人族
エリカ、異世界に来て初めて人族を見ました。
あ、この男の人、首に隷属の輪を嵌められている。
奴隷なんだわ。
目の前に現れた人間シモツケはボロボロのスカーフを首輪を隠すように巻いている。
アベリアが奴隷の時の知り合いなのかな?
「あ、え~と急に声をかけてすみません。
特に用があるわけではないのだけれど、君はアベリアの知り合いだって聞いたし俺と同じ人間だから……ここ人間少ないし俺奴隷だから獣人から見下されてて…俺話し相手がいなくて…」
シモツケは目線を宙に彷徨わせながら小さな声で言う。
確かにこの戦場で人間で奴隷な立場の彼は気軽に話せる相手はいないんだろう。
何だろうシモツケさんが可哀想というか同じ人間という小さな種族の仲間意識が芽生える感じ。
私はシモツケさんに出来るだけ優しく話しかけた。
「ああ……そうなんですね。
保護されている私でも獣人や他の種族から受ける威圧には気が引けるし、シモツケさんの気持ちは少しは分かる気がします」
シモツケさんは目を瞬かせて頬を少し赤らめはにかんだ笑顔を見せた。
自分の弱い立ち位置を初対面の私に話した恥ずかしさと、私がシモツケさんの気持ちに同意したことで嬉しいと感じてくれた様だ。
「あ、また君に声をかけても良いかな?」
「うん。大丈夫です」
「ありがとう。それじゃあ、また」
シモツケさんは慌ただしく私から離れ、テントの1つへ消えて行った。
彼の奴隷の立場から王族に保護されている私に声をかけるのはとても勇気がいったと思う。
シモツケさんの隷属の首輪を見ると何だか奴隷だったアベリアの事を思い出すし、同じ人間種族としてシモツケさんの事を放っておけない。
また今度シモツケさんに会えたらいろいろと彼の相談に乗れたらいいのだけれど。
「エリカ―!」
「きゃあ!」
後ろから急にリラが抱き着いてきた。
「遅い~! 心配するでしょ!」
「ご、ごめん。リラ」
「今、誰かと会っていたの?」
リラが上目遣いで私を見て言う。
う~ん、リラにシモツケさんの話をすると多分シモツケさんのことを私に対して危険人物だと決めつけて、姫様の権力でシモツケさんに制裁を加えそう……話せない。
「あ~、治癒を頼まれたのだけれど、私が治すほどの怪我でなかったから断ったの。
そしたら彼は素直に引いてくれたから大丈夫」
以前にそういう兵士がいたから嘘っぽくない話のはずなのに、リラは疑わしそうに私の顔色を窺う。
彼女は虎の獣人で第六感が鋭いのだろう。
私は張り付いた笑顔でリラを見ていた。
「ふ~ん、まあいいわ。
もう、わたしからあまり離れないようにね。
あと、治療所が移動するから荷物の支度をしてってレンギョウに言われたわ」
リラは私がシモツケさんのことを話す気がないと悟ったのか、今回は追求してこなかった。
助かった。
しかし、
「治療所の移動って?」
「兄さま達の活躍でワイバーンをほぼ倒せたから、もう少し西に移動して次の怪物を退治するって言っていたわ」
おお、という事はアベリアはあれから怪我をすることなく戦ってワイバーンに勝てたって事ね。
凄いわ! 流石、アベリア!
……でも、私アベリアに会いたいから出来れば命にかかわらない程度に怪我をして、アベリアが治療所に来ないかと期待しているのだけれど……い、イケないよね。好きな人に怪我をして欲しいなんて願うなんて。
「ちょっとエリカ何で落ち込んでるの。
ワイバーンを倒したのだから怪物退治もあと少しで片付いて城へ帰れるのよ。
ほら、移動するから荷物を整理して次の診療所へ行くわよ」
リラは私の手を取って建物の中の私の部屋へ引いて行った。
アベリアは今どんな怪物と戦っているのだろう?
もしかしたら次の診療所で会えるかもしれない。
私はアベリアに会えるのを期待して荷造りを始めた。あ、いや、アベリアの怪我を望んでいるわけではないの。…いや…本当に……
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。




