アベリアとサンザシ
エリカを探してアベリアはリラ姫を担いで走っています。
姫さんを抱きかかえ轍の跡を辿って走って来たが、シャクナゲ国に入る手前で道が石畳に変わり轍が無くなってしまった。しかし、道の端の木々の間から意味ありげに俺を見ている奴等がいるな。
「……サンザシ、ここで何をしている?」
「お前を待っていた」
サンザシは仕立ての良い黒い服を着て、如何にも裏の仕事をしている者の出で立ちで立っていた。サンザシの後ろにはアベリアよりも一回りはデカイ獣人が控えている。
サンザシは木の陰から出ずに答えた。
「アベリア、お前と俺は家族や友人の様な美しい繋がりは無い。汚くて切りたいのに切れない腐れ縁だ」
サンザシは憂い顔で呟くようにアベリアへ言った。
「何が言いたいんだ、サンザシ。お前とゆっくり話している時間は今は無え。
用があるなら早く言え」
此奴、格好付けて俺の前に現れて急に何を語り出してんだ。サンザシはわざわざ此処で俺を待っていたんだ。サンザシが俺に本当に言いたいことは何だ?
イラつく俺をよそにサンザシは整った顔で告げた。
「アベリア、お前の主人だったエリカの情報を俺は売った」
「…!! 何でお前が俺の…エリカの事を知っている?」
裏の家業のサンザシ達にエリカの存在を知られる様なヘマを俺はしていないはずだ。
サンザシはわずかに微笑んで
「見くびるなよアベリア。俺だってこの世界に身を置いて長いんだ。情報を集める手段は持っている。
お前を奴隷から解放した主人はエリカって人間の女で城に保護されていただろう?」
俺が奴隷から解放された翌日、俺はサンザシと酒を飲んだ。此奴は手配書のせいで追われる俺とエリカを見たと言っていた。その時、俺は迂闊にもサンザシにエリカを特別な女だと話してしまったからか。
自分の油断に腹が立つ。まさかサンザシがエリカの事を探るなど予想できなかった。
サンザシを睨みつける俺にサンザシの後ろに控えるデカイ獣人が前へ出ようとしたが、サンザシが止めた。
「アベリア、俺の立場も察してくれ。
古い付き合いのお前の特別な女の事だとはいえ、俺の仕事上どんなに汚い事だと思ってもこなさなければいけない。
お前だってあの皿を俺に売りに来た時、分かっていたんだろう?
皿の出所を知りたがる奴が出てくる可能性は」
「くっ、」
サンザシがエリカの情報を売ったことは間違ってはいない。それがサンザシの仕事だから。
もっと俺がエリカの身辺を注意していれば良かったんだ。
自分の不甲斐無さに目を伏せると抱えているリラ姫が冷たい視線で俺を見ていた。
リラ姫はサンザシの話す内容が分からなかったので、大人しく聞いていた様だ。
「あの皿は隣の国の貴族に売った。貴族といったって上品なだけの奴等じゃ無い。人身売買や売春など裏の仕事に手を出している様な悪どい輩だ」
サンザシは冷静に話を進める。
「…人身売買…成る程、誘拐はお手のものってわけね」
リラ姫が言った。
「その通りです、リラ姫様。
奴等にとっては女一人攫うなど赤子の手を捻るようなもの。
貴方方がここへ到着する少し前に、エリカは貴族の手下達に荷馬車に乗せられて屋敷に連れていかれました」
サンザシは女を口説く時の甘い顔をしてリラ姫に言う。だが男に興味の無いリラ姫はサンザシの放つフェロモンを無視して、嫌悪の表情でサンザシを見て言った。
「あんた、エリカが連れさられているのを知ってて馬車を見過ごしたっていうの」
リラ姫の冷たく怒気のはらんだ声にサンザシは困った顔をしてアベリアに助けを求めた。俺もサンザシに腹は立つが。まあ、情報を売っておいて貴族の実行犯を阻止していたら裏の社会の道理が通らねえからな。
「サンザシ、ここまで状況を知らせてくれたんだ。その貴族の屋敷も当然教えてくれるんだよな?」
「ああ、もちろんそのつもりだ」
「何故、こんなに俺に情報をくれるんだサンザシ?」
普段なら此奴にとって情報は金だ。こんなに気前良く俺に会いに来てまでエリカの事を教えてくれるはずが無い。
サンザシは木の間から出て俺に近づきながら
「友情とか綺麗なもんじゃ無えよ。
あの貴族達は俺達のこの国で少々度がすぎる商いをしだして、正直俺の組にとって邪魔なんだ。
だが、彼奴ら表向きは隣国の貴族だから、下手に手を出すと俺の組が潰されかねない。
それでアベリア、お前達に彼奴らを退治して貰おうって事さ」
笑顔で言うサンザシ。
何の事は無い。
サンザシは何時ものサンザシで、俺を利用する為に情報提供してきただけだ。
此奴が急に良い奴になったら、今までの関係は崩れてどう接して良いのか分からなくなるからな。
俺は苦笑いしながらサンザシとの腐れ縁はまだまだ続けていけると安堵した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
作者は今年は急にパソコンが壊れたりネット環境が変わったりしましたが、まあまあ穏やかな1年でした。
来年もよろしくお願いいたします。皆さま、良いお年を!




