002 美少女=?
遅くなってすみません。
俺はしばらく見とれていた。
誰だかさっぱりわからない。脳内検索エンジンにかけても出てこないし、よくよく考えなくても出会った記憶はない。
だけれども、どこか見覚えのある風貌。見知らぬ筈の美少女が、どこかのだれかさんと似ている気がする。
しかしどうして...俺が考えに耽っていると、目の前の美少女がふらふらしながらも、こちらに膝を這いずらせながら、ゆっくりと近づいてくる。
「なぁ..?こ、これ、どうなってんだよ..?夢か..?夢だよな?!なぁ!なぁ!?」
「え、ちょ、な...」
「夢だって言ってくれ..頬を引っ張ってもいいからさぁ....」
泣き顔でこちらに詰め寄ってきた美少女は、ぷるんとたまごの黄身のように柔らかく脆い頬を差し出しながら、あろうことか「引っ張って」と言ってきたのだ。
「そっ..そんなことできるか!誰だかよく分からんが、自分の肌の価値の高さくらい気付いた方がいいぞ!」
「なに、いってんだよ....」
「なにって....俺はあくまであなたの為を思って....」
「....あぁ、そういうことか」
ずるずると力を失ったように崩れ落ち、俺のお腹に顔を埋める。服越しからでも分かる肌の柔らかさ。はぁ..とため息をついたのだろうか、息が繊維を通り、俺の肌に触れる。ぞわぞわとした気持ちが悪いような、心地のいいような感覚が俺を襲う。
もう少し下に落ちていたら、えらい事態になっていた。
うなだれた頭からは、きらきらとまばゆくような金色を持つ長い髪が、俺の太ももを優しく撫でつける。
俺からは彼女の背中しか見えないが、触れてきた顔、袖からちょこんと出ている小さな手から、相当華奢なのだと分かる。触れようものなら、抱きつくこうものなら、骨を跡形もなく折ってしまいそうだ。
所在なくうろうろと腕が宙をさ迷うなか、美少女が虚ろな目をしながら顔をあげてくる。その小さくかわいらしい唇を震わせ、言葉を紡ぎだす。
「....おれだよ。おれ。たぶん..ていうか、ぜったいにきづいてないだろうから言うけど...おれ」
「えぇ...こんな至近距離でオレオレ詐欺する..?いま諭吉さんいないよ..?」
「いや出すのかよ!....はぁ。ちげえよ、ちげえ。俺だよ、大輔。お前の親友の、青木 大輔」
...?
突然なにを言い出すんだこの子は。
青木...大輔。へー、今時の子って男っぽい名前つけるんだな。見た目からして..中学生くらいか?名前が理由でいじめられたりしてないだろうか。ちょっとばかし心配だ。
「ねぇ、青木..大輔、ちゃん?君、いじめられたりとかしてない?大丈夫?なにかあったら両親に相談した方がいいよ?」
「うへぇ.....。なんだよ大輔ちゃんって...きもちわりいな...。てか、いじめられてるかどうかなんて、お前が一番分かってんだろうが、毎日会ってるんだから」
毎日...?重ねて言うが、俺はこんな綺麗な子とは一度もあった覚えがない。雑誌ですらあっていない。というか芸能人はあまり興味ない。
そんな俺ですらこの子はアイドルや芸能人向けな顔だと分かる。見たら絶対に忘れる筈がない。
だとしたら、だ。ありえそうな、ありえなさそうな可能性はもう、一つしかない。
「...あのなぁ...俺だよ、俺。さっきも言っただろうが、お前の!親友の!青木!大輔、だ!」
「..........まじで?」
「露骨に口調変えてくんじゃねぇよ、がっかりしてんじゃねぇよ。てか気付けよ、おせぇよ気付くのが」
はぁ..とため息をつく美少女...いや、俺の親友。一安心したのか、体を弛緩させて後ろに体重をかけ、両肘で自分のからだを支える。
「....!!」
「あ...?どうした?なんかあったかっーー!!」
俺がだんまりをし始めたのを心配したのか、声をかけてくる。しかし聞いている最中に俺の視線に気付いたのか、つーっと視線の糸を辿り...それに気付いたのか、バッと体を動かした。
「てっめ....!!」
「い、いやいやいやいや!!いくらお前とはいえ、そんな立派なものを持ってたら誰だって見ちゃうだろうが!!」
俺のお腹に顔を埋めていたときは、前のめりになっており、そのせいで衣服が肩からずれていた。(その時は気付いていなかった)そしてうしろに倒れたとき...ただえさえだぼだぼで、いまにも崩れそうだった衣服が、するりときれいに落ち...見えてしまった。
見えそう、とかではなくて、あれが見えてしまったのだ。それも五秒ほど、しっかりと記憶に残る形で。
脳裏に焼き付いてしまった。小さく、華奢な体には似つかわない、あの大きなもの。
想像してしまったのだ。顔ですらあの柔らかさだった。ならば、それよりも柔らかいであろうあれはどれだけで柔らかいのだろうかと。
思わず目の前にいる親友♂(←ここ重要)に欲情してしまうところだった。..なんかもう、手遅れな気もするが。
「じっくりと見やがって..!!少しは遠慮しやがれ!!」
「だっ!お前、女性の生乳なんて普通見れんぞ!しかも美少女の!いくら中身がお前とはいえ遠慮なんて出来るか!むしろお前だから遠慮せずに見るわ!!」
「....」
「...どした?」
今度はあちらがわが黙る番となり、なぜだかぷるぷると体を震わせて、再び着た衣服の上にさらに放っておかれていたジャージを急いで着始めた。
...寒くなったのか?いやでもなぜ今急に?
ん?視線が下の方に..しかも俺の方を見ているような。
さっきのあいつのように、視線を辿るように見ていき...俺のズボンに到着した。
正しく言うならば、ズボンではない。細かくいうと、社会の窓付近。そう、俺のアレの近くに視線がいっていた。
理由はもう、言わずもがな、である。
視線を上げると、羞恥と怒り..そして、照れ?が混ざった複雑そうな表情をしているあいつが俺を睨み付けていた。
「お、おい。その、これは..だな」
「ひぃ!ち、近付くんじゃねぇ!俺はノーマルだ!」
「俺だってノーマルだ!」
「じゃ、じゃあなんでそうなってんだよ!」
「お前にじゃねぇ!美少女の胸を見たから、こうなったんだよ!てか俺だってノーマルだ!」
必死に弁解するが、大輔はまったくもって耳をかさない。
衣服の防御力を増やすためか、俺の方を向きながらも片方の手で、器用にも衣服を探っている。目的のものが見つかったのか、急いで上も、下も、さらに強化を加える。
「誤解だ!誤解だっての!お前はいま、盛大な勘違いをしている!」
「そんな物的証拠を見せつけられて、勘違いもくそもあるか!」
「だから俺の話も聞いてくれっての!」
「話もなにも...ループだな、これ。ゲームのモブFくらいのやつと話してる気分だわ。..いやもういい、なんだっていい。一先ず出ろ、とにかく出ろ、それを抑える時間もやるからさっさと出ろ」
「あ、おい?!」
その小さな体でどうしてこんな力が出るのかわからない。ぐいぐいと俺は体を押し出され、ドアの真ん中にまで追いやられてしまった。少しでも押されたら、ドアを閉められ、鍵も閉められてしまう。
どうにかしなければ。俺は焦りに焦った。このままでは十年間の親友関係が崩れ去ってしまう。それだけはどうにか避けたい。これからもこいつには親友としていてほしいのだ。
「こら!さっさと出てけっての!くそ、男だったら今頃すぐにでも追い出せたのに...!!」
「男だったらそもそもこんな事態にならんわ!頼むから聞いてくれっての!」
「だから分かってるっての!でも一先ず出てくれ!こちらも色々やることあるんだ!ちゃんと呼ぶから待ってろ!」
「だから分かってねぇじゃねぇか!!それ後々追い出されるフラグだよな!俺にはお前の考えが分かってるんだぞ!」
「お前の方こそ全然分かってねぇだろ!」
扉の中央から、大輔の部屋、廊下を行ったり来たり。お互い、引くに引けない事態に陥り、半ば喧嘩じみてきた所で...俺はまた、やらかした。
「頼むから話をーー!」
「分かったから出てけーー!」
ふにょん
柔らかな感触が、俺の手を幸せにする。
状況処理に三秒、お互いに冷静になるまでに五秒。それまで俺の手はあいつの胸にあり、それを黙って見過ごす訳もなく..。
「ーーい!い!か!ら!は!な!せーーーー!!」
「うぉ!!」
顔を真っ赤にした大輔が、俺を火事場の馬鹿力で吹っ飛ばし、廊下側へと追いやる。大輔は息を切らしながら、こちらを上から見下ろし、案の定、ひと数人なら手軽に殺せそうな殺気を滲ませた睨みをきかしてくる。
「..んでたたせてんだよ、きもちわるい...」
罵倒をひとつ、俺へと投げつけるとドアの向こうへと消える。
残された俺は再び視線を下にする。あいつのいって通りだった。どうやらマイsonは節操なしらしい。
十年間の絆にどこかヒビが入ったような、そんな気がした。
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