アベリア⑤
アベリアは街にお皿を売りに来ました。
アベリアの過去話も少しあります。
「よお」
「おお、久しぶりだな」
街の細い路地裏の地下。暗くてカビ臭く危険な匂いのする場所。壁にはランプの灯りが3個ほどついて照らしている。
闇の稼業や裏の仕事をしている奴ら以外は来ない場所に昔馴染みを俺は訪ねてきた。
「まだここにいたんだな。サンザシ」
数年合っていなかった獣人のサンザシに挨拶する。サンザシは同じ奴隷市場で育った。
サンザシは美しい豹の獣人で真黒の髪に金色の瞳の女受けする美形だ。数年前、サンザシに惚れた女主人がサンザシの市民権を買い奴隷を抜けさせた。
ただ、女主人は堅気ではなかったため、サンザシは奴隷でなくなった今も闇の仕事をしている。
「他に行くようなとこは無いだろう。お前こそ……何だか体がでかく血色良くなっているが、まだ奴隷をやってんのか、アベリア」
「ふん、好きで奴隷でいるわけじゃねえよ。抜け出せねえんだ」
俺たちはお互いの顔を見て苦笑いした。
「それで、久しぶりに俺の所へ来た理由はなんだ。俺の顔が見たくて来たとか言うんじゃねえぞ」
重厚な机の前で両手を広げて俺に言うサンザシ。
部屋の壁の棚には高価そうな品物が並べられている。サンザシはここで盗品や普通には売れない品物を闇に流す窓口をしている。
「そんな気色悪い事言うかよ。俺が今日来たのはこれを金に換えてもらいたいんだ」
俺は皿が割れないようにそっと机に置いた。サンザシは自分の前に置かれた皿を1枚手に取ると、食い入るように皿を鑑定しだした。
「へえ、すげえ。……こんな皿何処で手に入れたんだ?」
やはり、サンザシも唸る程の品だ。俺もこの食器を見た時は驚いたからな。
「出所は言えねえが、お前が買い取ってくれるならまた持ってくる」
「ふ~ん、他国でもこんな綺麗な食器見た事が無い。
……アベリア、お前の今の主人は盗賊か? 出所が言えないって事はこの皿は金持ちや貴族から盗んだものか?」
皿はエリカが魔法で出した物だが、そんな事正直に話したらエリカにもっと皿を出させようとエリカが狙われちまう。
「俺がお前の所へ来たんだ。察してくれよ」
俺はサンザシの金の瞳を真っすぐ見た。
サンザシは首をひねっている。ここは闇市だから盗品だと言えばサンザシはすぐに買い取ってくれるはずだ。
しかし下手に盗品だと嘘を言へばこれだけ美しい食器を何処から誰から盗ったのか、自分たちにも教えろと言ってくるだろう。
こちらの情報は言えねえな。
「サンザシならこの美しい皿を買い取ってくれると思ってきたが、出来ないならはっきりと言ってくれ」
俺が迫るとサンザシは溜息を吐きながら
「……分かったよ。昔馴染みのお前が俺を頼ってきたんだ。この皿は買い取ってやるよ」
と、机の引き出しから布袋を取り出した。
「もしこの皿が盗品なら正規の闇ルートで流せるが、出所が分からんとなると買い手も怖がってなかなか売れんから、これくらいしか出せないがそれでもいいか?」
サンザシは銀貨を20枚、机の上に並べた。
「サンザシ、これは素晴らしい皿だ。いくら売れにくいとはいえもう少し高く買ってくれてもいいはずだ」
俺は目を細めてサンザシを見る。売りにくい品だってのは分かるが買いたたき過ぎだろうがと睨み付けるた。
「チッ、仕方がねえな。じゃあ、あと10枚銀貨を追加してやるよ」
本当ならもっと皿の価格を吊り上げるところだが、皿の出所が言えないのとこれから後のことを考えて俺はサンザシが机に置いた銀貨30枚を革袋に入れ出口に向かった。
長居は無用だ。
「じゃあ、またな」
「ああ、また」
短く挨拶をしてそのまま振り返らずに店を出る。俺たちは友ではない奴隷市で育った腐れ縁だ。
お互い利用しあって生きていて裏の手口は分かっている。
階段を昇り細い路地へ出た。路地には日が差し込まず昼間でも薄暗い道を足早に歩く。
目の前数メートル先に明るい大きな道が見えて来た。
大道りに出る前に片付けておくか。
「おい、後ろの3人出て来いよ」
俺は振り向きながら親切に声をかけてやった。
「店から俺を付けてきてんのは分かっている」
薄暗い細い路地の壁から3人。1人は人間の男。あと2人は獣人が薄笑いを浮かべながら姿を見せた。
「へへ、勘が良いな。俺たちも尾行はめんどくさいから、今ここであんたがあの皿を何処から持ってきたのか教えて貰えると手間が省けんだが」
獣人が短剣を振り回しながら俺に聞いてくる。俺は腕組して溜息をついた。
「体格的には俺よりもでかいがその剣の持ち方……全然なってねえ」
「……はあ!、」
獣人は短気な奴が多い。俺の一言で頭に血を上らせて短剣を振り上げて突っ込んでくる。
俺は横に避け、獣人の勢いをそのまま流し足を引っ掛け獣人が前に突っ伏す体制のところを、獣人の後ろ首に手刀を落としその勢いで獣人の顔を地面に叩き付けた。
そこへもう一人の獣人が爪を立てて襲ってくる。俺は山小屋に置いてあった山賊の長剣を腰から抜き、下から上へ円を描く。獣人の右腕が空を飛び、地面に崩れる。
獣人は地面に叩きつけた1人は気絶。腕を切り飛ばされた1人は戦意喪失。
俺は路地の奥で震えて動けない人間を見た。
「サンザシに俺の腕前は落ちていないと伝えておいてくれ」
剣を鞘に納め大通りへ出る。1本道が違えば別世界だな。
大きな通りを行き交う者は身なり良く明るい世界に生きているように見える。
俺は角が見えないようにフードを被り、首の隷属輪を隠すため高衿を止め歩き出す。
大通りを歩いているとこの街で一番大きな冒険者ギルドが見えて足が止まった。
相変わらず白くてでかい建物だ。
何故か気持ちが引かれてギルドへ入った。ここにはいろんな種族が出入りしている。
冒険者の登録や管理、情報収集が出来て休息所や食い物や上の階には宿がある。
冒険者の武器防具の販売所には普段着も売られていた。
女物の衣装が売られていて見るがエリカのサイズが分からん。あいつ胸がでかいから既製品では入らないだろうな。
エリカに服を買って帰ろうかしばらく悩んだ。しかしエリカの好みも分からないし、価格が高い。買って着られないのは困る。……またにするか。
衣装屋を出ると奥の方に市民権販促所が目に入った。
ここで金を出せば奴隷から解放される。
俺は胸の革袋の銀貨に服の上から手を添える。
フン、銀貨30枚くらいでは足りない。市民権を得るなら金貨3枚が必要だ。……それにこの金は俺の物じゃない。エリカの金だ。……早く家に帰ろう。
冒険者ギルドを出るともう夜になっていた。俺はエリカの元へ急いだ。
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