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自己紹介

沢山食べてお腹が膨れました。

それなのに男は今だにお礼の一つも言いません。


 お腹が満たされると幸せになるのはどこの世界の人でも一緒らしく、男から発せられていた尖った空気が和らいだ。


「ごちそうさまでした」


 私は両手を合せて言い、食器を重ねる。


 その私の行動に居心地が悪そうに、男は私から目を逸らして自分の首に嵌るリングを手で忙しなくいじっていた。


 彼からは私に命を助けられた事や食事を与えられた事へのお礼の言葉はない。


 いや、そういう態度を求めて助けた訳ではないけれど……やはり少しは腹が立つ。


 長い腰まである髪は汚れていて房になり、元々の色が分からないけれど今は黄土色。パッと見は分からないが、さっき運んだ時に彼の頭の両側面に親指大の角があるのは見えた。


 瞳の色は輝くようなブルーで魅力的なのだけれど、色つやの悪い顔色に唇。

 頬は大分こけていて彼の顔の中で目だけが美しく主張している。

 体の傷は全部治癒したけれど、体形は痩せ細りアバラがクッキリ鎖骨がハッキリ腕と足は棒のよう。


 今まで彼に礼儀や常識を教えてくれる人がいなかったのかもしれないし、さっきの突然斬りつけてくる三銃士みたいなのに捕まっていたら、他人にお礼を言う事が出来なくなっても不思議では無いのかもしれない。


 でも、食事の姿勢や食べ方は綺麗だったし、不思議だわ。


 ここは心を広く持って私から話しかけよう。


「あの~、お腹もいっぱいになったことだし、貴方の名前を教えてくれる?」


 私が声をかけると男は少し安心したように私の顔を見て、


「アベリア・ゴーチャーと言います。」


 と名乗った。

 男の声や話からすると私よりは年上な感じね。


「歳は幾つ?」

「俺は今年40歳になりますが……」


「は? 40歳?」

 男は真顔で信じられない年齢を言った。


「俺はオーガという種族で200年くらい生きるのです。

 人間のエリカ様からすれば俺は年を重ねている様に思われるかもしれませんが、オーガの中では俺は青年期くらいです」


 おお! さすが異世界。人間以外の種族が普通にいて、寿命も違っているのね。

 青年かあ……体が痩せすぎていてアベリアさんは未発育……少年にも見える。


「それにしても、アベリアさんは私の名前を様付で呼ぶけれど何でなの?」


 何だろう、助けたお礼は言わないけれど、名前は様付でしかも話し方が丁寧なところとか、アベリアさんの私への態度はどこかかみ合ってないチグハグとしていて引っかかっるわ。


 私の質問にアベリアさんは銀のカチューシャを指で触りながら考えているようだ。


 あの首輪はなんでさっき光ったのかしら?

 それに、アベリアさんはあのカチューシャを気に入って身に付けている感じではないね。

 何となくだけれど……自分で付けているというより、はめられているのかしら。


「……エリカ様。この銀色のリングの意味をご存知ですか?」


 えー、質問に質問で返してきたよ。

 コンパで何歳に見えるって聞かれるのと同じくらい、答えを考えるのが面倒くさいわ。


「知らない。その細い首輪が何?」


 アクセサリーの意味は花言葉とかと一緒で、地域によって意味合いが違っている物だし、この世界であのチョーカーにどんな意味があるか、全然想像がつかないわ。


 私の答え「知らない」を聞いてアベリアさんは口の端を上げた。


 ……悪い感じの笑みだな。


「俺のこの首にしている銀輪はオーガの証です。

 街で見かける大抵のオーガはこの銀輪を首に嵌めております。

 様付でお呼びしたのは初対面の貴方に失礼が無いようにと思いまして」


 アベリアさんはニッコリ笑顔で言った。


 明らかに何か隠していてちょっと怪しいとは思うけれど、首輪についてそれ程気にするほどでもないよね。


「あ~、それなら私の名前はエリカと呼び捨てでよんでもらえるかな?

 様付で呼ばれるのは落ち着かないから」


 アベリアさんは張り付けた笑顔で私を見つめて、少し時をおいてから口を開いた。

 私の何かを確認? 観察? している様子なのだけれど何だろう?


「分かりました。……エリカ」


 私の名前を慎重に発音している? そして私を窺うようにアベリアさんは青い瞳でジッと見てくる。

 と、取り敢えず敵意が無いことを示すため笑顔を作っておこう。


 私とアベリアさんはお互い作り笑顔を交わす。


 アベリアさんは緊張していて、何かを警戒している様子だった。

 でも特に何も起きない状況に肩の力を抜いてハア―と深く息を吐いた。


「エリカ、良ければ俺の事もアベリアと呼び捨てにしてくれ」


 急に砕けた口調で話し出すアベリア。


「うん、分かった。アベリア」


 私が返事をしてぎこちなく笑みを交わす。


 彼の表情が柔らかくなったのは良いけれど、きっかけが分からない。

 何をあんなに考え込んで、私を試すような感じだったのか。

 それでも話しやすくなって良かった。


 でも、今からどうしようか? 辺りは暗くてもう夜だわ。

 高い木々の間から入る細い月明かりが私達の影を作っていた。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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