で言うならばかなりの身体能力を自覚している、基本的にニーアと同等の体力を有し腕力では僅かにニーアを上回る。しかし寝台、ベッドではそれは発揮されることが無くニーアにいつも良いように蹂り……マッサージされている「おかげで毎日、その……良く……眠れます」とはシオンの言だ。


 シオンは革鎧を装着する、少々ブカブカで不格好なのだが無いよりはずっと良い。腰には大ぶりのナイフのような剣ナタを差し、弓で身を固める。


 村近くの砂浜で砂エビや魚を狩猟しつつ、余った時間で弓の訓練をしていたのだが僅か数日で上達するはずも無く、シオンの弓の腕前は大したものでは無い。どちらかと言えば娯楽に近い感覚で弓を撃っているが、無いよりはマシ程度でニーアに弓を持たされている。


 「準備出来ました」


 「……このままひん剥いてしまいたい、イイ声で鳴くんだろうなぁ」


 ボソリとニーアが呟くが小声だったのでシオンには届かなかった。


 「よし、じゃあ行こうか。いつも通り無理せず疲れたら帰るよ」


 ニーアの村の住人は魔族でちょっとした特殊な力を持っている。嗅覚が人間と比べて秀でているのだ。その中でもニーアは更に特殊であり先祖返りと言われる「獣成」と言われる力を有する。これは他の村人よりも一段上の嗅覚を持ち、そしてもう1つの切り札のような力がその身に宿っている。




 森の見回りは採取と同時に行われる。赤いイチゴのような実、紫と緑が混じったアケビのような実、イガの付いていないクリのような実と森の資源は豊富でそれを採取して村へと持ち帰る。警備の方がついでに近い感覚だろう。


 そんな色とりどりの実を千切っては背負い籠の中に放り込み、拾っては放り込む。余談ではあるが森の中で見つけやすい色をした実は他の動物に食べられる事を前提とした生存戦略をしている事が多い。しかし、中には派手な色をして毒を持つ植物もあり、それをより分けるのは熟練が必要だ。


 「シオン、これ食べてごらん」


 野イチゴのような実をつまみ、シオンの口元へと指を近づける。シオンはそれに顔を近づけて手を使わずに、そっと唇と舌でニーアの指ごと口の中に入れる。


 「……よく出来ました。味はどうかな?」


 「美味しいです。酸っぱいかな~?と思ったんですけどそんな事はなかったです」


 シオンの返答と行動に満足し更なる収穫を探そうとしてニーアは足を止めた。


 「シオン、静かに。居るよ」


 ニーアが指す方向を見るとその先の茂みが僅かに動いて見えた。シオンとニーアはその場に伏せて相手側の様子を探る。ゆっくりと弓を取り、音が出ないよう慎重に番える。


 「2匹、フェブリだね。討ち漏らしても良いから弓で先制しよう、シオンも弓の練習だと思ってね」


 「……はい」


 シオンの目に映るフェブリ。小汚い格好をした背の大きな猿よりも狂相の2足歩行の人型の魔物。革鎧や武器を持っていないのでフェブリ側も採取や食糧確保に動いている若い個体だろう。


 ニーアからは討ち漏らしても良いとは言われたが、実際に推定哺乳類の類に弓を射かけるのは現代人の心理としてハードルが高い。シオンは少しだけ手が震える、しかし瞬間的に考えを改めた。ニーアの「国が呑まれる事もある」の言葉を思い出したからだ。


 物事は積み重ねで大きなモノになる、たかが小さく2匹の魔物だとしても無意味に見逃してしまえば確実に2匹の敵性種が残る事になる。それを繰り返せば新聞紙の端に着けた火がたちまち燃え広がるようにフェブリは増えていくだろう、やがて国を脅かすほどに。大きな物事は急に現われるモノでは無い、小さな物事の集まりこそが大きな物事として現れるのだ。


 歯を食いしばり、一呼吸。しゃがんだ姿勢のまま、当たるかどうか分からないまま弓を引き絞った。ニーアもその姿を見て弓を引き絞る、そしてほぼ同時に弓を放った。


 バンッ!という弦が空気を爆ぜさせた音が2つ。


 ニーアの放った矢はフェブリの胸へと見事に吸い込まれた、その事実を胸から矢を生やしたフェブリは受け止められず、キョトンとした表情で膝から崩れ落ちる。一方シオンの放った矢は胸に命中はせずとも僅かにズレ、肩口を抉り抜いた。初の経験とは言え上出来の部類。


 止めを刺そうとニーアが飛び出す。地を強く踏み、茂みを突っ切り、猛ダッシュ。フェブリはそれに気が付くがニーアは身構えられる前に飛び蹴りをフェブリの顔面へと炸裂させた。


 地面へ倒れ昏倒したフェブリの胸にトドメの一撃を入れる。剣ナタを素早く引き抜きノータイムで付き入れる、その衝撃でフェブリの体は一瞬だけビクリと跳ね、そして火が消えるかのように息絶えた。


 「シオン、よくやったね。ちゃんと間引きしとかないと私たちが苦しい思いをするからね。生きる上で重要な事だよ」


 「大丈夫です、思ったより平気です」


 「気分が悪くなったらちゃんと私に言うんだよ。じゃあもうちょっと採取して帰ろうか」


 ニーアはシオンの頭を抱き寄せて撫でながら顔色のチェックをしたり、気分が悪くなっていないかを入念に調べ上げた。


 その際、気丈に振舞うシオンに少々ムラムラしたがそれはまた別の話。


安心してください、健全です、誰が何と言おうとも「マギア」は健全な小説ですw


「フェブリ」はゴブリンみたいなもんだと思ってねw

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