第46話 繭
ネタマルゴを討伐し数日が経つ。討伐後、シオンはピクリとも動かないほどの睡眠状態に入り、それを保護するためにエイブの村にある無人の小屋を1棟無断で借り受けた。
その間、避難した村民にもう危険は無いと伝えるためにニーアが使いに出る。エイブの村民を率いる村長にその旨を伝えるとそれを近くで聞いていた人々は目を白黒させながら半信半疑な眼差しをニーアに向けていた。しかし、村民がエイブに戻ると巨大な魔物の姿はどこにもなく、確かに脅威は去ったと大いに喜ばれる。
しかし、その魔物の死体はどこにあるのだ、と言う話になりニーアは口ごもらせる。そこでベローズが「わらわが吸血族の秘術を以てかの巨大な魔物を跡形もなく消し炭にしてやったのだわ、僅かだけどこれが討伐の証かしら」と数枚の金属製の鱗を取り出しニーアへの助け舟が成功する。さらに追撃で「秘術ゆえ、他言無用なのよ」との念押しも上手くいった。方法、手段はわからないが兎にも角にも村を救ったのは間違いないのだから否を唱える者もおらず、眠っているシオンも掘っ立て小屋から来客用の部屋に替わり、村民の大部分からも看病の申し出が出たほどだ。
「申し出は有難いんだけど……どうなってるんだろうね、コレ」
「中にシオンが居るのは間違いないのだわ。けれど、これは流石にお手上げなのよ」
借り受けた来客用の部屋には大きな繭があった。そしてベローズの言葉通り、その内部にはシオンが居る。時折モゾモゾと蠢いてはまた動きを止める、を繰り返していて生きていると言う事だけが確認出来ていた。
白く艶やか、頑丈で、触れればそれは上質な糸だと分かるがその糸は少年の体から煙のように発生したなど誰にも分るものではなかった。この部屋の中にいる女性3人以外は。
それを発見したのはイリスだった。とは言っても同じ部屋の中にいるので数時間発見が早まったと言うだけだが。
シオンがネタマルゴを倒し、寝込んでから丸1日目の早朝だった。イリスはニーアとベローズを呼び起こし、こう質問した「シオン様はこの形状になられる事はイツもの事なのデショうか?」と。まあ、当然それを質問された2人は絶句するのだが。
そしてそのすぐ後に気を取り直したニーアがイリスに質問を返した「これ、シオンなの?」と。それを受け、イリスは真顔で「バイタルチェック中に突然糸状の物体がシオン様の体から噴出、オヨソ30分でこの形状となりマシタ」と返事をする。
そしてそれからおよそ2日間この状態が続いていた。当然その間来客、お礼をしに来た村人が多数いたのだが何とかシオンのこの姿を見られずに過ごせてはいた。無論見られたとしてもそれほどの問題はなさそうなのだが、どの魔族の特徴にも当てはまらないこの繭は説明するに頭を悩ませる。それに一応は追われている立場上、細かな情報でも漏らさないに越したことはない。
「イリスはシオンと同郷だったかしら?異世界の人間は、シオンとイリスの国の人間はみんなこうなる……ワケは無いのだわね」
「当機のデータ上、日本人にこのヨウナ特徴は見受けられましぇん」
「シオン、そろそろ起きてくれないと……来客の誤魔化しが難しくなるよ……それと私の中のシオン成分が足りなくなる……」
「わらわもその成分とやらが足らなくなりそうだからシオンが起きたら補充しないといけないのだわ」
まいってはいるようだが落ち着いてはいる。呑気な言葉を交わせるほどには余裕がありそうだ。イリスはシオン様の成分……ソレハ一体……と聞きたそうに前のめりになった。そんな未知の成分はないのだが現状、繭状になる人間もいないのでもしかするとその成分が採取出来るかも知れない。
よくわからない会話を続けながら数時間、時刻はとっぷりと日の暮れた夜になる。湿気の強い夜、昼間は日差しが強く、暑く感じるが日が沈んでしまえば徐々に涼しくなる。煌々ときらめく2つの月光が夜露に反射し、窓の近くを薄く薄く煌めかせる。
「そろそろ寝よう」とニーアが言いかけたその時、シオンが在中する繭に動きがあった。プルリと軽く震え、音もなく繭の天辺が割れてゆく。それにいち早く気が付いたのは繭を凝視しているイリスだった。
「奥様、ベローズ様。繭ガ」
ニーア、ベローズともにイリスの声に素早く反応する。ここら近辺では高級品の綿で出来た敷布団から飛び出して繭を3人で取り囲んだ。その合間にも繭は静かに割れてゆき、待ちきれないとその隙間から中身をニーアがのぞき込もうとする。
「あ、中にシオンがいるよ!しかも……ツルツルになってる」
「ツルツル!?ツルツルとは何の事を言ってるのかしら!ニーア!?わらわにもツルツルのシオンを見せるのだわ!」
ニーアのシオンがツルツルの発言に対し興奮の度合いが一気にMAXになったベローズはニーアを押し退けん勢いで繭の割れ目から中を覗き込む。
繭の中には裸のシオンがスースーと静かな寝息を立てている。そして、細かな傷も汚れも一切が付着していない、確かに新品同様のツルツルになったシオンがいた。
「……服を着たまま寝たように思えたのだけれど……あ、もうちょっとで見えそ、見え……見え……」
「いつの間にか耐性が付いたねベローズ。興味深々?」
「深々なのだわ……!」
ただ単純に見せられる事とは違う一風変わった覗きに一味違った興奮を覚えるニーアとベローズ。それは置いておくとして、よく分からない物のシオンの無事を確認した3人は安堵のため息を漏らす。
更に繭の中身を確認すると、まるで新鮮な血液で出来たような深紅の楕円形の玉がシオンの近くに1つ転がっていた。そしてそれをシオンと共に取り出して眺める。
「宝石、ではないのだわ。微妙に柔らかい?」
「綺麗だけど私はシオンがいてくれたらそれで良いよ」
「それもそうなのだわ……イリス、これが何なのか分からないけれど預けておくのかしら」
イリスはこぶし大の玉を受け取り凝視する。そしてそれが手のひらの上でパッと消えた、地下研究所に転送したのだ。そして残った繭も同時に回収し、キレイさっぱりと元の部屋の様相に戻る。これで来客が来ても「看病中」の一言で済ませる事が出来るだろう。
「う、ん……おはよう、ございます……?」
ニーアの腕の中で揺られシオンが目覚める。寝ぼけたようにあくびをしながら軽く伸び、部屋の暗さからまだ夜だと気が付いたようだった。
シオンの少しだけ長い睡眠はこれで終わる。多くの謎は残したままだが、また明日から冒険者家業は続くのだ。
続きは暑さが落ち着いたら書きます。
太陽と夏が大嫌いw




