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アベリア⑨ 

アベリアのお話です。

 夜が深まり酒場の客は増える一方で、店内はだんだんと酔っぱらう客同士が騒ぎ出し店の隅では早くも乱闘がおきていた。


 そんな騒がしい店中でアベリアとサンザシはカウンターに座り落ち着いて酒を飲んでいる。


 サンザシは男にしては白い頬を赤く染め目が少しすわりかけていた。アベリアは顔色を変えることなく定員に何度か空になったグラスへ酒を注いでもらった。


 不意にサンザシが口を開いた。


「俺は子供の頃からアベリアは心の中では俺の事を見下していると思っていた」


 アベリアは意外な事を言われて戸惑う。


「急に何を言い出すんだサンザシ」


 どちらかと言えばサンザシが俺を蔑んで見ていたのでは。


「ほら、俺らはほぼ同じ境遇で育ったのに奴隷としての道は全く違っただろう? 

 俺は女に媚びてお前は戦場に駆り出されて……体が成長するうちにアベリアはどんどん強くなり、戦闘奴隷としてのレベルが上がっていくのに俺は女を誘う口だけが上手くなる。

 何て言うか俺は勝手に、男としてお前に劣等感を抱いてたんだ」


 サンザシが俺にそんな感情を持っていたとは全く分からなかった。

「……そうか」

 俺が短く返事をするとサンザシは口の端を上げ目を細めて俺を見た。


「それでもアベリアの奴隷としての人生は過酷過ぎだし、俺はお前に生まれなくて本当に良かったと思ってる」


 サンザシは笑いながら俺の顔を覗いてきた。

 俺もサンザシの言葉には納得し声を上げ笑ってしまった。


 もし生まれ変わりがあるとすれば俺だってこの人生は2度と生きたくはない。

 エリカ以外の主人は最低な奴らで俺が苦しむのを笑い俺を玩具にしてきた。


「それでアベリアは今から何をやるつもりなんだ?」


 一頻り2人で笑った後、サンザシが聞かれた。俺は奴隷から解放され手元には十分な金もある。


 俺が自由になってやる事。

 昨日、エリカと別れた時には俺は自分が空になったように思えていた。


 だが、エリカの最後の言葉を思い出した……俺は幸せにならなくてはいけない。


 自分の人生で幸せを感じた事など数少ない俺が分かる幸せは1つしか浮かばない。

 もしかしたら違う道があるのかも知れないが、それでも俺にとってこの唯一の答えを目指そう。


 折角、エリカが俺を奴隷から解放してくれたのだから、俺は自由に考え自分のやりたい事を叶える。



「……傭兵になろうと思っている」



 俺は酒を飲む前に考えていた。俺が幸せを掴むため出した答えは、この国の傭兵になるだ。


「は!? 傭兵。いや、確かにお前には天職かも知れんが……、アベリアお前もしかして失恋したからって死ぬつもりなのか」


 サンザシはその選択は有り得ないと俺の肩を掴んだ。

 サンザシは腐れ縁だがお互い家族も身内も無く、捨てたい過去でも同じ時を過ごし偶に酒を酌み交わす者がこの世から去るのは寂しいのだろう。

 俺は苦笑して肩からサンザシの手をどけた。


「いや、死にに行くわけじゃねえよ」


 エリカを失って目の前が暗くなったとはいえ死ぬつもりはさらさら無い。

 俺が死んじまったらエリカに何かあった時に誰がアイツを救ってやるんだ。そういや、エリカが心配で死ぬことは思いつかなかったな。


「サンザシは知っているか、シャクナゲ国の西の怪物を」


 店主に手で合図してアベリアは自分とサンザシのグラスへ酒を貰う。


「まあ俺は戦闘に行った事がねえから詳しくは知らねえが」


 サンザシはグラスへ注がれた酒を喉へ流した。


 シャクナゲ国は川によって東西に大きく特色が分かれ、東側は比較的のどかな土地だが西側には凶暴巨大な怪物が多く存在している。

 怪物が居住地区へ入らないように西側には堅固な壁を作り魔法がかけてあった。


「数百年前この土地で獣人が数を増やし大きな都が出来た。

 少数部族は獣人に侵略され奴隷にされたが、闘いは部族間だけで起きているわけじゃねえ。

 怪物は冒険者や城が集めた傭兵が倒している」


 獣人にだって種類があるし身分制度がある。獣人の中にも奴隷は存在している。

 獣人に生まれたからって勝ち組とは言えないが……サンザシは自嘲した。それでもオーガに生まれたアベリアよりはマシか。

 サンザシはグラスを手に静かにアベリアの話を聞いた。


「近年、西に多数の怪物が出現し近々城兵が傭兵を集って討伐に向かうと聞いた。

 傭兵は種族の差別なく集められ活躍した兵士には褒章まで与えられる。

 だから俺は傭兵に志願しようと思う」


 奴隷でなくなってすぐに自分の道を決めているアベリアには驚かされる。

 何でこいつこんな真っすぐに迷いなく進めんだ。

「褒章ねぇ……

 傭兵から貴族の位を受けた者は何人かいるが、オーガのアベリアにも正しく与えられるのか?」


 今までの人生で散々差別され生きてきたアベリアをサンザシは心配した。


「ああ、与えられる」


 不意に2人の背後から野太い濁声がした。

 2人が振り返ると大柄で傷だらけの猛者と呼ぶに相応しい獣人がアベリアを見ていた。


「アベリア・ゴーチャー。オーガの傭兵か」


 アベリアは椅子から立ち上がり獣人の男に対峙した。

 男はアベリアを上から下まで見渡し豊かな茶色の髭の中から白い歯を見せ言った。


「貴様の傭兵志願を受諾する」




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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