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戦闘

戦いが始まりました。

 ガンッ!! ガッツン!! ガガガン!!

 部屋中で剣の交じる音が響き、さながら工事現場の様な喧騒の中。


 私の目の前で戦うアベリアとライオンの獣人。二人共に大柄で屈強な男が剣を強く激しく叩き合わせ火花を散らしている。

 目線を移せば狼の獣人対城の兵士。狐の獣人と対峙するのはリラ姫と兵士達。


 地下とは思えない広い部屋とはいえ戦場と化したこの場で、私達戦えない者達には身の置き場が無い状態。取り敢えず戦闘の邪魔にならない様に、ヤマブキと牛族の女性を引っ張って、部屋の隅に3人で身を寄せた。


 ヤマブキは壁を背にシモツケの遺体を泣き腫らした目で黙って見つめている。彼女はシモツケに秘めた想いをもっていたのだろうか。私にとってはシモツケは悪人だったけれど、ヤマブキにとっては死んで欲しくない男だったんだ。

 牛族の女性は床に座り込み、頭の先から爪先までローブで包んで目を強く閉じて耳を手で塞ぎ震えている。女性は恐怖から必死に自分の身を守っていた。


 こういう場面に出逢うと死神様にチートな攻撃魔法を貰っておくべきだったと思う。そうしたらこの不幸な2人の女性達と、自分自身も傷つく事無く助けられたのかもしれないってつい考えてしまう…ううん…今更そんなことを考えたって仕方がない。空想に逃げないでアベリアやリラ姫達が勝つ事を信じて応援しよう。

 あっ!!

 狐の獣人に城の兵士が2人斬りかかったけれど、獣人は流れる様に攻撃を交わし兵士1人の胸に短剣を刺した。刺された兵士は床に倒れ肩で息をしている。

 良かった。即死で無いのなら私の治癒が効く。え? リラ姫がフードを脱いで、目と手振りで私に来るなと合図を送っている。…私が此処から動くのは姫達の戦いの邪魔になる…くっ…哀しいけれどリラ姫の指示に従うよ。剣で刺された兵士さん、この戦いが終わるまで頑張って生きていてね。私が絶対に治すから。


 ▽▽▽


 狐の獣人は一息ついてリラ姫を値踏みする様に見た。

「フー、貴女確かシャクナゲ国のリラ姫様ではないですかねぇ」

 狐の獣人がコートの懐から新たな剣を出し、両手に短刀を構えてリラ姫と間合いをとる。

「フン、下郎が気安くわたしに話しかけるでない」

 リラ姫のやや後ろにいる兵士2名が狐の獣人に剣を向け、獣人の動きに注視する。兵士達はリラ姫の戦いの助力をしようとリラ姫を軸に動こうとしていた。その兵士の行動に狐の獣人は嘲笑を浮かべて

「女の身でこの様な場所にお出向きとは流石、お転婆姫として有名な方だ。しかし俺の相手をするのは考え直された方が良い。嫁の貰い手が無いにしろ、その可愛らしい顔が2度とは見れないものになってしまいますよ」

 リラは狐の挑発に噛みつく勢いで怒鳴る。

「出来るものならやってみよ! この下衆が!!」

 リラ姫は狐の獣人に向かい踏み込んだ。姫の後ろの騎士が挑発に乗るリラ姫に狼狽え、慌てて狐の獣人へ向かって行った。


 ▽▽▽


 狼の獣人は平たく大きな剣を振るい、相対するフヨウ隊長は大槍を振り回す。

 傭兵が1人、フヨウ隊長と狼の獣人の戦い近くで獣人の隙を狙っていた。

 フヨウ隊長は熊の獣人で巨体に見合う怪力を持ち大槍を振るうが、狼の獣人はフヨウの力を大刀で受け流している。その様子を見て、あのフヨウ隊長の攻撃を受けて体勢を崩さず戦う狼に傭兵は恐怖を感じていた。

 たかが貴族の獣人など生まれながの地位に座るだけの者だと思っていたのだが、歴戦の猛者フヨウに匹敵する程の強さを狼の獣人は持っているのだ。



 ▽▽▽


「あ〜、エリカ様。ご無事の様で良かった」

 呑気な声がして横を見ると、いつのまにかシレッとした顔でレンギョウさんが私を見て微笑んでいる。


 え? この状況で皆戦闘中なのに?

「レ、レンギョウさん! 何で貴方は戦いに参加しないんですか?」

 貴方、国一番の魔法使いでしょ。凄い魔法でこの場の戦いを早く終わせてよ!


 私が呆気にとられた顔で言うとレンギョウさんは眉を下げて


「え〜とですねぇ。私がここで魔法を使うと威力が強すぎて敵も味方も死人を作ってしまう可能性が高いんですよ。なので戦いはアベリアさんやリラ姫、フヨウ隊長や城の兵士達に任せてあります」


 え、いやいや、この部屋に入ってきた時にレンギョウさんが一番あの獣人達と対峙していたよね。じゃあ、アレは何だったのよ。

 国一番の魔法使いなのに肝心な所でその魔法を使えないって…本当にレンギョウさんは不思議系だわ…


「それならレンギョウさんは何しにここへきたんですか?」


 獣人達に口上を述べるだけならばリラ姫でも良かったんじゃあないの。

 私の問いにレンギョウさんは長くて美しい指をツイッと上げて


「ほら、あのアベリアさんが戦っているライオンの獣人はキングサリ国の王族の方で、現国王の弟君なのです。隣国の貴族相手だけでも今回の様な問題は色々と気を使うのですが、王族の方が相手だと分かりましたので私が監視に来たのですよ」


「監視って?」


「アベリアさんがキングサリ国の王族の方を殺してしまわない様に」


「…は…」


 私の目の前で強い打ち合いを繰り広げているアベリアとライオンの獣人。二人の強さはほぼ互角に見える。


「ねえ、レンギョウさん。

 例えばアベリアが戦う相手よりも数段強いなら殺さず生け捕りって出来るとは思うけれど、あのもの凄く強くて残忍なライオンの獣人相手に、殺さない様に気遣いながら倒す事なんて無理じゃない?」


「そうですね。大変難しい事だと思いますよ」


 レンギョウさんは表情を変えずに私に同意した。

 えええ! 分かっているのなら何でアベリアに無茶な戦いをさせているんですか!





ここまで読んでいただきありがとうございました。

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