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死にたい僕と殺したい君と  作者: 相良美斗
19/23

彼女がいなくても回る世界

 教室が騒がしくなったのはクラスの中心の三上さんと高橋さんが来てからだった。

 ねぇ聞いて、と仲のいい渡辺君に話しかけている。

「立花さんガンなんだって」

「まじ?!」

「まじまじ。しばらく学校来れないし、修学旅行もお休みなんだって。かわいそうじゃない?」

 教室にいる生徒全員の注意が集まる。斯くいう僕も音量を下げる。

「なんか難しくてわかんなかったんだけど、ガンとか怖いよね」

「抗がん剤とかすんの?」

「するんじゃないの?絶対辛いよね」

「ほんとかわいそー」

 ざわざわと不穏な渦が広がる。

 立花さんがガン。まさか、そこまで悪いとは思っていなかった。病気だってなん全種類もあるし、少し入院すれば治るものだと思っていた。

 最後に彼女と会話したのはいつだっけ。そうだ、神崎君について聞いた時だ。今思えば、あのあたりで、結構休みがちだった。風邪をこじらせているだけだと思っていたのに、違ったんだ。

 彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ。周りは気にせず、ずっと見方でいてくれたいい人だった。そのせいでやっかみが酷くなったこともあったけど、明るくて、皆に好かれてて、素敵な人だった。

 どうして彼女のような人が病気になるんだろう。ホームルームまでただ眺めるばかりで教科書の字が全然頭に入ってこなかった。




 学年集会が開かれた。出席番号順に二列に並ぶ。修学旅行についての説明だった。話を聞きながら資料を見る。

「くさ」

「隣最悪」

 隣のクラスの人だった。明らかに距離を開けられている。くすくすと笑い声がする。イヤホンできないのが苦痛だった。話が入ってこない。先生が必要な荷物など説明している。話は一時間にも及んだ。その間ずっとプリントを見るふりをして過ごした。

 疲れた。知っている人や、何か自分が嫌なことをして悪口を言われるならいい。なんで名前も知らないような人から悪口を言われなきゃいけないんだ。

 生きるのが。死にたいじゃない。死んで楽になりたい、というより、もう生きたくない。

 なんでこんなつらい思いをして生きなきゃいけないんだろう。立花さんには申し訳ないが羨ましい。代われるなら代わってあげたい。

 痛いのはきついが、精神的な苦痛よりはましな気がする。

 やっぱり、投身自殺だろうか。首吊り、服薬、瀉血、出血、ガス中毒、練炭。いろんな自殺方法が調べたら出てきた。線路への飛び込みはだめだ。俺は確実性は高いが家族へ賠償責任が行く。ガスも、発見した家族も体調を崩す恐れがある。首吊りも、瀉血も、出血も、家が大変なことになるから、最後に残ったのが投身だった。

 検索したら失敗例がたくさん出てきた。麻痺が残った人、骨折だけだった人、様々。そしてそれらはすべて自殺はやめたほうがいいと書いてあった。

 でも、もう無理だ。

 ここら辺の高いビル、もしくは高い橋とかあればいいのに。

 そんなことを考えていれば時間がやっと終わっていた。

 部活でに向かう人が準備する中、聞きなれた声がした。

「散々部活休んで迷惑かけておいてすぐやめて、超ダサくね」

 関だった。半分くらいになった教室で大きめの声で話し始めた。

「まあ弱かったし、いてもいなくても一緒だけど。でもほんとウザい」

 そそくさと帰る準備をする。嫌な視線が気持ち悪い。

「ほんと存在が迷惑」

 じゃあ殺せよ。

 そう言ってしまいたかった。別にこっちは生きたくないんだ。死ねとか消えろとかいうくらいなら殺してくれればいいじゃないか。自分は手を下す根性もないくせに。

 心の中でどれほど悪態をついてもそれを口にすることができなかった。結局僕も根性なしなんだ。

「やあ」

 学校の門を出ると朝ぶりの神崎君がいた。彼も不思議な人だった。僕のことを嫌いじゃないと言いながら僕の悪口をただ聞いている。傍観者だった。そして人目のつかないところで話しかけてくる。

「立花さんのお見舞い行かない?」

「いや、でも人が」

「多分この時間はみんな部活してるし、部活してない人はもう行ったからしばらく行かないんじゃない?チャンスだよ」

 確かにうちの学校は部活が自由とは言え基本的にみんな所属している。部活をしていないのは女子では今日騒いでいた三上さんと高橋さんくらいだ。

 あの二人は立花さんと仲はいいがしょっちゅう話すほどでもなかった。それに遊びに行く、みたいなことを言ってたから今日はいかないだろう。男子もあんまりいかないだろうし。

「決まりだね」

 僕の沈黙を肯定と受け取ったのか意気揚々と歩きだした。

 神崎君と二人で歩くのは不思議な気持ちだった。正直、仲がいいと胸を張って言える仲じゃない気がする。誰かに見られているんじゃないかと思うと落ち着かない。

 今日は物凄く日差しの強い日だった。真っ青な空に太陽が出ており、結構あったかい。バスに乗る頃には少し汗をかいていた。

「怪我は、もう大丈夫なの」

 思ったよりも軽快に歩く姿に驚いた。ちょっと前までベッドから起き上がるのも大変そうだったのに。

「まあ、きつい動きもあるけどほとんど平気かな。ちょっとくらいの痛みなんてことないしね」

「・・・そっか」

「あ、ちょっと、冗談だから。変に気使わないでくれる」

 神崎君はやめてやめて、と笑う。なんか、最近一段と明るくなった気がする。お父さんと分かれてすっきりしたのだろうか。

「言ったっけ。今一人暮らししてんの」

「へぇ、そう」

「保護者が母方の祖父母になったんだけど遠くてね。転校とかいろいろあると大変だからって。お金はあの人がたんまり残してくれたんで。家も売ったし」

 そう言う神崎君の顔はすっきりしているように見えた。

 良かった。つらい思いをすることだけじゃない、それを他人に見せないように自分に嘘をつくのが苦しい。神崎君は特に誰にも悟られないようにしていたから、相当大変だっただろう。

 最近は作り笑いじゃない笑顔もみれるようになってきたし、良かったなぁ、と考えていたら眠くなってきた。日差しが温かく心地よかった。意識が落ちそうになる瞬間、バスが病院前に止まった。

 立花さんが入院している階は父さんや神崎君とも違った。

 一歩ずつ、緊張が増していく。鼻に着く消毒の匂いと薬品のような独特な香りがする。

 神崎君がノックをして扉を開く。

「お、珍しいコンビだね」

 久しぶり立花さんは相変わらず屈託のない笑顔で笑っていた。少しやせた気もするが思ったより顔色も悪くない。

「体調はどう?」

「今日はいいよ。熱もない」

 親指を立てて、ぐっと差し出す。

 彼女の病室にはいくつか花束があり彩られていた。なかでもひときわ大きいひまわりの花がある。ぱっと周りを明るくするその花は彼女にぴったりだった。

「病気、三上さん達に聞いたよ」

「そっか。いやぁびっくりだよね」

 彼女は困ったように笑った。僕はなんて言ったらいいかわからなかった。

「神崎君もお家のこと聞いたよ。怪我はいいの?」

「ほとんどいいよ。ギプス取れたし」

「ギプスって骨もいってたの」

 悲しそうに眉を下げた。それに神崎君は笑って、やめてよ、と言う。

「二人って仲良かったっけ」

「全然」

 爽やかに、笑顔で言い放った神崎君に立花さんも目を開く。間違ってないけど言い方ってものがあるだろう。

「ちょっとした縁があるだけ」

 瞬きをすると彼女の長いまつげが揺れる。

 傾く日が窓から差し込み彼女のまつ毛の影を作る。

「優太もなんか言ったら?」

「え、あぁ。入院長引くって聞いたんだけど」

 時間をかけて出た言葉がそれだった。スマホ越しではいくらでも会話できるのに、面と向かうと難しい。

「そうなんだ。いろいろ治療があるからさ。でも負けないから、頑張るよ」

「お、さすが委員長」

「委員長関係あるかな」

 二人は楽しそうに笑った。秋は日が暮れるのが早く、長居せず病室を後にした。明日には抗がん剤治療が始まるらしい。もっと、落ち込んでいるかと思ったけど、驚くほど変わらなかった。

 その明るさが強いな、と羨ましくなる。

 数分の間に空が紫に染まっていた。

 




 数日もすれば、立花さんがいないのが普通の日常になった。まるで元から、存在しなかったかのようだ。その虚しさや物足りなさを感じているのはほとんどいなかった。

「神崎、今日放課後暇?」

 菅野君の声は良く響いた。

「まあ暇かな」

「じゃあ帰り駅のほう遊びに行こうぜ」

「あれ、今日部活ないんだ」

「顧問がいないから休みなんだよ」

 橋本君も加わる。

「えぇ、いいなぁ。私たちも行きたい」

 神崎君の周りは本当に人が集まる。虐待の報道が流れた時はあったみんなの抵抗感はあっという間に取り払われ普通になった。これが彼と僕の決定的な違いだった。 

「いいの?立花さんのお見舞いとか楽しそうに行ってたじゃん」

「いいよいいよ。思ったより元気そうだし」

「遊んだほうが楽しいもん」

 ねぇ、と高い声がはもる。確かに病院は楽しい所じゃないが、そういう言い方もどうなんだろう。彼女たちより立花さんと仲がいいから、どうしても引っかかる。

 参考書をめくる。来週からテストが始まる。今回は一通り復習が終わっていた。好きなだけ遊んで点数落ちればいいのに。

 心の中で悪態をつく。口に出さなければ何を言おうか僕は自由だった。

「そろそろ進路調査を提出してもらう。真剣に考えろよ。もうすぐ受験生だぞ」

 授業の終わりに担任が来たと思ったら一枚の紙が渡ってきた。

 進路希望調査。特に決めてはいない。

 少し考えたりもしたが、正直、生きる希望もない今、考える必要があるだろうか。

 母さんは、大学に行ってほしいだろうな。そういうことを考えると罪悪感でより死にたくなる。

 顔を覆って長い息を吐く。授業が終われば一番うるさい連中はそそくさと学校を去っていった。

 学校に設置されているコピー機に並ぶ。普通一枚十円の所を五円で印刷でき生徒に重宝されているのだ。特にこのテスト期間は列を作る。

「あ、すみません」

 前に並んでいる子が紙をセットするときに脇に抱えていた他の紙を落とした。床にバサッと広がる。よく見ると楽譜だった。

 無言で拾えばペコ、と会釈をした。吹奏楽部の子だろうか。黒髪に肩までの髪は文化部っぽいが合唱部もあるからよくわからない。そう言えば、立花さんも吹奏楽部だ。部活好きそうだったから、悔しいだろうな。大会とかない時期ならいいけど。

 前の小さな子は何枚も楽譜をコピーしていて、僕が印刷を終わるのも結構時間がかかった。

 数日ぶりに、病院への道を歩く。バスに揺られるのは心地よく、見慣れた景色もなんだか違うように見える。

 彼女のいる階に到着すれば賑やかな声がした。

「マジ菅野顔に出すぎ―」

「そんなことねえよ」

 嫌な声に咄嗟に男子トイレに隠れる。数人の足音が近づいてきた。

「ほんと、告っちゃいなよ」

「だからそんなんじゃねぇって」

 まんざらでもなさそうな菅野と楽しそうな男女の声がした。今日は来ないって言ってたのに。菅野君が行きたいとでも言ったのだろうか。いや、きっと彼の気持ちを知っててみんなからかってるんだろう。

 危なかった。数秒でもずれてたら鉢合わせするところだった。

 エレベーターが行ったのを確認してからゆっくりトイレから出る。心臓が止まるかと思った。トイレに入ってこなくって本当に良かった。深呼吸して少し落ち着かせてから彼女の病室に向った。

 部屋をノックする。

「はい」

 高く、通る声がした。

 部屋に入れば姿の変わった立花さんがベッドに座っていた。

「髪、きったの」

 長かった黒髪は肩より短く切りそろえられていた。

 彼女は照れ臭そうに髪をなでて頷いた。

「抗がん剤の副作用で抜けるって言うし。切っちゃおうと思って」

 そういう彼女はまた少しやせたような気がした。

「これ、よかったら」

 鞄から大量の紙束を渡す。

「わ、ノートコピーしてくれたの?助かる!」

 病気が治ったら、すぐに復帰できるように、勉強はしておいた方がいいかと思った。字が綺麗なわけじゃないけど、読めないことはないだろう。

 少し開いた窓から風が吹きさし、紙を飛ばす。拾えば彼女が腕をさすっていた。

「閉めようか」

「ありがとう。いい天気なのに寒いよね。もう秋になってきたなぁ」

 窓を懐かしそうに眺めた。 

 きっと、ストレッチャーですれ違った日に入院しているならそろそろ一週間が経つ。外が恋しいのかもしれない。

 中庭に出れないのだろうか。そう聞こうと思って、やめた。外にまだ彼らがいるかもしれない。ここで二人で会ってたことがばれるのだけは避けたかった。

「体調はどう?」

 勇気のない自分に呆れた。本当にしょうもない人間だ。他人には口答えもできず、ただ女々しく脳内で蔑んでばかり。結局、自分じゃなんにもできないクズだ。

「抗がん剤の治療を始めたんだけどまだ副作用はないよ、ちょっと怠いけどそこまでじゃないかな。案外いけるかも」

 彼女はすごいでしょ、とおどけるように笑った。

 迷惑になると悪いから少し話して病室を出た。今日はひまわりじゃなくてばらが飾られていた。もしかしたら菅野君が持ってきたのかもしれない。きれいだけど、変に妖艶で彼女には全然あってなかった。

 病室に広がったばらの匂いを忘れたくて深く息を吸う。院内の空気はそんなにいい匂いのするものじゃなかった。

 病院を出た時、同じ制服の子とすれ違った。黒髪にボブヘア、コピー機の所であった子によく似ていた。もしかしたら立花さんの所に来ているのかもしれない。だったらあの楽譜は彼女へのものか。喜ぶだろうな。

 簡単に彼女が喜ぶ姿を想像できた。

 外はさっきよりも冷たい風が吹いてて肩をすくめる。

 寒々とした秋の空が広がっていた。





 毎日のように立花さんのお見舞い行ってきた、という声が響いていたが今日はそんなことはなかった。定期テストの初日。さすがにみんな朝から勉強していて静かだ。こんなに過ごしやすい教室は久しぶりだ。

 シャーペンが走る音とページをめくる音だけが響く。テスト中は一層呼吸が楽だった。何も考えず、問題だけをただ解く。こんなつもりじゃなかったが、毎日勉強していたからか初めてこんなにすらすら解けた。

 今日から一週間テストが続く。その間午前授業で午後は休みという素晴らしい日程。この一週間だけは快適だった。

 先生たちもすごい人数分の採点をするのにものすごく早い。月曜から返却が始まった。

 九十二点、八十九点、八十八点。帰ってきた教科三つとも過去最高だった。

 やった、頑張った甲斐があった。内から暖かいものが沸き上がるような感覚を始めて感じた。

 「伊藤、久しぶり」

 テスト明けの昼休み小田が珍しく教室に来た。部活をやめてから全然あってなかった。クラスが小田は五組だから全然会わない。

「テストどうだった?」

「今のところ過去最高」

「まじか、いいなぁ」

 その小田の声に重なるように、舌打ちが聞こえた。

「うっざ」

 菅野君だった。一瞬で感情が急押下する。咄嗟に、小田に聞こえていないか、ということだけが気になった。

「いや、勉強遅れて必死だったからさ」

 何でもないふりをして会話を続ける。頭の中は混乱してピリピリしていた。ここは聞かれている。できるだけ波風立てないようにしなきゃ。小田が来てくれてうれしいのに、必死に心の中で早く会話が終わるように願った。

 そしてテストが終わって一つ、大きく変わったことがある。

 誰も立花さんのことを口にしなくなった。

「今日立花さんの所いかないの?」

 神崎君の声に聞き耳を立てた。

 濁すような曖昧なリアクションを取っている。

「なんていうか、ちょっと行きにくいって言うか」

「そうそう。髪の毛全部抜けて病人っぽくなってみてられないって言うか」

「かわいそすぎてさぁ」

「わかる」

 彼女たちは気まずそうに教室を出ていった。今日はスタバの新作だから、そっちを優先するらしい。

 立花さんは彼女たちに頼まれて宿題を見せたりしてたのに。簡単に見捨てるんだ。その程度の人だよね、知ってた、知ってたけど最低だな。

 また、心が重くなった。みんなそれよりも久しぶりの部活だ、とあっという間に教室から居なくなった。

「君はどうするの」

 気づけば教室に二人きりになって居た。

 茶色の目がじっと見つめる。

 答えなんて既に決まっていた。

 なんとなく気分が重い。彼女へのドライな態度が仕方ないと思いつつも納得できなかった。お見舞いは強制じゃないし、各々やることもあるから無理にとは言えないけど。こんなもんなのかと悲しくなる。そうなことを考えるといつもの病室の廊下もちょっとだけ殺伐と感じる。

「お、テストお疲れ」

 病室に入るといつもと変わらない彼女の笑顔に出迎えられた。

 変わったのは彼女の髪型と、そして丸くなった顔だった。太ったのかとも思ったけど、多分そんなことはないだろう。病気のせいか薬のせいかむくんでいるような気がする。

 それでも彼女は彼女のまま、ベッドの上でぱっと明るい笑顔を咲かせていた。

「びっくりした?全部抜けちゃったよ」

 おどけるようにえへへ、と笑った。こういう時、なんて言ったらいいんだろう。傷つけず、しんみりしないような言葉。考えれば考える程出てこない。握った掌に汗がにじむ。

「いやぁ、髪の毛なくても変わらず可愛いね」

 神崎君はさすがだった。さらりと嫌味なくそういうことが言える。彼女は一瞬驚いたように目を見開いて破顔した。少し涙目に見えた気もする。

「しかもすっぴんでしょ?レベル高いねぇ」

 そう思うでしょ、と話を振られて大きくうなずく。うまく言えなかっただけで本当にそう思ってるから、という気持ちを込める。

 うれしいなぁ、と彼女はまた笑った。

「これ、良かったら食べて」

 今日は手ぶらなのもなんだからお見舞い品を持って来ていた。と言っても高いものじゃなくてコンビニで売ってる安いゼリーだ。

「ありがとう。あとでもらうね」

 きっと毎日来ているだろう親御さんの分も一緒に買ってきたからみんなで食べれるだろう。せめて、この殺風景な部屋でも暖かい時間を過ごしてほしいというささやかな気持ちだった。

「もうすぐ修学旅行だね。いいなぁ。お土産買ってきてよ、なんて」

「お、いいよ。美人さんにはいいもの買って来よう」

「わ、ほんとに?期待しちゃうよ?」

 楽しそうな会話の後ろで息がつまった。修学旅行なんて行きたくない。それでも、初公判は修学旅行のあとで、一緒に行くと約束してしまった。この時期死んでも父のこともあるのに余計迷惑をかけてしまう。母さんにはできるだけ迷惑をかけたくなかった。

 それを考えると、行かざるを得ない。うまく、笑えなかった。

 毎日、毎日、修学旅行が近づくのが地獄へのカウントダウンの様だった。




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