エリカ、夜のお留守番
アベリアは街へお皿を売りに行きました。
エリカは一人、山小屋にお留守番です。
山の中に夜が訪れる頃、アベリアはまだ帰宅しない。
家の中は暗い影に覆われて、心細いを通り越して恐怖に変わってきた。
夜に明かりも無く一人になるのはこの世界に来て以来、久しぶりだ。
異世界に来た当初は自分のボインに興奮していたのと、知らない世界に来た好奇心で夜の闇を怖いと感じなかった。
今はアベリアという安心を知ってしまって、彼が側に居ないのが落ち着かない。
アベリアがいないと暖炉に火が入れられないから、体感的にも寒い。
この国にも四季があって、今は秋らしく朝と夕はとても冷える。
いつもの居場所で暖炉前のソファ―に座って、夕食を一緒に食べようとアベリアの帰宅を待っているけれど、体も冷えるし暗くて何も出来ないからお布団の中で寝て待とう。
私はリビングから寝室に移動しようと思った時、窓から入る月明りに目がいった。
山小屋の周辺の木はアベリアが切り倒したので、外の明かりや日光が窓辺には入るようになっている。
いつもより明るい気がするけれど、今日は満月だったのかしら?
厚いガラス窓から外を見ると上からの光ではなく、小屋から離れた木々の間から光が放たれていた。
……何? あれ?
目を凝らして見る。
大きな発光体がゆっくりと木と木の間を移動している。
火の玉にしては大きすぎるよね?
直径2メートルくらいあるし……アベリアではないよ。
あんな光の魔法使えるって聞いていないわ。
それにあの光の動き?
ゆっくりと動きながら何かを探しているみたい?
あ、あれ、光がこっちに向かってきたわ。
しかも移動スピードが速くなったみたい、木を避けてグングン近づいてくる。
ど、どうしよう!
家の中に居れば安全かな? それとも外に飛び出した方が良いの?
い、いや、判断が付かない!
光の玉は私のいる窓の近くまで、もの凄い速さで一直線に向かってくる。
ま、眩しい! そして怖い!
助けて! アベリア―……
…………
「エリカ! エリカ! 大丈夫か!」
あ、アベリア。
「良かった。気が付いたのか」
温かい……あ、アベリアが暖炉に火を入れてくれたのね。
それにアベリアは私の全身を毛布で包んでくれている……。
「エリカどうしたんだ。何があった?」
アベリア、何でそんなに不安そうな……顔近! あれ? 私アベリアにソファの上で抱きかかえられている?
「……え……え~と、分からない、私どうしたの?」
頭の中がモヤモヤして記憶が繋がらない。
「俺が家に帰ってきたら、そこの窓の下にエリカは倒れていたんだ」
窓の下……何だろう思い出せない。アベリアが帰宅するのを待っていて…そう…確か大きな光が
ん、え?
アベリアが私を強く抱きしめた。
彼の顎が私の頬に当たり、アベリアの逞しい両腕で背中を押さえられて、広く硬い胸の中に私は埋められる。
ぐはあ、髪にアベリアの息がかかる。
ボインが潰されてアベリアの体に密着している。これって私の激しい心臓の鼓動が彼に伝わっているよね。
温かくて気持ち良くて嬉しいのに、恥ずかしくて居心地が悪い、何この複雑な心境!
全身沸騰している私にアベリアは寧ろ落ち着いたと安堵のため息を吐いた。
「はあー、エリカの意識が戻って、安心した。
エリカが床に倒れているのを見た時は死んでんのかと思って焦ったよ」
状況に頭がついていけないけれど、アベリアを心配させてしまったのか私。そうだよね、もしも反対に私がアベリアが倒れているのを発見したら、もうパニックになっちゃうわ。
アベリアは私の背中を二回、軽く手で叩くと私から上体を離してソファに座りなおした。
「……アベリア、心配かけてごめんね」
アベリアは穏やかな顔で頷いた。私は彼を見て冷えていた体だけでなく心も温まる。
アベリアの姿が見えなくて私は本当に寂しくて、彼が無事に帰宅して嬉しいわ。
私がアベリアを見つめていると彼は懐から革袋を取り出し、私の膝の上に置いた。
「食器を売った代金だ。見てくれ」
アベリアは二ッと口角を上げて笑い私に促す。私は膝の上の革袋の重さに驚きながら、コインを取り出した。
銀色のコインは500円玉硬貨より少し小さくて厚みがあり30枚ある。
「アベリアの表情からすると食器は高額で売れたのね。ありがとう、アベリア」
アベリアはしまったという顔をした。
私がお金の単位や物価の価値を知らない事を失念した。この小屋で山賊のお金を見つけた時に話していたのだけれど、アベリアは私が全くお金が分からない事に驚いていた。
まあ、そりゃあそうよね。今までこの世界でお金を使わず生きてきたって事だから。
「ああ、そうだ……エリカは金を使った事が無いと言ってたな……今エリカの手にある銀貨30枚は、平民が家族5人で1年くらいは余裕で食っていけるくらいだ」
アベリアはこの世界の事を丁寧に説明してくれるけれど、私の過去には突っ込んでこない。
「家族1年分の生活費かあ。凄いね! よくそんなに高額で買い取ってもらえたね」
「いいや、これでも買いたたかれた値段だ。
エリカの出すあの食器は、例え貴族でも使えるかどうかの本当に上等な器だ。
だがやはり、上等すぎて普通には売りさばけないから足元を見られてしまった」
アベリアは自分の過去を話さない。食器を売りに行った闇市にいる知り合いのこととかアベリアの事を聞いてみたいけれど、何となくアベリアも私に出会う前の事は話したくないのだと感じる。
アベリアの昔を知らなくても今のアベリアが私には大切だから、私も彼の過去には突っ込まない。
「ううん、私達の生活にはそれほどお金は必要ないし、そう考えれば銀貨30枚は本当に大金だよ。
さあ、アベリア夕食食べよう」
「エリカ、まだ食べたいなかったのか?」
「うん。アベリアと一緒に食べたくて待っていたよ」
アベリアは頬を赤くして嬉しそうに青い瞳を揺らしながら私を見た。そして二人でダイニングテーブルへ着くと、私は微笑んでアベリアに聞いた。
「アベリア、今夜は何を食べたい?」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




