告白
ポクポクポク…
アベリアに馬へ乗せてもらいお城へ向かう。多分馬に乗り慣れない私のために、アベリアはわざとゆっくり馬を歩かせてくれているんだろう。リラが乗った馬車もフヨウ隊長達の護送車もかなり前に見えなくなった。
お城へ向かう街中はひっそりと深い夜を迎えていて街に人影は見当たらず、殆どの家の明かりは消えていて道の端に偶に有る街灯がぼんやりと道を照らしていた。
ゆっくり歩く馬の上は大きく揺れる事はなくて、それでも私が馬から落ちないようにアベリアの片腕は私の腰を抱くようにして支えてくれている。
私はアベリアの顔を見上げることをためらい、彼の胸元に目線を彷徨わせていた。
アベリアに会いたくてアベリアと話したくて今まで行動していたはずなのに、要約2人きりになれた私は何を彼に話していいのか全く分からず、私を抱えてくれる彼の温もりに恥ずかしさと安らぎを感じている。
いやいや、この状態を楽しんでないで自分。もうアベリアに会えない状況を招かないようにしないと。
よく考えてアベリアへ私の彼を好きな気持ちを伝えたいと色んな言葉を浮かべては上手く言葉を繋げない。
う〜ん、考えれば考えるほどにどう伝えればいいのか分からないよ。
「エリカ」
と、不意にアベリアが私の名を呼んでくれた。反射的に顔を上げるとアベリアは優しく私を見ている。アベリアは微笑んで言った。
「俺を奴隷から解放してくれてありがとうな」
私はアベリアの言葉を聞いて自分は間違っていなかったと嬉しくなってアベリアへ微笑み返した。
アベリアを奴隷から解放して離れ離れになってしまい私は寂しかったけれど、彼が喜んでいてくれたならあの選択は良かったんだ。
でも、それなら何故アベリアは傭兵なんて危険な仕事をしているんだろう?
「…アベリア…」
奴隷から解放され自由になった彼がどうして傭兵になったのか経緯を聞こうと口を開いた時、アベリアは美しい青い瞳を細め
「しかし、エリカから奴隷解放された直後は、俺はお前に捨てられたと思えて悲しかったがな」
と、低い声で言われた。
え? アベリアちょっと怖い。怒っている?
「っていうか待って、アベリア。
私、アベリアを捨てるなんてそんなこと考えた事ないよ!」
何で急に思ってもいないことを言うの!
私が唖然と彼を見るとアベリアは不服そうに
「そうか? だが実際、俺を奴隷から解放するとエリカは俺に相談なく決めて、解放後はエリカは一方的に別れの言葉を言って俺を置いて部屋から飛び出して行ったよな。
あれはどう考えてもお前は俺を捨てたんだとみえた」
アベリアは寂しそうに眉を下げて、でも意地悪そうに口端を上げている。
「そ!…そんな事は…私は奴隷から解放されたアベリアに自由になって欲しくて、この先お城で暮らす予定の私と一緒じゃあアベリアがアベリアの人生を歩めないと考えて…」
馬の上に横座りしているのも忘れて、アベリアの服を両手で力一杯握り締め彼にしがみつく
「アベリアを捨てたんじゃない、そんなの酷い誤解よ!
アベリアと別れることを決めて私は心が引き裂かれる思いだったのに! 」
激情して涙が浮かんでくる
「私はアベリアが好きで本当は別れたくなんてなかったんだ!
ずっと2人で山で暮らしていたかった!」
アベリアを見上げ叫ぶように告白してしまった。
どうも私は直ぐに感情が高ぶってしまうのか、アベリアと離れる時にも自分の思い描いていたような和やかな別れには出来なかったし、好きだって告白はもっと可愛らしく伝えるつもりだった。
こんな噛みつく様な告白をする予定じゃなかったのに。
「…ッツ…フッツ…クッ…」
反省中の私を見ながら小刻みに震えだすアベリア。
はあ? 何で?
「フッハハハハハ…エリカの必死な顔…ハハハ…久しぶりに見た…ハハハ」
アベリア、もの凄く楽しそうに笑っている。
キー! もう…もう…また私を揶揄っていたの!
「アベリア! 何笑ってんの!」
私の初めての告白を笑わないでよ!
「すまん、エリカ。怒らないでくれ。
俺はやっとエリカを取り戻せて、今エリカの顔を見たらその事が嬉しくて喜び過ぎたんだ。
エリカを馬鹿にして笑ったんじゃない。不快にさせたなら謝るよ」
アベリアは目の端に涙を浮かべ微笑んで私を見下ろし、腰に回した手で優しく私の背を撫でた。
私は怒っていた気持ちが急速に沈められ、アベリアの熱のこもった瞳を見て胸がときめく。
「俺はエリカと離れてから、もっと早くお前に俺が奴隷である事を話しておけば良かったと思った。
そうすれば俺もエリカもお互いを理解して、あの時に別れる以外の選択が出来たんじゃないかと反省したんだ」
アベリアは私の目から瞳を外さず、馬は帰城の道を知っているかの様に私達を乗せて歩いている。
真っ暗な空には細い月が出ていて、アベリアは落ち着いた声で彼の事を話しだした。
「俺は奴隷市場で生まれ戦闘奴隷として育てられた。だから生きている間は奴隷から抜け出せないと諦めながら生きていた。だけどあの獣人に捨てられた時、俺は初めて奴隷から解放されると喜んだ。
諦めながら生きていたとはいえ、いつか奴隷から解放されたいと俺は願っていたから」
アベリアは淡々と話す。静寂の中、彼の声だけが耳に入ってくる。
「そしてあの時エリカに隷属契約を結ばれた時、俺は絶望した。
また奴隷に戻されたと。一度灯った希望をまた失ってしまった。
だからエリカの事は最初は憎かったんだ」
そうね。あの時アベリアは私を憎むように睨んでいたわ。
そうだろうと思ってはいたけれど、アベリアの口から私を憎んでいたと聞くと辛いな。
「エリカ、違う。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
隷属契約を結ばれた時は俺はお前の事を知らなかったから、俺はお前を恨んでしまったが今はエリカの事を俺はよく分かっているつもりだ。
エリカは常識がなくて危なっかしいが優しくて思いやりのある可愛い女だ。
そんなお前と山で一緒に暮らした日々は俺の人生の中で素晴らしい時間だった」
うはあ、アベリア私のことを褒め過ぎじゃない。は、恥ずかしい。顔が暑いわ。
「エリカ」
私が熱いのかアベリアが熱いのか2人の心音が響く様に聞こえる。
「お前は俺の幸せを願って俺から離れたが、俺の人生の中で幸せだと思える場所はエリカの隣なんだ。
だからこの先、俺がエリカの隣にいるのを許してほしい」
上半身はほぼ密接してて顔も間近。
心臓がボインをから飛び出すんじゃないかと思えるほど跳ねている。
「アベリア、私と一緒にいてくれるの?」
信じられないくらい嬉しい。
「ああ、俺はカルミア王子から北の戦いの褒賞に女神様から遣わされた女性の守護役を貰った。
だから今後は俺はエリカを守る為にお前の近くに居られる」
アベリアは私と暮らす為に危険な戦いへ傭兵になって参加していたんだ。
アベリアの真剣な眼差しにまるで酔っている様なふわふわ浮かぶ幸せな気持ちになっている。
「一緒に暮らせるなんて嬉しいよ。私…アベリアが好きだから…」
「ああ、俺もエリカのことが好きだ」
アベリアの美しい青い瞳がゆっくりと閉じて私に近づく。私も目を閉じた。
初めてのキスは穏やかでそれでいて嵐の様に胸が騒つく。
何度か唇を重ねて、私はアベリアのたくましい背中に両腕を回し彼の硬い胸に顔を埋める。
空が明るくなりはじめる頃、私達は城へ到着した。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




