アベリア⑫
アベリア VS リラ姫
治癒の魔法をかける人間の女に抱き着き、無言で睨みあう獣人の姫と傭兵のオーガ。
姫は立ったまま女の上半身に背後から手を回して胸を持ち、オーガはベッドの上から上体をひねり少女の腰へ腕を巻いていた。
双方とも女を譲る気は欠片もなく、飛ばしあう視線は火花を散らしている。
アベリアを心配し彼の容態を見に来た傭兵部隊隊長フヨウは、2人の険悪な雰囲気に声をかけられずにいた。
あの少女はシャクナゲ国末姫リラ様だな。
何故ここにいらっしゃるのか?
それに何故、姫君が傭兵にガンを飛ばしているのか?
理解不能な光景にフヨウは軽く息を吐いた。
ここから見るにアベリアの奴は元気になったようだ。
よし、アベリアの状態も確かめたし俺はこの場を去ろう。
シャクナゲ国傭兵部隊隊長、熊の獣人フヨウは決断速くその場を離れる事にした。
戦歴の長い彼は今までの人生経験で余計な厄介事に首は突っ込まない主義なのだ。
治療士たちは遠巻きに恐る恐る、姫とオーガの口戦を見ている。
屈強なフヨウ隊長が収めようとしなかった争いを、自分たち治療師が下手に関わるのは身の危険だと心を一つにして誰もアベリアとリラ姫に近づいていかなかった。
リラ姫はベッドから自分を睨むオーガの男を見下して怒鳴る。
「離せ下郎! 無骨なお前がこの娘に気安く触れるでないわ!」
「てめえこそ、その手を離せ小娘が!」
オーガの男はエリカの体を自分の方へ力強く引き寄せて、リラへ牙をむき言った。
プチッ
リラは堪忍袋の紐が切れた。
もともと切れやすい紐である。そして彼女は自分の生まれ持った権力を使う事に躊躇はしなかった。
「小娘とは誰に向かって言っているか!
わたしはこのシャクナゲ国国王の娘、リラ姫じゃ!
無礼者め! 早くこの娘より手を引きわたしには頭を下げよ!」
リラは三白眼でオーガを睨みつけ、口を曲げドスをきかせた声で大きく叫ぶ。
「……姫?
嘘つけ! 貴様のような品の無い姫様がいるものか!」
常識的な考えを持つアベリアはリラの姫様発言を即座に否定する。
「キィ―――――! わたしは姫、姫様じゃぞ!」
「お前が姫様ならカルミア王子の妹君という事だろうが、カルミア王子とちっとも似てねえじゃねえか!」
「はあ! 当たり前じゃろうが! カルミア兄さまのような筋骨隆々な逞しく厳つい姫などそれこそいるものか!」
「……何を大声で言い合っておる」
2人は不意を突いて聞こえたカルミア王子の声に反応してふり向いた。
カルミア王子の体調は全快とまでいってはいないが、しっかりとした足取りでアベリアのベッドまで歩いてきた。カルミア王子の後ろには護衛の獣人が2名、アベリア達と少し距離を置き控えて立つ。
カルミア王子は自分の身を助けた傭兵を慰問に来ただけのつもりだったが、自分の妹とアベリアが激しく言い争いエリカを奪い合うのを不思議に思った。
「エリカを知っていたのかアベリア?」
カルミア王子はエリカの事情については、異世界から来た治癒魔法の使い手だとレンギョウから聞いていただけで、城へ来る前エリカがアベリアと暮らしていたことは知らなかった。
ただ、この状況を見てアベリアにとってエリカは特別な存在なのだろうと気がついた。
「……俺はエリカのお蔭で自由になりました……エリカがいなければ今の俺はいないのです。
俺は俺の一生をかけてエリカを守りたいのです」
アベリアは王子にエリカと自分の関係を何説明しようか、何処から何処まで話そうか迷ったが長い説明よりも短く話した方が王子には伝わる気がして、今思うエリカを守りたい想いを口にだした。
カルミア王子はアベリアの強い意志のある眼差しを見て微笑む。
アベリアはこの西の怪物との戦いにおいて、金目当ての傭兵達とは違う希望を持って参加しているとは思ってはいたが、治癒魔法を使う城で保護する特別な女エリカを守りたいために傭兵に志願してきていたとは。そうか、男は守りたい者のために戦う時が一番強くなれるという。アベリアの強さはエリカのためか。
「ちょっと兄さま!」
今まで黙っていたリラ姫が口を開いた。
「たかが傭兵風情が姫のわたしに失礼な口を聞いたのですよ! 罰してくださいませ!」
リラはエリカの胸から手を離さずに王子を見て言った。
「………リラ。
女性同士とはいえ気絶している同性の胸を揉みしだくのはいかがなものか。
お前ももうよい年なのだから、もう少し慎み深い行動をしなければ姫として認めてもらえぬぞ」
カルミア王子は苦笑し妹をたしなめつつリラ姫をエリカから離す。
「え? ちょっと? 兄さま何で傭兵の味方なの!」
「リラ、何度も言うがお前もそろそろ嫁いでいく頃あいだ。
いつまでも女性が好きというのは王族としてまかり通らぬ事だ」
カルミア王子の太い腕に抱きかかえられリラは身動き取れず不貞腐れた。
リラがエリカの上体から離れると、アベリアはエリカを自分の胸に大切に抱き締める。
数か月離れていたエリカは山で暮らしいた時よりも女らしく美しくなっていて、エリカを好きだという気持ちが更に上がった。
「アベリア。もしもお前が怪物との戦いにおいてこの先も活躍をしたならば、俺はお前が望む褒美をやろうと思う」
アベリアはカルミア王子を見た。
まさか自分の希望を叶えてくれると王子が約束してくれるとは……。
「俺は怪物に勝つ! そして必ず欲しい人を手に入れる!」
アベリアの宣言に王子は満足して頷き
「では、戦場へ向かうのを少しだけ待っていてやるから、エリカを部屋へ置いて来い。
そして俺と戦場へ戻り今度こそ怪物を殲滅してやろうぞ」
カルミア王子は太陽のような輝く笑顔でアベリアに言い、リラを担いで治療棟から出て行った。
アベリアは先程まで自分が死の淵にいたのを忘れる程に回復していた。エリカを丁寧に抱き上げてベッドから立ち上がると、治療士にエリカの部屋の場所を聞いて歩きだした。
エリカはアベリアの大きく逞しい胸の中、スヤスヤと安心して寝ている様子で、アベリアはエリカと今すぐに話したい欲求とこの寝顔をこのまま見ていたい気持ちに揺れた。
俺はこの先の人生をエリカと共に生きたいと思っているが、彼女の気持ちを確かめなければ。しかし今エリカは俺の体を治す為に能力を使い果たした状態なんだ。俺の気持ちを話すのはエリカが元気な時でないと、エリカも気持ちの整理がつかないだろう。
アベリアは静かにエリカをベッドへ寝かして、エリカの額に軽く口づけを落とした。
「エリカ。少し待っていてくれ。
俺は必ず怪物達を倒してお前の側に帰って来るからな。
次にエリカに会った時には俺はお前の側を離れる事はもう無いだろう」
アベリアは寝ているエリカに誓いを立て部屋をあとにした。
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