エリカ大怪我の男に治癒をします
エリカ目の前の瀕死の男を放って置けず助けることにしました。
治したいと強く願う事、ただそれだけで私は怪我や病気を治癒できるらしい。
男を仰向けに寝かせて剣で斬られた傷に両手を軽く当てる。
こんなやせ細り無抵抗な男に向かって剣を振るったあの三銃士への怒りと、男への憐れみの気持ちが入り交ざり私の胸から腕手が淡く光り、輝く治癒力が流れ出していく。
あんな非道な輩に切り殺されるなんてあんまりだわ。
絶対に助けて見せるよ。
生きていればきっと良い事もあるわ。
両手から金色の光がキラキラと男の体の上で弾け飛び金色の光は傷口へ溶け込んでいった。
出血が止まり傷が閉じて消える。
「……もう少し」
私が男の上体へ能力を注ぐと浅く小さかった呼吸が大きく緩やかに寝息へと変わり、今まで生気の無かった皮膚が綺麗に色づきだした。
はあ―――――、何とか山は越えたみたい。
取り敢えず安心したけれど、この道にまたどこかの人間が来ると厄介よね。
あっちの方には死体が転がっているし、死体が見つかると私も騒動に巻き込まれてしまう。
落ち着いて男を見て見ると、向こうの木から覗いていた時よりも背が大きい。
私が160センチピッタリなので、彼はだいたい175センチくらいかな。
運べるか不安だけれど、このまま道にいるには良くないと思うから木々の中に移動しよう。
私は規則正しく呼吸をして横たえる男の脇に両腕を回して彼の胸の上で両手を組み上半身を持ち上げ、木々の中へ引きずって行くことにした。
その時、男の頭が私のボインに乗り彼の頭上に小さな角が見えた。
え?
頭に2か所、親指大の円錐の角が生えている……この人、人間ではない種族なのか?
って、事はあの倒れていた男性のお尻のフサフサはやはり尻尾だったのかな。
三銃士達は上から下まで衣服をしっかり身に付けていたから、身体的特徴は分からなかったけれど、もしかしたら彼らも人間では無かったのかも知れない。
道がギリギリ見える木々の間まで男の体を運び、タオルを畳んで男の頭の下に敷き落ち着いた状態で寝かせた。
男は痩せていて体重が軽く、私でも運ぶことが出来た。
これは心配になる重さだわ。
この人、食べていないんじゃないかしら?
体もさっき斬られた刀傷だけでなくて、痣や古い傷が体の至る所にある。
こんなに体を酷使されて剣で斬られる残酷な環境で生きているなんて、可哀想過ぎる。
そう考えてまた私の目に涙が溜まり、ポタポタと落ちてしずくが男の頬にかかった。
男の瞼が動き目がゆっくりと半分開くと、男の細い首に嵌る白銀のカチューシャが鈍く発光した。
何だろう? この首輪は?
白銀のリングはボヤアと光っている。魔術的な物かしら。
あ、何か言いたそう? 男の口が動いている?
彼は声にならない声で何か言いたそうに口を動かしだした。
言葉を聞こうと顔を近づけるが、それでもよく聞き取れない。
「……しゅ……けい……あな、た……なまえ……」
最初の方はほぼ聞き取れなかったけれど、私の名前を聞いているのかしら?
どうしよう、名前を教えても良いのかな?
「……な、……名前……なまえ……け……やく、な……」
男の青い瞳は焦点が合わず空を彷徨い、うわ言のように名前と連呼しているように聞こえた。
もう、男を助けると決めて彼に治癒力を使ったのだし、拾ったら最後まで面倒を看るしかない。
私は腹をくくって男に名前を告げた。
「蛇目エリカ。私の名前はジャノメエリカといいます。エリカ、分かる?」
「……エリカ……」
男が私の名前を口にした瞬間、彼の首のリングが閃光を放った。
「え!」
私は反射的に目を瞑り、少ししてゆっくり瞼を開くとカチューシャは白銀色に戻っていた。
「何だったの今の光は?」
傷ついてボロボロの男の首に嵌められる不釣り合いな白銀の輪。
ただのアクセサリーでは無いのか?
「……しまった!」
大声で叫び、男は青い瞳を大きく開いて上体を勢いよく起こした。
彼は青い目で私を凝視してきてそのまま動かない。
私も展開についていけず固まる。
すると、彼は絶望したかのように青い瞳を暗くして、自分の首輪を触りながら蚊の鳴くようなか細い声で呟いた。
「……こんな……のか……また……」
悔しそうに歯を食いしばり、私を睨みつけてくる。
今までの私の短い人生では経験をした事が無い。
一応、人助けをしたはずなのに恨まれるなんて想定外です。
お礼を言われないとしてももう少し喜んでくれても良い状況だと思うのに、男は悲しみと後悔をしている雰囲気。そしてこの状態にした私に怒っている感じだわ。
私が彼に謝る……いや、違うよね。
私、悪い事をしてないよね。怪我をして死にそうな男を助けたのに謝罪するっておかしいよ。
だから、彼にかける言葉はごめんねとかでなくて、え~と……こういう時に場を明るくできる掛け声って何?
私が頭フル回転で悩んでいるとグウウウウウ……と、男の腹が大きく鳴った。
ここまで読んでいただきありがとうございました。