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14 殿下、お帰りです

 レイザーやイーサンがまとめた報告書、それも王宮に持っていくことにして、帰り支度を始めた殿下とロマネスク様にほっと息をつく。


 王族って、大変なんでしょうね。

 私だって同情はする。ロリコンに誘拐される為だけに生まれてきたような顔をして──失礼、彼等王族は周りを取り巻く環境も大変なんだろう。


 ふむ。

 キッチンからいい香りがしてきた。

 そろそろかしら?


 お父様の胸に頬擦りすると、更にぎゅっと抱き締めてくれた。ふにゃりと破顔しているであろう顔を鍛えられた胸に埋める。


 ちょっとこの筋肉……涎がでそうです。

 胸筋に溝があるんです。女なら谷間。それがめっちゃ硬いんです。お分かりいただけるだろうか? 目の前に顔を埋める、ぴったりサイズの溝があるんです! 異世界転生したお陰で、前世でみたパフパフ仙人の気持ちが理解できた!



「……それにしてもニカ、さっきから君は……父親と距離が近過ぎないか?」



 殿下が書類をトントンと片付けながら、信じられないものを見るような目を向けてきた。放っとけ。


 いつもならここまでぎゅっとはしてくれないわ。お父様めっちゃ照れ屋だもの。


「……安全圏なんですの。ここは敵が入れませんの」


 そう、怪我の巧妙とは言葉が悪いが、下心はいつも私の側に……。


「? それにしても10歳にもなる貴族令嬢が、父親とはいえ、異性と体を密着させるのはあまりにも不謹慎だと思うけどね?」


「不謹慎とは、侯爵家の力で甘い汁を啜ろうとする、わたくしを金蔓としてしか見ず、おまけに後ろ盾目当ての人のことを指すのです」


 ロマネスク様が微動だにせず眼鏡を落とした。汗って滑るからねぇ。


「…………それ以外の、その、たとえば君に純粋な好意を抱く者も、それに当てはまるのだろうか?」


「それは勝手にしたらよいのでは? この通りわたくしは美しいですし、殿方の頭の中でどう蹂躙しようと、わたくしが知ることではありませんわ」


「……普通は想像されるのも嫌だろう?」


 言うな。前世が尾を引いてチクっとするやんけ。


「ええ、視界に入る不躾な眼は然り、マナー違反があれば指摘しますわ。つまり、知らぬ存ぜぬところで勝手に一人で済ませ、ということですわ」


「……意味がわからない」


「んまぁ! おーっほほほ!」


 再び侍女長ディアブローナー見参。

 美味しそうなローストビーフを持ってきてくれた。


「お嬢様。本日は肉質が柔らかい仔牛をローストし、胃腸の消化を促すフルーツ酢と、体力アップのネバイモのザグ切りを添えたディアブロ風ランチでございます」


 待ってましたー!

 ローストビーフとネバイモのがっつりコンビネーション、そこに爽やかな風が吹くフルーツ酢の組合わせ! お見事!


 前々からお父様が帰ってきたらもてなそうと、アダムや侍女長にレシピをお願いしてたのよね〜!


 ちなみに私はなーんもやってない。お願いしただけ♪前世でも大好物のステーキを焼くくらいでしか料理はしなかった。他は目玉焼きすら作ったことがないほど、私は自炊に興味がない。外食で焼肉や鍋を囲んでも食べ専だった。今世ではそのステーキも、いつでも食べたい時に出てくる天下の侯爵令嬢!


「うふふ。この2週間は、慌ただしいなか移動も多くて、お疲れが溜まっているでしょう」


 ネバイモを薄切りしたローストビーフで巻いて、フルーツ酢にちょんちょんとつける。


「お父様、あーん」


「ん…………………………これはまた、ステーキとは違った味わいがあるね」


 ネバイモの食感がサクサクと、これまた美味いとお父様が目を細めた。


 そうでしょそうでしょ♪

 牛肉と芋って、合うのよね〜!


「ニカ……君はいつも家で、そうしているのか?」


「はて? それがなにか?」


 お父様が食べさせてくれる時もありますけど?


「……」


 ふむ。とても理解しがたい、気持ちの悪いものを見るような眼が突き刺さる。


「ヴェロニカ。王族は、家族でも同じ食卓には座らない。ひとつの皿を分け合うこともない。毒が盛られていたら、大変なことになるからね」


「まあ! そうなのですね」


「こ、公式の場では共に食事することもある!」


 なに真っ赤になって言い返してんだ?

 てかこのローストビーフめっちゃお美味しいわ。咀嚼中、奥歯に引っ掛かる粗挽き胡椒がピリっとまたアクセントで。やっぱ牛肉は赤身よね。


「二、ニカ、君は……いつもそうやって、父親とフォークを使い回しているのか?」


「……あらやだ、つい! お父様ごめんなさぁい」


「いいよ」


 細けーな。よく見てやがるぜ。

 道徳的にみても10歳ならまだ問題はない筈だ。実娘だしな。それにお父様と私だけじゃなく、キエトロ家一同、薬用ハーブうがい薬で虫歯ゼロだからね。問題はないのだよ。たまにモニカが湯あみ上がりに手絞りで作って飲んでるグレープフルーツ水とか(いつもは飲まないけどモニカが美味しそうに飲んでると、つい)一口貰うし、極たま〜に侍女長の超レア限定の最高級ブランド口紅とか一緒に使わせてもらってるし。派手な侍女長に似合うものは、同じく派手な私にも似合うのだと確信した。


 私だって流石に中等部に入ったら、そういうことは控えようと思ってる。親子だから、まだ子供だからといっても10歳では出来ないことも多い。ふむ。あと5歳若けりゃ無双できた。


 わかる? これでもまだ抑えてるんですよ!

 ドゥーユゥーェアンダースタァァン??


「うふふ。殿下ったら、これしきの事で引いていたら、いつまで経っても毒味係が雇えないのでは?」


「確かに。王族が皿を共有するのは、家族でも婚約者でもない、生涯毒味係だけだからな」


「ッ」


 背後で空気になってたロマネスク様が気まずそうに挙手した。あ、もしかして君が毒味係か? そろそろ眼鏡拾いなさいよ。モニカが私に紅茶のおかわりを持ってきたついでに拾ってくれたじゃないの。


「……で、殿下は定期的に体内に弱毒をいれて、毒に対する抵抗力を養っております。キエトロ嬢が家族と食卓を共にするように、殿下にもそれを望むのでしたら、いずれそれは叶うかと」


 は?


「ほう」


 お父様、瞳孔が開きかけてます。


「夫婦で同じ皿を共有するなら、必然的に殿下の婚約者も毒の抵抗を養うことが必須となりますね」


 フォローするようにレイザーが現れた。

 モニカからロマネスク様の眼鏡を受け取り、懐から取り出したハンカチでふきふきしてあげてる。


「妃教育を受ける令嬢には頭が上がりませんね。未来の国母として、尊敬に値する努力といえるでしょう……まぁ、当家の跡取りであるヴェロニカお嬢様には関係の無いことですが?」


 ピカピカになった眼鏡を渡されたロマネスク様、更に青白くなられました。


 バッ! と立ち上がった殿下。

 虫でもいたか? あ、お帰りね。




「ニカ、最後に……門まで見送りしてくれ」




 ロマネスク様が『よせ!』と殿下に眼で訴える。

 ほう……また秘術かます気ですね?

 本音を吐かせる真意魔法耐性カンストの私が、今度こそ返り討ちにしてやりましょう。


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