街でお買い物
エリカ、異世界に来てアベリア以外の住人を初めて見ました。
山を降りて街でのお買い物に興奮します。
目の前に広がる街は絵本の表紙に描かれていそうな可愛い世界。
ピンク、オレンジ、イエロー、ブルー。
カラフルな3階建ての建物に白い雪が覆いかぶさり街灯がユラユラ明るく照らしている。
「うわあ、メルヘン。メルヘンの世界だあ」
私は半年ぶりの街に興奮して立ち止まり、人や建物を凝視した。
あ、でもこの世界の人って獣人が多くて顔は人間と変わらないけれど耳や尻尾は獣らしい形をしてる。
皆厚手のコートを着てブーツを履いているわ。
女性は足首丈のロングスカートにブーツなのね。コートも男性に比べると長いから上半身の衣装の形は分からない。
「エリカ、よそ見していると危ない」
大道りは雪かきしてあるが馬車と人が行き交う危険な交通状態。
アベリアは私のコートのフードを深く被らせると手を握ってきた。
「行くぞ」
アベリアと手を繋ぎ街の中へ歩き出す。
ここの住人は雪が降る中、傘をさしている人はいなくて皆フ―ドか帽子を被っている。
アベリアを見上げると彼は顔が見えないくらいフードと襟で防寒していた。
まあ、これだけ雪が降って寒ければ顔が見えないくらい皆気にしないのね。
行き交う人の顔は分からないけれど、この街の人たちの身なりは綺麗で街の景観も美しくて経済的に豊かな街なんだろうと感じた。
「着いたぞここだ」
アベリアに手を引かれてたどり着いた先には今までにない大きな白い建物があった。
広いアプローチに大きなエントランスがあって沢山のランプが付いている。いろんな種族の沢山のグループで賑わうそこは何かの施設なんだと思う。
半年ぶりに見る豪華な建物に大勢の多種多様な住人。脳が追いつかず呆けて見つめてしまう。
「エリカ、大丈夫か?
ここは冒険者ギルドだ」
「冒険者ギルドって、あのゲームやファンタジーに出てくる組合組織だよね。すごい、こんな立派なんだあ」
興奮しすぎて前世の感覚で声に出す私にアベリアは困惑した顔で
「ゲーム? 何を言ってるんだエリカ?
まあ、確かにこの街の冒険者ギルドは豪勢だからな。
エリカが驚くのも仕方がないが…少し落ち着け」
と、肩を軽く叩かれた。
う、うん。そうだね。心を沈めないといけない。お上りさんは恥ずかしいものね。
私は大きく深呼吸した。
「落ち着いたかエリカ。
お前の服はあっちで売っているから見に行こう」
アベリアに連れられ冒険者ギルドの中を歩く。あのカウンターは冒険者受付ね。その横の掲示板は仕事の依頼ね。そのまた横の掲示は仲間募集の張り出しなのか。
あっ、私この世界の文字が読める! 今知ったけどあの看板とか文字を見ると頭に意味が浮かぶ。
やった! 良い事を知った。この世界に本や新聞があればアベリアに頼んで買ってもらおう。テレビもラジオもネットも無いこの世界で情報や知識に飢えているから何でも良いから読んでみたい。
あ、あれは武器屋だ。ゴツイでかい武器が看板のように店先に置いてあるし、人で賑わってる。
冒険者ってこの世界に多いんだなあ。どんなクエストがあるんだろう?
「エリカこっちに普段着があるから好みの女物の服を選んでこい。
店の奥でサイズを調節してくれるからサイズはあまり気にしなくても大丈夫なはずだ」
武器屋の隣にはなかなか広いスペースで服屋があり、店内には所狭しと衣装がかかっている。
何処の世界でも女性は服を買うのかこの店の7割は女性の衣装や小物で埋まっているようだ。
街を歩いていた女の人達の感じだとこの辺りが普段着になるのかな。
足首まで隠れるワンピースの前で考える。結構シンプルなデザインだけれど色や数が豊富だ。ここまで来たことだし吟味して選びたいけれど時間がかかりそう。
「選ぶのにちょっと時間がかかるかもしれないけれど、アベリアはどうする?」
アベリアに時間がかかると注意しておこう。
「どうするってお前1人に出来ないからエリカの側にいる」
「え、でも退屈じゃない?」
「どこに人攫いがいるか分からないんだぞ。お前から目を離せるわけがないだろう」
こんな服を売っている店の中まで危険地帯なのか!
ああ……でも言われるとさっきの冒険者さん達とか、ごろつきというかならず者な見た目だった。そんな人たちが沢山いるここは、決して治安が良い場所では無いって事なのか。
「じゃあ、出来るだけ早く服を選ぶよ」
私は気を引き締めて自分の着るワンピースを選出しだした。
自分の人生においてこんなに真剣に集中して服を選ぶなんて初めてだわ。
「エリカ、替えの服もいるから3着くらい選べよ。あとコートと女物のブーツか。それに女は小物もいるよな。襟巻にバッグに帽子にアクセサリー、手袋もいるか……おい、どうしたエリカ床に座り込んで?」
女が女の恰好をするってこんなにも大変だったのね。
私、前世でも帽子もアクセサリーも付けた事が無いから選ぶ基準が分からないわ。
あ、あれが無いかしらお洒落スタッフが飾り付けたコーデを纏うマネキン。
あれ一式下さいって、それを着ればなんとなく誰でもお洒落に見えるはず……う~ん、マネキンが無い。
私は両膝を床について途方に暮れた。女の道は雪道並みに険しいわ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。




