アベリア⑪
西の戦場でアベリアは戦っています。
「お、王子をお守りしろ!」
「魔法使い火球を放……ま、待て地上近くでワイバーンに当てるな! 火が兵士に燃え移る!」
「おい! こっちだ剣を握れ!」
満身創痍の兵が多い中、再び始まった戦いに兵士や傭兵が態勢を整えようとするが上手くいかない。
指揮を執るカルミア王子が重体になってしまったからだ。
王子は背中を深く大きく切り裂かれ出血し、脇腹の爪痕からも赤い血がドクドクと流れ出ている。
薄れる意識を高いプライドでどうにか保つ王子は、地に伏せる自分の体の横にきた逞しい足に気が付いた。青い肌に隆々とした筋肉、白金の髪を1つに結ぶ兵士。
「ここが踏ん張りどころだな……」
アベリアはそう言って剣を握る手に割いた布を巻き付け、地上へ落されたワイバーンへ大きく大刀を振るった。
アベリアとて体力はつきかけており1撃ではワイバーンの首は跳ねることが出来ない。
ワイバーンは斬りつけられ怒り、毒の尻尾でアベリアを突いてくる。
ワイバーンの鋭い尻尾の先を大刀の腹を盾に使い防ぐアベリア。
アベリアの後ろにはカルミア王子がいるため、アベリアはその場を動くわけにはいかないとワイバーンの攻撃を一人で受け止めた。
戦場ではアベリアが闘っているワイバーンの他1体が、魔法使いによって翼を焼かれ地に落ち2人の兵が立ち向かっていて、空からは3対のワイバーンの攻撃を兵士たちが受けている。
カルミア王子は指揮を取ろうと声を上げようと思うも体が動かずに呻く事しか出来ない。
なんて不甲斐ない……自分はこの国の王子だというのに守るべき民に守らえている……いや、足手まといになってしまっているとは……
と、カルミア王子の横でワイバーンの攻撃を受けていたオーガがワイバーンの尾を太腿に付きたてられた。
……やられたのか!
カルミア王子は反射的に体を起こし上体を上げたが、その拍子に喉に詰まっていた血の塊が外へ飛び出してきて王子はまた地面に伏せる。
王子がやられたと思ったオーガは落ち着いた様子で、太ももに突き刺されたワイバーンの尻尾を握り、自分の方へ引き寄せた。
ワイバーンは尾を取られオーガから離れようと強靭な後ろ足でオーガを蹴った。
足の爪で腹を切られるオーガ。しかし、それでも尻尾を離さずに思いっきり自分の方へ引っ張るとワイバーンは前のめりに体勢を崩し、そのワイバーンの首へオーガは大刀を力いっぱい叩き落した。
ワイバーンの首は勢いよく空中を飛び、遠くの木の枝にひっかっかった。
自分の体を犠牲にしても倒すとは、このオーガは素晴らしい武人だ。
カルミア王子は大量に血が流れる重体だがオーガの勇ましい闘いぶりに沸き立つ心で大声を上げる。
「撤退だ! 撤退をするのだ! 動ける兵は動けぬ仲間を出来る限り連れ撤退せよ!!」
王子は指示を叫ぶと意識を失くしてしまった。
側近たちは王子の指揮を受け口々に「撤退!」と、叫びながらカルミア王子を3人がかりで担ぎ高く生える木々の中へ入る。木の枝や生い茂る葉が邪魔をしてワイバイーンは兵を攻撃できない。
木が密集して生える場所は少ないが兵士たちは折り重なるように身を隠した。
傭兵部隊隊長、熊の獣人フヨウは太腿から血を流し歩けないアベリアを肩に担いだ。
「……すまねえ……隊長さん……」
フヨウは走りながら
「アベリア凄い活躍だったな」
と野太い声でアベリアの戦いを労い、アベリアは隊長の言葉を最後に意識を失った。
……ここは……緑が美しく輝く山の中……長い美しい黒髪の女が俺に向かい笑っている……
……スラッとした肢体に胸が大きく男装の女……エリカ……
エリカとの山小屋での日常は眩しい光と暖かい空気、腹は常に満たされ幸福だった。
……夢を見ている……いや、夢じゃない。過去を思い出している……幸せな思い出……今の自分の状態は分からない……
俺の近くでフヨウ隊長の濁声が聞こえる。
俺に治癒魔法をかけられる魔法使いがいないか、何とか俺を助けられないか治療士に聞いている。
治療士は抑揚のない声で、たかが傭兵にこれ以上の治療は出来ないと言った。
俺はぼんやりした頭でそりゃそうだ。俺はたかが傭兵だ。と納得したが、フヨウ隊長は諦めずに治療士に俺を助けてくれと願ってくれている。
俺は感覚の無い体が宙に浮き白い光の中で、また山でのエリカとの暮らしへ意識が飛んだ。
……明るい声で屈託なく話すエリカ……俺に美味いものをたくさん食べさせてくれる優しいエリカ……素直に俺の言う事を聞く可愛いエリカ……幸せな気持ちを俺に与えるエリカ……
彼女との思い出が俺をこの世に繋ぎ止めてくれている
い……いた……い?
体が痛い? 何だ? 痛い感覚が急に俺の体を走る!
いや!? 違う! 西の怪物に傷つけられた俺の体の傷の痛みが……むしろ消えているんだ……何故だ?
感覚が無くて冷たかった俺の体。血が通いだして温かくなってきやがった! 動ける気がしてきた!!
これは以前にも経験したことがある……ような……
エリカ!!
……そうだ彼女に出会った時の……
「……エ…リ…カ……」
重い瞼を開くとゆっくりと後ろへ倒れていくエリカの姿が目に映った。
夢の続きかとも思ったが、もう一度出会えた彼女を逃すまいと両手を広げてエリカの腰に腕を伸ばし掴む。
彼女は相変わらず細い体だと感じて意識がはっきりと覚醒した。
「エリカ!」
エリカの顔を見ようと顔を上げると、彼女の体に不似合いな大きな胸に小さな手が付いている。
よく見るとエリカの背後にはエリカよりも少し小さな獣人の少女がエリカの体を支えていた。
少女は可愛らしい目を吊り上げて俺を敵視している。
「お前誰だ?」
「あんたこそエリカの何なのよ?」
エリカの体にくっ付いた2人は声を揃え威嚇し合う。
「俺はエリカの同居人だ!」
「わたしは彼女の保護者よ!」
お互いが自分こそがエリカの正当な守護者だと信じて疑わず、相手を否定する。
「はあ? お前みたいな子供がエリカを保護だなんて出来るわけねえだろう! お前こそまだ保護される側だろうが!」
「ふん! あんたみたいな輩とエリカが一緒に暮らすなんて分不相応でしょう! 身の程をわきまえなさい!」
2人はエリカの体を挟んで火花を散らした。
どちらもエリカを譲る気はなくエリカの体は離さない。アベリアとリラ姫はお互い恋のライバルだと確信した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




