お城の中で隠棲生活
エリカはお城の中でひっそりと暮らし始めました。
アベリアとの別れから1ヶ月。
さすがに涙も枯れ果てた私はレンギョウさんに与えられた部屋でようやく自分の事に思いを馳せれるようになってきた。
「ああ、今日は幾分真面な顔をされていて良かった」
朝食を自室でいただき身支度を整えたころレンギョウさんが私の部屋に入って来る。
今朝もなかなか失礼な言葉をかけてくれる美形のレンギョウさん。
レンギョウさんはこの国の魔法使いを纏める総帥様らしいが、総帥様と聞くとかなりなご高齢のように想像するが、レンギョウさんの外見は20歳代にしか見えない。
背がスラっと高身長で髪と同じ白銀の長い尻尾を靡かせて、頭の上にピッと立った耳が凛々しく、銀色の長い髪を腿まで垂らし面長の顔に整った目鼻立ち。
紫水晶の瞳が妖しく光る美形な魔術師だ。
「おはようございます。レンギョウさんは毎日美しいですね。肌艶が良くて羨ましいですよ」
嫌味と本音を混ぜて返す。
アベリアとの別れの辛さから毎夜涙を流していた私は朝泣き腫れた顔をしている事が多かった。
その私を見てレンギョウさんは慰めずに「酷い顔ですね」と微笑んでくるだけ。
この人、顔には優しい笑顔を付けているけれど心までは優しくない。私の我が儘だけれどレンギョウさんは冷たい人だと思う。
「さて、それではエリカ様王子の部屋へ行きましょうか」
はいはいと心の中でウザイ返事をしながらレンギョウさんの方へ歩み寄った。
レンギョウさんは廊下にある隠し扉を開けて狭くて暗い階段に私を誘導する。
このお城に来てから毎日レンギョウさんに連れられて隠し通路からカルミア王子の部屋へ入室している。隠し通路の存在はお城の中でもかなり限られた人しか知らず、複雑に入り組んだこの道は一人では絶対に使わないようにレンギョウさんから強く注意された。迷い込めば命が危険らしい。
こんな歩きにくく怖い道私一人では絶対に通らないよ。
私を先導するレンギョウさんは人差し指の先に魔法の光を放ち、彼の後ろにいる私の存在を何度か確認しながら王子の部屋へ入った。
王子の部屋は白が基調の広いけれど落ち着いた部屋。フサフサのカーペットを踏みしめて王子が寝ているベッドに近づく。
広ーい部屋の壁際の大きなベッドその上で上体を起こし鋭い眼光でこちらを見る青年。
うう、毎日会っていても緊張するっていうか恐怖に身が縮むわ。
私は部屋の入り口近くで礼の姿勢で待つ。
レンギョウさんはゆっくりと王子に近寄り毎朝の挨拶を口にした。
「おはようございます。王子。今朝のお加減はどうでしょうか?」
「ああ、今朝の気分は良い」
張りのある低音の声が響く。
王子は虎の獣人で黄金色の鋭い瞳と白金の豊かな髪を持った凛々しい若者。
私がこのお城に来て初めて王子に会った時はとても酷い状態で、彼は憔悴しきった体で生を逃すまいと呼吸だけは頑張っていた。私の治癒で王子の容態はひと先ず落ち着いたが、それから毎日同じように治癒をかけてもなかなか完治まではいかず、少しずつしか回復しない。
一か月経ち今やっと王子はベッドの上で上体を起こし話が出来るようまでになった。
「……エリカ様、王子の元へ」
レンギョウさんの声がして小走りでベッド近くへ行く。
先日、普通に歩いて近寄ったら『遅い! いつまで待たせる。もっと早く来い』と、王子に怒られたから。
アベリアの時といい、私が治癒で助けた人は私に対して高圧的なのは何故なのか。
「失礼します」
「……」
私の挨拶に王子は返事せずただ目を閉じた。
私は両手を王子の体中心に軽くかざして治癒をする。治るように念じるだけだから難しい事を考える事は無いのだけれど、王子には悪いけれど雑念が多いのは自覚している。もしかしたらそのせいで王子の体が治るのが遅いのかも。
ふっと王子の顔を見るとバッチリと目が合ってしまった。
カルミア王子の目は虎の目そのもので超肉食獣! 捕食者!!
怖いー!! 愛想笑いをと思っても頬の筋肉が固まって動かない。
冷汗がぶわっと全身の汗腺から溢れそう! 助けて!!
「はあー、一体いつまで俺はこのベッドの上に居なければならないんだ」
苛立ちの声を上げるカルミア王子。出来れば王子様の手足を鎖で繋いで欲しい。この人の体絶対王子じゃないと思う。アベリアと同じくらい大きな筋肉をしていてゴツゴツした体だもの。
「もうしばらくの辛抱でございます、王子」
「こういつまでも寝てばかりでは体がなまってしまうし、西側の怪物も気になり落ち着かん」
つい最近レンギョウさんが貸してくれたこの国の地理の本に書いてあった国の西側には大きな怪物が沢山出ると。その怪物退治の陣頭指揮をなんと次期国王のこのカルミア王子が執っていて、現国王はご高齢で実質的な国政はこのカルミア王子が回しているとレンギョウさんが教えてくれた。
そんな大事な王子様に危険な怪物退治をさせているこのシャクナゲ国……大丈夫なのかしら?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




