ありがとう そして さようなら
アベリアの首から隷属の輪は外れ、アベリアは奴隷から解放されました。
アベリアの首から落ちて割れた隷属の輪。
あの輪が私をアベリアの主人にして、今アベリアと私の隷属関係が切られた。
主従関係が結ばれた時も終わった時も主人は何も感じないんだなあ。
私はアベリアと結ばれていた物が消えた痛みも悲しみも感じない事が寂しく、床に落ちる銀色の金属を見つめる。
隷属契約解除の儀式が終わりレンギョウさんが後ろへ後退してアベリアから離れた。
アベリアは閉じていた目をゆっくりと開き、自分の首元をそっと指でなでている。
アベリアは奴隷から解放されてもっと喜ぶかと思っていたのに何だろう? 嬉しくないのかなあ。いや、まだ実感がわかないだけかな……
あ、アベリアが私を見た。
「……本当に隷属契約を解いたんだな」
アベリアが小さな声で私に言った。
アベリアは昨日レンギョウさんから、私がアベリアを奴隷から解放したいという話を聞いていたはずだけれど、実際に彼の首から銀の輪が外れるまでは本当かどうか疑っていたのか。
「うん。今まで私の世話をしてくれてありがとう。
アベリアはもう自由だよ」
私は自分の出来る精一杯の笑顔を彼に向けた。
う、鼻がツンと痛くなって目に涙が溢れてきた。
いや、涙を零しちゃ駄目。
耐えろ私。
私が泣いたら優しいアベリアは私を置いて行けなくなってしまうかも知れない……。
……………………
……ちょっとそれは良いかもしれないとか思ったりしたけれど、私はこの先お城で保護される事になっているんだもの。
その私と一緒にいると言う事は、アベリアをお城に閉じ込める事になってしまう。
アベリアが強く望んだ主人のいない人生。
彼はやっと奴隷から解放されたんだから、アベリアには本当に自由になってもらいたい。
アベリアが望む人生を歩くために私は……私は……
「エリカ……俺は……」
涙が決壊して流れてしまった。
は! アベリアが私の涙を見て近づいて来たわ。
いけない! 気持ちが揺らぐ前に私頑張れ!
「アベリア、私は大丈夫だから……これからはアベリアが決めた人生を歩んで行ってね。
私、アベリアに会えて幸せだった。今まで本当にありがとう。
体に気を付けて……どうか、どうか幸せでいてね」
私は足元にあるアベリアの首から落ちた隷属の輪の片方を拾った。そしてアベリアに
「さようなら」
最後の挨拶をして振り返らずに部屋を飛び出した。
割れた銀の輪を握り絞めて自分の部屋まで走る。
嫌ああああああ、最後はもっとちゃんとアベリアに今までお世話になったお礼を言って、笑顔でさよなら言う予定だったのに、こんなの全然違うよ。
ああ、何で泣いちゃうかな私。別れを決めたのは私の方なのに。
うう、しかも勝手に隷属の輪の割れた片方をアベリアに断りもなく持って出てきてしまった。
アベリアにとってはこのリングは自分を縛り付ける忌まわしき物だ。
でも私は彼と繋がっていた記念にアベリアとの思い出の物が欲しくて咄嗟に拾っちゃった。
アベリアにはもう必要ない物だけれど、一言貰うねって言えば良かったかな。
というか、最後にもっと話しておけば良かったよおおおおお。
好きだったんだよ! 恋してたんだよ!
私、アベリアとずっと一緒にいたかった。恋人になりたかった!!
アベリアの優しさがはにかむ笑顔が好きだった。
彼の立ち姿が好きだった。力強くて頼れるところが素敵だった。
沢山食事して、一緒に山の中を歩くのが楽しかった。
一緒に暮らしにくいとか思って自分の気持ちにブレーキをかけていたけれど、こんな別れがくるんだったら告白しておけば良かった……あ、駄目だわ。
隷属の輪が付いているアベリアは主人の気持ちを無視できないから、好きでない私と無理やり付き合う事になるわ。
あ――――――――、この恋無理ゲ―だわ。
私がアベリアに片思いしていたところで、両想いにはどうしたってなれないんだ。
彼は私の奴隷。
自分を縛り付ける憎い主人の私に恋なんて感情を受け入れてくれるわけない。
そうだ。だから今私とアベリアが分かれるには良い流れなんだ。
私は死ぬまで安全にお城で保護してもらえるし、アベリアは奴隷から解放されて自由になって好きなことが出来る。
彼は強くて賢いもの、一般市民としてどんな人生だって送れるはずだわ。
そう、お互いに明るい未来を歩むため今日私とアベリアはさよならした。
ああ、神様、仏様、死神様。
私は彼に会えて幸せでした。とても素敵な片思いが出来ました。
だからアベリアが自由な人生で幸せになりますように。
どうかアベリアを見守ってあげて下さい。
さようなら私の恋しい人。アベリアの事、本当に本当に大好きだったよ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




