雪山下山
エリカの衣装を買いに街へ行く事になりました。
エリカ、異世界に来て初めて街へ行きます。
はあはあはあはあ……
真っ白な雪山を街を目指して下山中。
ボタン雪がしんしんと降って積雪ましましです。
膝まで雪に埋まる。もう疲れて腿が上がらないよ。
む、無理……雪国育ちでない私にはこの雪の中を進むことは出来ない……
「お~い、エリカ大丈夫かぁ」
先の方からアベリアが手を振って待っていてくれるけれど、もう動けない。
ここの雪はサラサラでアベリアがせっかく雪を漕いでくれても、すぐに道が雪で消えてしまう。
アベリアの後をついて行くだけの事が出来ない…… はあはあはあはあ……
「エリカ、大丈夫か?」
「ぎゃ!」
急にアベリアが目の前に来て、うつむく私の顔を覗き込んだ。
「なんで、そんな驚くんだ」
ムッとしながら言うアベリア。
「ごめんなさい、はあはあはあ……ちょっと余裕が無くて……はあはあはあ」
真っ白な雪道でしかも初めて行く街は途方もなく遠く感じられる。
もう、街に行くのは諦めたい。せめて雪が融けるまで春になるまで待って欲しい。
アベリアが女物の衣装を買おうと私の為に街へ行こうと言ってくれているけれど、私の体力ではこの雪道は歩けないもの。
ああ……頭で思うだけでなくて声にしてアベリアに伝えなくちゃ。
ん?
アベリアの大きな手が私の脇に入り体を持ち上げられた。
これは小さい子供が大人に高い高いされている恰好……アベリアの目が私より低い位置に見える!?
「え?……何?……アベリア?…‥」
「悪いエリカ、お前にはこの雪の中歩くのは大変だったんだな」
そう言ってアベリアは私を抱き寄せて、腰に大きな手を添えもう片方の手で私の太ももを抱える。
冬だからコートとか着ていて厚着ではあるけれど、すっごい密着。しかも顔近い!!
「あわわわわわわわわ……」
「エリカ、焦ってないで俺の首にしがみつけ」
「は……は、はい!」
アベリアの逞しい首に抱き着く。お互いの肩越しに頭がくっつく。
うう……恥ずかしいドキドキする。
「耳元で大声出すな」
「ご、ごめん」
私が謝るとアベリアの顔は見えないけれど、彼はフフと小さく笑った感じが伝わってきた。
アベリアは私を抱いて……いや、抱えて足早に歩きだした。
す、凄い! 私が歩くよりも断然早く進んでいく。
アベリアだってふくらはぎ位まで雪があるのに、すっごく足が上がって駆けているよう。
「アベリア、私重くない?」
今更だけど聞く。まあ、アベリアが重いと言うはずが無いと思う。
「……重いな」
「ええ! 重いの私!」
まさかの重いって、アベリアの顔を見ようと上体をひねる。
「エリカ! 持ちにくい動くな! あと耳元で大きな声を出すな!」
アベリアに叱られ慌てて体制を戻し「ごめんなさい」と呟くように小声で言った。
「重くないって言われると思って聞いてきたんだろう?」
あ! この言い方、私を揶揄ってる。しかも笑ってるわ。
まあ……図星っていうかアベリアに重くないって言ってもらいたくて聞いたんだけれど……怪我とか病気でなくて抱いて歩いてもらうなんて悪いと思うし、それに持ち上げられたら体重がバレちゃうよね。
私太ってはいないはずだけどそれでも恥ずかしいわよ。
「……乙女心なのよ」
私が萎びた声で呟くとアベリアは私の腰に当てている手に力を入れて
「人間一人抱えて歩いているんだ軽い訳ねえだろう? でもエリカ1人くらい俺は街まで余裕で運べる。
気にしないで安心して捕まっていろよ」
と、優しく言ってくれた……耳元で。
ぐはあ、余裕で運べるとか安心して捕まってろとか胸きゅんだよ。
しかもその声のトーン素敵だった。
やばい! やばいよ! 彼氏いない歴20年。
しかもこの歴史の中で男性に優しくされたことなど父親以外皆無の私に、こんな状況もう惚れてまうやろー!
異世界に来て半年以上経っている。
アベリアはオーガって種族だけれど頭に角が合って体が大きい以外は人間と変わりなく見える。
いや、むしろ精悍な顔に澄んだ青い瞳で私が今まだ会った異性の中ではかなり恰好良い男だわ。
外見がタイプで自分に優しくしてくれるなんて、好きにならないわけがない!
でも、駄目……だって恋人になったら案外上手くいかなくて別れる事になったら、同居できなくなってしまうわ。
それにこのアベリアの優しさは彼は私が好きなの?
その好きはどういった種類の気持ちなの?
恋人? 女友達? 家族?
もしかしたらアベリアは女性一般に対して優しいのかもしれない。
同棲していて感じるアベリアの私への対応は紳士的で、私に女らしい格好をさせようとする常識的な考えの持ち主だから、他の女性に対してもアベリアは私にしてくれることを普通にやるのかも。
アベリアに胸がときめくのと同じくらい切なくなってくる。
「エリカ、もう少しで着くからな。腕を離すなよ」
「うん」
私はアベリアを離すことは出来ないなと、彼の首に巻く自分の腕に力を込めた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




