アベリア⑦
3日ぶりのエリカは女になっていた。
いや、この言い方はおかしいが3日前に冒険者ギルドで買ったワンピースを着て、髪をまとめ薄っすら化粧をして俺の前に出て来た。
「エリカ!」
3日ぶりに見る彼女を見てつい大声を出してしまったが、美しい女性の姿のエリカに戸惑いそれ以上は言葉が出なかった。
「エリカ様、こちらへ」
レンギョウに言われ椅子へ誘導されるエリカを見てイラっとする。俺以外に大切に扱われるエリカに反抗心のようなものを感じた。
じっとエリカを見つめれば彼女は俺に対して申し訳なさそうに頼りない顔を向けている。
俺を奴隷にしていたことに罪悪感を持っているのだろうが、俺がエリカに奴隷のことを話さなかったのだし、エリカは異世界人で奴隷を知らなかったのだから俺を奴隷にしていた事を気にする必要は無い。俺はエリカを恨んではいないと言ってやろうかと考えていた。しかし
「アベリア・ゴーチャーこちらにいる異世界からの客人エリカ・ジャノメ様を今まで助けていただき、カルミア国代表として私レンギョウから礼を言わせていただく。君はこの世界に不慣れなエリカ様を助け、王都まで連れて来てくれた。この功績をたたえて君を奴隷から解放し、一般市民権を与えたいと思う」
エリカに話しかけようにもタイミングが無いまま、隷属契約を解く儀式は進んでいく。
エリカは俺を見て微笑んでいる。
俺は眩しい光の中でエリカの事を思う。
女の格好のエリカは今まで俺が見てきたどんな女よりも艶やかで美しく、俺はずっとこんないい女と一緒に暮らしていたんだと心が震えた。
儀式が終わり俺の首に嵌められていた細い銀色の輪は2つに割れて床に落ちる。自然、手が自分の首にいき首輪が無いことを確認した。
奴隷の証が外れた。
しかし心は歓喜せずに何故かエリカのことばかり考えてしまう。
……物心ついた時からずっと望んできたこの瞬間……
それなのに俺の心の中には奴隷が終わった喜びよりも……エリカ……あいつの事が気になって仕方がない。
くそ、思考と感情が纏まらん。
「……本当に隷属契約を解いたんだな」
俺とエリカを結んでいた物。
「うん。今まで私の世話をしてくれてありがとう。
アベリアはもう自由だよ」
エリカは目に涙をため泣くのを堪えながら俺に優しく言った。
その涙はどういう感情なんだ?
今まで俺を奴隷にしていた後悔や謝罪の気持ちなのか、それとも俺と離れるのが悲しく寂しいのか、もしもエリカが後者の気持ちならば俺はこの先の人生もエリカの隣にいて良いだろうか。
エリカの涙に引き寄せられるように近づくと彼女は
「アベリア、私は大丈夫だから……これからはアベリアが決めた人生を歩んで行ってね。
私、アベリアに会えて幸せだった。今まで本当にありがとう。
体に気を付けて……どうか、どうか幸せでいてね」
エリカは早口で浴びせるように言葉を吐き
「さようなら」
俺に別れを突き刺して部屋を飛び出して行った。
反射的にエリカを追いかけようとしたがレンギョウが俺の前に出て道をふさいだ。
「どけ! 俺はエリカに……」
「エリカ様は貴方と別れると決められました。
もう貴方の保護は彼女に必要は無いのです。これをどうぞ。この先貴方の人生をどうぞ自由に生きて下さい」
レンギョウは金貨10枚の入った小さな革袋を俺に押し当て転移魔法で俺を城外へ出した。
一瞬で凍てつくような寒い外に出された俺だがそれでも頭が冷えずに城を見続ける。
もう俺はエリカを守らなくていいのか?
俺はもう2度とエリカに会えないのか?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




