守る
エリカの治癒能力を見ようとライオンの獣人が手下のシモツケを斬りました。
「いやあああ、シモツケ!」
赤い絨毯に濃い紅の血を流して床に力無く倒れているシモツケの頭を胸に抱えヤマブキは叫んでいる。
えええ、シモツケは獣人達の仲間だよ。何で刺すのよ!?
「おい、エリカ。お前の治癒を見せてみろ」
ライオンの獣人はシモツケの胸を突いた剣を床に放り出しながら私に命令をした。
私の能力を見るために仲間を刺すなんて何て残忍な奴!
私は慌ててシモツケの横に座り血が溢れる胸に手をかざして能力を発動したが、治癒の光はシモツケの体内に流れず空中に四散してしまった。シモツケは私にとって嫌な奴だったけれど、こんな死に方はない。助けたいとどんなに強く願ってもシモツケの体に治癒力は注げず、何度試しても治癒は光り輝いて消えていく。
私は泣きながらシモツケの頭を抱えるヤマブキに優しくお願いして彼の顔を見せてもらう。シモツケは息をしておらず瞳孔も開いていた。シモツケは獣人の一撃で即死していたのだ。
「何だ、治せないのか?」
狼の獣人がつまらなそうに聞いてきた。
「…彼は…死んでいます。…私の能力では…死者を蘇らせる事は出来ません」
悔しい! こんな非道な行いに争う力は無く、治癒能力すら届かない。コイツら許せない!!
「おいおい、これじゃあエリカの能力が見られないじゃないか」
狐の獣人が笑いながら言い
「シモツケの野郎、俺達への最後のご奉仕にもう少し頑張ろうって気が無かったのかよ。
本当に弱っちい使えねえ野郎だ」
狼の獣人が嘲笑う。
ライオンの獣人が面倒くさそうに椅子から立ち上がり、床の剣を拾い上げた。
「仕方ねえ、その娼婦でやり直すか」
ヤマブキは死んだシモツケを抱きながら、ライオンの獣人を見上げガクガクと震え出す。
私は立ち上がった。
私の身長は160センチ程度。目の前のライオンの獣人は2メートル近い長身に轟然たる体格。どう頑張ったって倒しようがない事は分かるけれども、怒りが溜まってどうしようもない。
「私の治癒が見たいのなら、自分の体に傷をつけな!
アンタ、自分の体を傷つけんのが怖くて他人を傷つけているのよね!
この弱虫が!!」
ドッ ドッ ドドッツ!! ガッ…バッコーーーーーーーーーーーーーー!!
「エリカ! 無事か!!」
私の怒声とほぼ同時に部屋の扉を壊してアベリアが入ってきた。
こんな状況なのにアベリアだけが私の視界を占領し、周囲は映らなくなる。
ああ、本物。本当にアベリア。もう、2度と会えないかもしれないと思っていたのに。
「何だあ、お前達は。ん? レンギョウか。」
狼の獣人がいつのまにか壁の剣を取り、アベリアの後ろから入室したレンギョウさんに視線を向ける。
部屋にはアベリア、レンギョウさんそれに多分城の兵士達がゾロゾロ入室して来た。
あ、リラ姫。フードのコートで顔が見えないけれどリラ姫も来てくれた。
形勢逆転って感じなのに、三人の獣人達は焦る様子はない。肝の座った悪党だ。
「おい、俺達はこのシャクナゲ国の隣、キングサリ国の貴族だ。友好国の貴族の屋敷にこの様な手荒な侵入をして良いと思ってんのか?」
貴族? しかも隣の国の? 他所の国でこんな悪事を働くなんて、なんて迷惑な奴等なの。
狼の獣人は凄んでレンギョウさんに言うも、レンギョウさんはいつもの澄ました顔で
「あなた方こそ友好国の大事な乙女を攫っておいてタダで済むと思っているのですか?」
「大事な乙女?」
「そこに居られるエリカ様はシャクナゲ国に女神様が遣わせた女性。この国の宝ともいうべき存在なのですよ」
え? そんな大それた存在だったっけ私。
この国でコソコソ隠れて暮らしている。宝というよりも名も無き花的な存在の方が合っている。
「ほう、この女は女神からシャクナゲ国に来たのか?」
ライオンの獣人は私を見ながら言い、顎に手をかけ少し考えレンギョウさんに向かって言った。
「なるほど、この女性は素晴らしい能力を持っている。女神から遣わされたと言うのも嘘ではない様だ。
ただ、俺達はこのエリカという女性が、この国の大事な要人とは知らなかったんだ」
ライオンの獣人はレンギョウさんに困った表情を見せ肩をすくめながらシモツケの死体を指差し
「そこで死んでいる悪党にすごい能力の女がいると、俺達は望まなかったがこの悪党が勝手に我らの屋敷にエリカを連れて来たのだ」
と、責任転嫁しだした。
な、なんて、何処までも卑怯者なのこのライオンは!
しかしライオンの獣人の言葉を聞いてもレンギョウさんは態度を崩さず、ヤマブキとローブに巻かれた女性を目に止め
「地下室へ来る前、上の屋敷を調べさせていただきましたが貴方方、我が国で人身売買や売春など裏の仕事に関わっておいでの様ですね。密告もいただきましたし調べは等についているのですよ。
これらの行為によってシャクナゲ国を内部から腐敗しようとされているのでしょうか。
貴方方は立派な犯罪者ですよ」
えっ? 何!?
私はライオンの獣人に力一杯体を引き寄せられた。狼の獣人と狐の獣人がレンギョウさん城の兵士に襲いかかっていく。
いやだ、ライオンの獣人怖い!! 逃げたい! ああ、駄目強い! 離してえええ…え?
ライオンの獣人の身体と私の体の間にアベリアがいる。アベリアは私を掴むライオンの獣人の手首を持ちながら、獣人の顔面に頭突きを入れた。ライオンの獣人の手が緩み、私は床に転がった。
「グウッ! フッ!」
ライオンは大きく立派な鼻から血を流しながら憤怒の形相でアベリアを睨み剣を構えた。
アベリアも腰の長剣を抜き構える。
ああ、アベリアが助けに来てくれてもの凄く嬉しいけれど、あの怪物の様な獣人にアベリアは勝てるの?
ライオンの獣人はアベリアよりも少しデカくて怒りで頭髪を逆立てているせいか余計に大きく見える。
お願い!アベリア死なないで!!
私の治癒が効く範囲の怪我に留めておいて。
アベリアに私ではない大事な彼女がいたとしても、アベリアが生きていてくれたら私はそれだけで良いから!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




