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第5話 藁と毛皮と男と女

 「月が……2つあるんですね、ここ」


 「ははは、シオンが今まで居た、ニホンのビョーインだっけ?そこには月が3つぐらい有るのかな?」


 「そうですね、1つしか無かったです」


 「……!?」


 ニーアの家の窓から夜空に昇る月を見上げてシオンはそんな感想を漏らす。虫の音がそこらに響き渡り、風がヨモ草の煙を運んできた。どうやらこの煙の効能は魔物除けのみならず小さな虫除けの効果もあるようで、ベッドに敷いている藁にもノミやダニのような小虫が湧いていない。


 煌々と村を照らす月明り以外には光源となるものが蝋燭のような物しかなく、そしてそれも使われてはいない。この村、この世界では大体の場合夜になると眠り、朝日が出ると同時に働くのが普通になる、言うなれば原始人の生活に毛が生えたようなもの。


 「シオン、もう寝るよ。襲ったりしないからおいで」


 「はい……」


 ニーアはベッドにすでに入り込んでいてニヤニヤとしながら自分の隣をワシャワシャと叩き、ここに来いとのアピール。シオンは顔を赤らめながら観念したようにベッドに入り込む、部屋の中が明るければニーアのニヤ付いてる顔を見て更に赤面していた事だろう。


 おずおずと遠慮がちにシオンはベッドの端の方に陣取る。が、ニーアはずい、と体ごとシオンの方に寄って行った。そして腕をシオンの腹に回してぐいぐいと自分の手元へと引っ張る。


 「もうちょっとこっち、寝相次第で落っこちるよ」


 「……」


 シオンはニーアの側に向かないままそそ、とほんの少しだけ移動する。その時を待っていたかのようにニーアはシオンを一気に引き寄せると、ベッドのやや中央で密着した。


 今のシオンの表情は涙目で顔を真っ赤にし、口がアワワワとなっている。


 「か、覚悟……完了しました……優しく、お願いします……」


 蚊の鳴くようなか細い声でのシオンの表明。しかしニーアの方は「プスー」と吹き出してその後の行動には出ようとしない。


 「襲わないって言ったよね。それとくっついて寝る事に慣れないと冬場はキツくなるんだ、今は温かくなってきたけどね」


 「な、なるほど。じゃあ今まではどうしていたんですか?」


 「敷いている藁を増やして毛皮も1枚多くした、それで運よく今日まで生き残れたね。ちょっとでも運が悪かったら死んでたはずだよ」


 「……」


 ニーアの言葉を聞いて考えを改めたのかシオンはニーアに向き直り正面から抱きつく。


 「情けなく見えても汚くても生きていく事が1番だね、死んだら終わるだけで何も残らない」


 ニーアはシオンの頭を優しく撫でるとスースーと寝息が聞こえて来た。少々残念そうにしながらニーアも目を閉じ眠りにつく。




 黎明からやがて朝日が昇る、群青の空は鮮やかにオレンジ色に染まり、その光を浴びた極彩色の鳥は朝の訪れを歌い上げた。森にほど近い村には煙の臭いがこびり付き、風はその臭いを洗い流す。いつもの朝が始まる。




 藁の布団と毛皮にくるまれたシオンは煩悶の最中にある。体が動かない、正確には動かせない。ニーアがシオンに絡まっていて起きて良いのかを悩んでいるのである。仕方なしにボンヤリと考え事をしてニーアが起きるのを待つ事にした。


 「……おはようシオン、よく眠れたかな?」


 ニーアが薄目を開けてシオンをジッと見ている。左手でシオンの顔にかかった髪を払い、もちもちとシオンの頬を弄ぶ。抵抗する事はせずにシオンはそれを受け入れ、ニーアの方に顔を向けた。


 「おはようございます……よく眠れたと思います」


 「今日から少しずつ仕事を憶えていこうか。森で食べ物を獲ったり海に行って魚とか貝を獲ったりだね、やった事は……ないよね」


 「TVでは見た事があるんですが、やった事はないです」


 「……てれび?」


 「箱の中に映像が、こう……んー、説明し辛い……道具です」


 上手く説明が出来ないのも当然で、シオンの方もどんな仕組みでTVが映像を映しているのかを理解していない。しかしニーアはそんな話を理解出来ずとも至極面白そうに聞いている、シオンが困ったような顔を見るのも楽し気なようだ。


 「シオンは海と森だったらどっちに行きたい?」


 「海、を見てみたいです。歩くのにもう少し慣れたいのもあるんで」


 「嫌がらないんだね、怖いとか思わないの?」


 「怖いよりも色々と知りたい事が多いです。僕は何もやった事が無いんです」


 そんな話をしながら今日の仕事は海へと赴く事になった。狩猟採取生活、これは1日の大半を食料探しに明け暮れ、残りの時間は他の仕事をする大変にキツい生活。そんな生活をシオンは舐めているワケではなく、どんな気持ちで言うかならば全てが手探りの状態と言った気持ちであろう。未知に対する好奇心だ。


 軽い朝食を食べ終わり、村の中をニーアに案内される。この村の村長に軽い挨拶と面通しを済ませた。


 シオンの体つきは細い。筋肉らしい筋肉はついておらず、ニーアの家にある背負い籠を背負うと籠の方ばかりが大きく見える。一見すると女の子だと勘違いしてしまいそうな外見、それを助長するかのように長い髪を藁紐で括っている。


 「村人に分ける食料も獲るから帰りは結構重たくなるよ、疲れたら無理をせずに私に教えてね」


 何が嬉しいのやらニコニコと笑いながら元気よく「はい」とシオンは返事をする。体を調子を確かめるようにジャンプしたり捻じったりと細かく動く。


 2人の籠の中にはタケで出来た水筒や干し肉、パンのような物を詰め込んでいて、腰にはナタがベルト代わりの綱に括り付けられている。そして外出するときに必ず持って行く金属製の筒、ヨモ草の煙を焚くための道具を手に持った。


 「じゃあ行こうか。シオン、はぐれたらコトだから手を繋ぐよ」


 その言葉にややモジモジしながら手を繋いだ。シオンのその表情をニーアはニヤニヤしながら楽しんでいるが、その事にシオンは気が付いていなかった。

 

寝るときは衣服着用してるんでぇー大丈夫なんですぅーw

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