001 応答はない
俺には十年来の親友♂がいる。
兄弟みたいに仲が良くて、なにするにしたってだいたい一緒。もちろん、お互い友達はそれぞれいるが、やっぱりこいつと一緒にいるのが一番楽しい。
無駄に気を使わなくていい、それがどれだけ楽しいか。
楽しむときは徹底的に楽しみ、喧嘩するときはボロボロになるまで殴りあったり、好きな人にふられた時は慰めあう。足りないパーツを補うように、出来ないところは片方が手伝う。
いつも通り、何事もなく、特にこれといったイベントはないけれど、それでもなんだかんだで楽しい毎日を送っていた。
それはあいつがいたからだし、これからもきっと、喧嘩するだろうし、会えなくなる時もくるだろうけど、親友としての関係は崩れない。そう、俺は思っていた。
学校に向かう。教室ではガヤガヤとうるさくも、賑やかな声が響いている。俺もその一部になろうと、いつも通りあいつを探したがーーどうしてかいなかった。
トイレにでも行ってるのだろう、そう決めつけて俺は友達のところへと向かった。
それから数分。チャイムが鳴り、喋るのを止めてみんながだらだらと戻るなか、俺はきょろきょろと周りを見渡した。
「(結局来なかったな...)」
スマホをちらっと先生の目を盗んで見てみるが、そこに電話がかかってきた記録も、メールが届いた記録もない。
途端、心配になってくる。あいつは体がやけに丈夫で、ある時、クラスで唯一インフルにかからなかったという伝説をのこしたぐらい体が強い。
しかし、病気にかかることが少ないぶん自覚症状に気付くのがかなり遅い。一番ひどいときは、三十九度の熱が出ていたのにも関わらず、学校に五日間も平気そうな顔で来ていたのだ。自覚がないほど恐ろしいものはない。
そのあと、無事にあいつは床とキスするはめになった。
どこか道でぶっ倒れているのではないか、ひょっとして病院に連れてかれている最中か。
嫌な想像が出てきては消え、出てきては消えを繰り返す。
..ま、心配ばかりしたって仕方がない。俺は俺で、真面目に授業を受けることにしよう。
そう考えると、ふっと力が抜けていく感覚がした。思っていた以上に緊張していたらしい。俺も大概心配性のようだ。
そのあとも特に何事もなく、いつも通りの一日が消化されていく。授業をうけ、友達と話し、昼飯を食べ、休み時間は遊ぶ。 そして放課後にさしかかってきた時、スマホが着信を伝えるために、音と振動でポケットを揺らす。
電源をつけて誰からかみてみると、そこには見知った名前が。
青木 大輔、それがあいつの名前だ。あだ名はあおすけ、下の名前で基本呼ぶ。
ちなみち俺の名前は、中村 正成。あだ名はまっさー、でもあいつは下で呼ぶ。
今時珍しくトークアプリを入れていないので、基本的にあいつとの連絡は携帯と同じになる。若干めんどくさい。
件名は空欄。珍しい、あいつは連絡の時はなるべく伝わりやすいように必ず件名を入れる。..まじでなんかあったか?
えーとなになに...?
件名:
たのむうちにきてくへ
「(..きてくへ?)」
押し間違えてる。しかも変換すらしていない。重ねて言う件名が入っていない。慌てているのが目に見えて分かる。
どこに行けばいいか分からないが、十中八九あいつの家だろう。じゃなければお手上げだ、ノーヒントで当てろなんて、無理すぎる。
「おーいまっさー!かえろーぜー」
「..あーわりー!今日用事あるから無理だわー!」
「わーった!また明日なー」
「おー、また明日」
ぶらぶらと手をふって別れると、俺は気持ち早足で大輔の家に向かう。
言うても大した用事ではないだろう、まぁでもそれなりに心構えはしておくかー..この時はその程度しか考えていなかった。
いつもは話しながら帰る。だから周りの景色なんてまったく気にしていなかったが、こうして一人で歩いていると、いろいろと見えてくる。
塀の上で目を細めてこちらをみてくる猫。同じように帰宅途中の小、中学生。買い物途中の主婦。杖をつきながら歩くおじいさん。何気ないワンシーンの筈なのに、どこか心が落ち着いてくる。
この時、俺の第六感がこれから起こるであろう大事件をおそらく予想していたのだろう。不思議なぐらい、無意識にこの平和を噛み締めていた。
十五分ほど歩くと大輔の家。歩いて学校まで行けるのって、すげー羨ましい。普通、毎日バスとか電車とかを、何十分もかけて乗って、ちょっと歩いて、ようやく学校。だから、歩くのオンリーは正直羨ましい。
ちなみに俺はバス。三十分ぐらいかけて行く。
ピンポーン..と耳が痛むか痛まないかぐらいの高さで鳴る。しかしでない。
もう一度ピンポーン..しかし数秒待っても応答なし。
首をひねり少し考え、もしやと思いドアノブもひねってみると...なんの抵抗もなく、きぃ..という音と共にドアが開く。
事件事故が少なくなった世の中とはいえ、流石に物騒じゃないか?疑問に思いながらも玄関から声をかける。
「おーい!大輔ー!大丈夫かー!なんかあったかー?!」
俺の声がむなしく室内に響き渡る。大輔にも聞こえている筈だが、やっぱり応答はない。
連絡でも入っていたか、スマホを見てみても連絡はない。
ドッキリでもかけられたのか?いやでもな...。
「入らせてもらうぞー!お邪魔するぞー!返事なしはイエスとみなすぞー!いいのかー?!」
...応答、なし。仕方ない、なにかあってからじゃ遅いから、大輔を見つけに行こう。めんどいけど...ま、しゃーなしだ。
「おーい?!大輔ー!どこだー?!どこにいるんだー?!早く場所を言わないと、お前が大事にしてるお宝、外に放って羞恥にさらすぞー!いいのかー!」
もちろんそんなことはしない、それはあちらも分かっているはずだ。こうして言っておけば、ノリで「やめろよー!」とかなんとか言って出てくるんじゃないかと思ったけど...あれー?
「まーじで、あいつどこに行ったー?なんか事件に巻き込まれてるとか、それは止めてくれよホントに...」
来る前の不安が再び戻ってくる。ぐるりと回りに回った大輔'sハウスも、いよいよここが最後。そしてここにいなかったら、念のために警察にもかけるつもりだ。
大輔の自室。なんで出てこないかは知らんが、ドッキリだとしたらここで出てくる筈だから、いない訳ない...はずだ。
「大輔ー...入るぞー...」
やはり応答はない。不安に駆られた俺は、バッと勢いよく扉を開きーー
「...なん、だよこれぇ....どうなって..どうなってんだよぉ...」
親友の服をだぼだぼになりながら着ている美少女と対面するのであった。
一時間後ぐらいにもう一話あげます。よかったら、感想評価お願いします。