服を買いに行こう
エリカはいつも通りの朝を迎えましたが……
異世界生活194日目。
早くも異世界に来てから半年以上過ぎた。
アベリアに会って山小屋で暮らすようになってからは、日常生活がスムーズに送れている。
スローライフって感じで毎日が充実しているよ。
朝食事をして午前中は家の掃除や片付け、昼食を取ってから山を散策、夕食を食べて夜は暗くなったら寝る。
健康的なゆっくりとした日々だわ。
今朝もアベリアが作ってくれた入浴場で髪と体を洗う。
「さ、寒い~。凍えるぅぅぅ」
季節は冬で雪が降っている。
こんな日にまで風呂に入るのかとアベリアに呆れられたけれど、もう3日も入浴してなかったから我慢出来なかった。
入浴場に雪が入らないようにアベリアが魔法で薄い膜をお風呂場に張ってくれたけれど、それでもやっぱり寒い。
サッサッと髪と体を洗って入浴場から出た。
アベリアがいなかったら、私は本当に生活出来ないわ。
死神様は良い人を私に付けてくれたなあ。
服を着てアベリアに髪の毛を魔法で乾かしてもらおうとリビングに向かった。
自然乾燥よりも彼に髪の毛を乾かしてもらった方が髪が綺麗になるんだよね。
「アベリア、朝食前で悪いけれど私の髪の毛を乾かして下さい」
と、私の顔を見てアベリアは渋い顔をして
「もう、限界だ! エリカの服を街に買いに行くぞ!」
と、宣言した。
「限界って?」
「エリカは女なんだから、しっかり女の恰好をするべきだ!」
「う~ん、この服装だって私を見て男だと思う人はいないと思うけど?」
私は自分の姿をリビングにある鏡に映す。
この家の鏡は気泡が入っていて完璧に綺麗には映らないけれど。
私は腰まで届くほど伸びた黒い髪。伸びた前髪は耳にかけて顔を出している。
今日着ている服はストライプの男物のシャツと紺のパンツにブラウンのロングブーツを履いていて、ストライプがボインを強調しているから、絶対に私は女だと分かるはずよ。エロかっこ良いスタイルよ。
「だからだ!
顔も体もエリカが女なのは見て分かる!
なのに男の衣装を着ているのは普通じゃない!
女が男の恰好をするなんて異常な奴のする事なんだ。
俺は女と暮らしているはずなのに、男の恰好をする変態と同居しているなんて考えたくない!」
アベリアは両手をテーブルに着けて声高らかに主張した。
へ……変態だと
「そこまで言わなくても、大体他人なんてこの家に来ないから、私が見られる心配は無いのに」
「俺が毎日エリカを見ている!
出会った当初は今より髪も短く少年のようだったから、男物の服を着ていてもあまり気にならなかったが」
「は? 少年て……」
アベリア、私の事を少年だと見ていたの。
おかしいのはお前だ! このボインを見て男だと思えるなんて。
腹が立ってアベリアを睨むと、彼の美しい青い瞳がスッと私を射抜いた。
「今、とても美しい長い髪に肌も綺麗な可愛い顔のエリカを毎日見て、俺は男の姿をするお前が不憫でならないんだ。
綺麗なエリカには、やはり着飾った女の衣装を着て欲しい!
だから一緒に街へ服を買いに行こう」
そ、そう、綺麗で…か…可愛いって、そんなに言われたらもう怒れないじゃん。
顔が熱い!
アベリアは口が悪いけれど褒め言葉もサラッと言うからずるい。
しかも真顔。心から思った事を言ってる。お世辞は言わない。
「そこまで言ってくれるなら、女性用の衣装を買いに行くよ」
これで下心っていうか口説いてくれているなら嬉しいけれど、アベリアの場合は
「じゃあ、支度をして朝食後街へ行こう」
……そういう流れは無い。
うう、男性と付き合った経験が無くて、格好良い男と同居っていろいろ気持ちが揺り動かされるなあ。
アベリアに髪を乾かされながら思う。
私が綺麗になったようにアベリアも出会った頃に比べると別人のようになっている。
出会った時はガリガリにやせ細っていた体が、今は3食食べて睡眠も十分だから逞しくなり、身長もかなり伸びた。
腰まであった髪もナイフで切って今は肩くらいの長さを一つに縛り、顔も頬がこけている不健康な感じから、精悍な引き締まった顔になっている。
元々印象的な青い瞳はより一層輝いて魅力度がアップされたし、正直アベリアはイケメンだ。
そんなイケメンに綺麗とか可愛いなんて言われると舞い上がってしまうけれど、一緒に住んでいく同居人として恋愛はしない方が良いよね。
恋人になったとたん破局したら取り返しつかないっていうか一緒に暮らせなくなってしまう。
私は恋人だった人と別れても友達として繋がっていくという感覚は分からない。って言っても恋人なんていた事が無いけれど、友人の話を聞いてそう思った。
アベリアが私から離れたらもの凄く困るわ。だって生活ができなくなるもの。
だから、アベリアがどんなに恰好良くて優しくて、時には厳しいけれどそれは私の為にしてくれているんだと分かっても、彼に恋心を持ってはいけないと決意している。
「ほい、エリカ。髪の毛乾かし終わったぞ」
アベリアが輝く笑顔で言って、私の頭を撫でる。
そんな彼の言動に胸がキュンと鳴る。
あれ、私もう既に手遅れなのかな?
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




