戦闘2
「フーーー、おまえ、どこか見覚えがあると思ったが、以前俺が買った奴隷じゃねえか?」
ライオンの獣人は呼吸を整える様にアベリアから間合いを取りながら言った。
アベリアはライオンの獣人の動きから目を離さず
「ーーああ、久しぶりだな。前の主人さん」
と、答え次の打ち合いのタイミングをはかる。エリカを探して地下室へ突入し、部屋の中の獣人達を見てアベリアは直ぐに獣人達が自分の前の主人だと気がついた。だから戦闘開始時にライオンの獣人がエリカを自分の盾にする為に手を伸ばす事を瞬時に悟り、ライオンの獣人からエリカを引き離すことができたのだ。前の主人の卑劣さは嫌という程知っているから。
ライオンの獣人はアベリアを面白いものを見る様に目を細め
「おまえ、前の時と大分見た目が違っているが、お前に似合ってた首輪はどうした?
今はご主人様に媚びついてく奴隷じゃねえのか?」
アベリアを揶揄った。
しかし、アベリアはライオンの獣人の態度に自分でも不思議なほど腹が立たなかった。この獣人の奴隷の頃なら今の様な言葉を聞けば腹わたが煮える様な思いをしただろう。でも、今自分の後ろにいるエリカの存在を感じ、目の前の獣人の嘲りなど正直どうでも良いと思う。
そう、今自分の成すべきことはこの非道な獣人を殺さずに捕まえ、そして…俺はエリカに…説教をするんだ!
エリカは危険に飛び込んでいく。山の中で散々俺が注意していたのに、俺がエリカの側を離れた途端この状況だ。エリカはこんな危険な獣人達に捕まってやがる。
エリカがフラフラ勝手な行動をするおかげで、俺がどれだけ心配したと思っているか、エリカに心底分からせてやらねばならない!
俺は少しでも早くエリカに説教をする為、ライオンの獣人を倒すべく踏み込んだ。
▽▽▽
「ウッ……」
「どうしました? エリカ様」
「いや、なんか、一瞬悪寒が」
アベリアの戦いを見ていたら何だろう? 背筋に寒いものを感じた。
アベリアとライオンの獣人は少し離れて、今また激しく打ち合いを再開している。アベリアと獣人の打ち合いのも激しいけれど、リラ姫やフヨウ隊長達も激戦って感じで全く決着がつきそうにない。
「人数ではこちらが多いのに…あの敵の獣人達はもの凄く強いのか…」
私が不安で居た堪れず呟くと
「まあ、それもあるとは思いますが、アベリアさんやうちの兵士たちはここへ来る前まで西の怪物退治をしていたものですから、みんな疲労が溜まっていて本来の強さが出せていないのでしょう」
レンギョウさんは眉根を寄せて仕方がないのですと言う。レンギョウさん達は此処へ来る前に敵の正体が分かっていたみたいなのに、もう少し考えて疲れていない人員の編成が出来なかったのかしら?
「な…何で…そんな状態で此処へ戦いに来てんですか」
少し苛立ちながら言うと、レンギョウさんは私を見つめ
「エリカ様が拐われたから」
と、冷静に言われた。
「す、すみません! 兵士の皆様!
私の浅はかな行動のせいで大変ご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございません!
戦いが終わり次第、皆様の体力回復の為、全力で治癒をかけさせていただきます!」
激情にかられアベリアや兵士さん達に向かって土下座をしようと前のめりに屈むと
ゴンッ!!
と額に硬いものが当たった。
「いたっ!!」
「あー、何やってるんですかエリカ様。ご婦人方を守るためこの場所に防御壁を張っているんですよ。勝手に動かないでください」
レンギョウさんはいつのまにか私達の周辺に魔法で見えない壁を作っていたらしい。この壁メチャクチャ硬くて石頭の私がぶつけた痛みで数分動けなかった。そしてフッと思いついた。
「レンギョウさん、防御壁使えないかしら?」
「…? 使うとは?」
「此処を中心にこの防御壁を大きくして敵にぶつけて、部屋の壁と防御壁で敵を押さえ込んで動けなくしたところを捕まえるの」
自分で言っておいて何だけれど、なかなか間の抜けた計画だと思う。ただ、この混戦模様で戦いが長引けば敵の獣人が体力的に勝ってしまうかもしれない。出来るだけ早く戦いを終わらせるべきではと考え、その為には動きの速い獣人を止めれば良いと思った。
顎に手を添えて考えるレンギョウさん。
「ふ〜ん、成る程。出来なくはないですが、私は魔法を2つ同時には発動できないのです。
防御壁と壁の間に敵を挟むことは出来ると思うのですが、その後獣人を捉えることは他の誰かにしてもらわないといけません」
レンギョウさんは私達が背にしている壁沿いで戦っているフヨウ隊長と狼の獣人、そしてその戦いを見つめる傭兵を見て
「しかし、エリカ様の案はちょっと面白そうですし、此処でずっと戦いを見守るだけというのもつまりませんから、試しに少しやってみましょうか?」
レンギョウさんは無邪気な笑顔で言った。
▽▽▽
フヨウ隊長の大槍は特別に重くて長い。傭兵が二人掛かりでなければ持ち上げられぬ程の大きな槍。
その大槍で熊の獣人フヨウは狼の獣人目掛け突きの連打を浴びせる。
フヨウの槍の突きの速さ鋭さ重さに流石の狼の獣人も反撃出来ず、平たい大きな剣を盾にして攻撃を防いでいる。
この圧倒的な攻めによりフヨウ隊長と狼の獣人の戦いがフヨウの勝利で終わる様に見えたが、剣を盾にする狼の獣人の目に光は失われてはいない。狼の獣人は重く激しい攻撃を防ぎつつ、フヨウの隙を窺っていた。生き物は長く激しい動きを連続すれば、必ずいつかは息継ぎが必要なのだ。そこを突けば勝てる。
狼の獣人は舌舐めずりをしながら獲物の動きの止まるのを根気よく待つ。
「…フ…ッツ…フウ…」
フヨウは何十目かの突きを放ち息を大きく吸った。狼の目が光った。ここだ!
狼の獣人が素早く剣の向きを変えフヨウの身へ斬りかかっ…
ビタンッツ!!
「ンッツ!? ンンン…」
「グッツ!? ウウウ…」
傭兵の目の前でフヨウ隊長と狼の獣人がいきなり部屋の壁にくっ付いた。
「な、どうなっているんだコレは?」
傭兵が呆気にとられ言うと
「おお、意外と上手くいきましたね。エリカ様」
国一番の魔法使いの呑気な声が耳に入った。傭兵は直線角の方向にいるレンギョウを見る。
「あーそこの傭兵。狼の獣人の動きが止まっている間に彼の首へ罪人の輪を嵌めて下さい」
レンギョウは傭兵に狼の獣人を捉える様に指示を出した。罪人の輪をつけられた者は体が重くなり自由に動けなくなる代物だ。傭兵は何故狼の獣人とフヨウ隊長が壁にひっ付き動けないのか気にしながらも、狼の獣人に近付いて行き見えない壁にぶつかった。
コレは防御壁か。…ああ…レンギョウ様はあそこから防御壁を広げ部屋の壁に獣人を挟み込んでいるのか。
現状を理解し、見えない防御壁に苦戦しながらも狼の首に罪人の輪をどうにか嵌めることが出来た。
傭兵が罪人の輪を狼の獣人の首に嵌めるとフヨウ隊長と狼の獣人は二人共床に崩れる様に座り込んだ。相当な力で部屋の壁に押し付けられていたのだろう。
あれ程の凄い戦いをこの様な間抜けな格好で終わらされるとはフヨウ隊長は不憫だ。
床に座り肩で息するフヨウを見て傭兵は思った。
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