エリカとアベリア
森の中が暗くなってきました。
すると……
ボオ、パチパチパチ……。
アベリアがいきなり私と彼の間にある枯れ葉に指先で火をつけて、周辺に落ちている枯れ枝を割って焚火を作った。辺りは真っ暗でアベリアの作った炎が明るく照らしてくれる。
あまりにスムーズにアベリアが動くので、頭が停止した私は炎を見つめていた。
「エリカ? どうかしたか?」
「え、あの……アベリアは今どうやって火を熾したの?」
「え?」
「え?」
かみ合わない思考をどうにか理解できるように私達は少しづつ話を進める。
アベリア曰く、生活活動の中で家事を行うのに使う簡単な火や風を操る魔法を、この世界の住人は普通に使えると教えてくれた。
今もアベリアは2言くらいの呪文で指から小さな火を出して見せてくれている。
「これくらいなら子供でも出来るが、これ以上大きい火を出せる奴はあまりいない。
風も少し手で仰ぐくらいの風力がだせるが。
……逆にこれらが出来ないエリカが不思議だ」
アベリアは私を見下しているわけではなくて、先程の彼の大怪我を治療した私が何故一般的な魔法が使えないのか心底不思議だと言う。
「私が育った場所では魔法ではなくて道具で火や風をおこせていて、その方が簡単で便利だったから私はその魔法を知らないのよ」
「そうか。しかし、この国ではエリカ程の治癒力は王都にいる魔法使いの中にだってそうはいない。
まさか単純な火や風を使えないとは思わなかったよ。
だから、俺は夜で暗くなってきたのにエリカが何故火をつけないのか疑問だったんだ」
「アベリアは魔法使いではないの?」
「俺程度に魔力が使える奴は沢山いるさ。
俺はオーガだから魔力よりも力の方が強い。得意の武器は弓矢や剣だな。
もしも、エリカが俺に守って欲しいのなら俺に弓か剣又は両方持たせてくれ。
そうしたら俺がお前を守ってやる」
饒舌にしゃべるアベリアは急に私を守ると言い出した。
え? さっきまで私の事を恨んでるというか睨んでいたのに、親密度がいつの間にか上がったの?
「守るって言ってくれるのは嬉しいけれど、アベリアはこの先どうするの?
私と一緒にいていいの?」
昼間の残忍な三銃士と別れたのだもの、自由になったアベリアはまだ若いのだし、この先の目的があるんじゃないのかな。
と、またアベリアは美しい青い瞳を鋭く光らせて眉間に皺寄せ私を見据える。
私は彼の癇に障ることを言ってしまったかしら。
「……俺は……この先、特に何か予定があるわけじゃない。
エリカはすっごく頼りない奴だから、俺が守ってやろうと思っただけだ。
お前は常識がなさそうだから。
そんなんじゃこの世界、すぐに悪い奴に引っかかるぞ」
常識が無いと言われてムッとする私。
助けたお礼の言えない人に言われたくないわ。
私が頬を膨らませてアベリアを半目で見ると彼は少し肩をすくめて、
「あ、俺、失礼な事を言ったか? ……悪かった、すまない。
エリカはさっき俺の体の傷を治してくれたし、旨いものを腹いっぱい食わしてくれたろ。
今更だけど、ありがとう」
おお! 初めてアベリアに私の考えが伝わったわ。
しかも彼がこんなに真摯にお礼をのべてくれるなんて感動だ。
私の表情が和らぐとアベリアは眉を落としながら優しい口調で言う。
「でも、エリカはあんな状態の俺に気安く関わるくらいお人よしなんだから、この先のエリカが俺は心配なんだよ。
だからエリカの事を守りたいんだ」
なんだ、これ、顔が熱い!
こんな守りたいなんて言われた事ないし、優しく心配された事ないわ。
アベリアは正直汚れているのと痩せすぎで異性だと認識していなかったけれど、今ものすごく胸がドキドキしてきた。
心臓が強く打つからボインが揺れる。
は、恥ずかしい~。
昼間まで大きくなった胸が揺れるのに喜んで、かなりハイテンションだったのに、今は揺れるのが恥ずかしくてボインを隠したい。
赤くなる顔と胸を見られたくなくて、アベリアに背を向けた。
「あまり重く考えないでくれ。
治癒と食事のお礼だと受け取ってくれればいいから、エリカが常識を身に付けるまで俺を側に置いて欲しい」
アベリアは真っすぐ私に向かって言っている。
う~ん、この世界に来て20日目。初めて会ったオーガの青年と一緒に行動かあ。
……ちょっと不安。
だって、アベリアはやはり男で私は女。種族が違っても襲われる心配をしてしまう。
でも、もしかしたら死神様の言っていたナビは彼なのかも知れない。
私にこの世界の常識を教えてくれるみたいだから、流れ的にはアベリアが私の案内人の可能性がある。
だったら、断ったら駄目だよね。
この世界の情報を入手することが難しくなってしまうもの。
私はアベリアの方を向いた。
アベリアは真顔で私を見ている。彼は根は良い人なんだろう。
「うん。アベリア。
私が自活が出来るようになるまで守ってね。
これからよろしくお願いします」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。