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アベリア④ 

アベリア視点のお話です。

アベリアが石鹸を買いに行く日。

 石鹸を買うために街へ向かう。


 いや、その前にエリカに家の外に出ないように、もう一度しっかりと注意をしておこうと、山小屋の中へ戻る。


 玄関ドアを開けるとエリカはリビングの履き掃除を初めていた。

「エリカ」

 俺を見て驚くエリカ。


「……もう一度しっかり注意をしておこうと思って。いいか、俺が帰宅するまでこの山小屋から出るんじゃないぞ。……分かったか」


 俺に言われて大きな黒い瞳を見開きコクコクと頷くエリカ。可愛い。

 しかし急にエリカは怒りだした。


「……私、子供じゃないから大人だから大丈夫よ」


 そう言って小さな手で俺の背中を玄関まで押して行き、俺は家の外へ突き飛ばされた。


 ふー、どう考えてもエリカは可愛い女で、しかも危機管理が出来ない奴だ。

 そんな女を家に1人で置いて行くなんて不安だ!

 もう一度しっかりと注意しておこう!


 玄関ドアを開ける。


「エリカ、何度言ってもお前が俺の言う事をしっかりと理解しているのか不安だ。いいか! 絶対にこの家から外へ出るなよ!……」


 と、俺が必死に彼女を心配して言っているのに、エリカは俺の腹を思いっきり蹴飛ばしてきた。

 エリカに蹴られるくらい痛くはないが、俺はバランスを崩して外の地面に尻餅をついた。


「石鹸を買ってくるまで家には入れてあげないからね! 無事に帰って来ないと許さないから!」


 エリカは怒鳴り玄関の鍵を内側から勢いよくかけた音がした。


 よし、鍵をかけたな。外からの侵入を少しは避けられるか。得意な魔法ではないが、家の周りに結界を張って行くとしよう。

 山小屋の存在を他者に知られにくくはなるだろう。


 とにかく全速力で買い物を済ませて、エリカが馬鹿な事をして死なないように監視しなければ。エリカに万が一の事があり彼女を失えば、俺はまた首に嵌る隷属の輪によって新しい主人に仕えさせられてしまう。

 エリカ以上に俺に都合の良い主人などこの世界にはいない。

 エリカは俺にとって特別な存在だ。


 俺は全力で走り街へ向かった。


 街の手前でフードを被り高襟を止める。

 角を見られると俺がオーガだとバレてしまう。奴隷と分かると厄介ごとに巻き揉まれるかもしれない。


 街に住むのは獣人が多い。

 獣人は血気盛んで繁殖力が強く数が多いため、獣人は他種族を見下していて特にオーガへの差別は強い。

 オーガは個では強靭な体で戦いに強い種族だが、獣人の圧倒的な数におされて300年前から獣人の奴隷として従わされている。

 この世界のオーガで奴隷でない者は少数だ。


 獣人は目鼻立ちは人間と変わらないが、派手な色の髪と瞳に獣耳と尻尾がある。だからか街の建物もオレンジやピンク、紫や青などカラフルな色で彩られている。

 チッ、本当に姿形だけでなく街まで下品な色遣いで落ち着かないぜ。


 すれ違う獣人たちに顔を見られないように俯き足早に歩く。


 確かこの街のあの辺りに雑貨屋があるはずだ。

 前の前の主人が通っていた雑貨屋。店に入ると店主がチラッと俺を見た。


 店主は少数民族のリザードマンで、この店は多種多様な雑貨を取り扱っている。いろんな種族が利用する差別をあまりしない店。前の前の主人は変わった物が好きで、この店をよく利用していた。


 あの時の主人が言っていた良い石鹸をエリカに買って行ってやろう。

 洗剤はこれが良いはずだ。すぐに見つかって良かった。


 ふと隣の棚を見ると美しいガラス瓶が目に入った。

 そう言えば女は髪の手入れに香油を使うんだったな。エリカは綺麗好きだしこれが必要だろう。


 ……どの香油がエリカに合うのか? このお試しとは何だ?


 手前にあるお試しのガラス瓶を手に取り顔を近づけると良い香りがした。隣の香油は今嗅いだ匂いとはまた別の良い香りがする。

 香油というくらいだから好みの香りで選べばいいのか?


 この香! 甘い花の香りがする。エリカの匂いに近い感じがする。俺はこの香が一番好きだ。エリカに似合いそうだ。よし、この香油を買って行ってやろう。


 体を洗う石鹸3個と香油を2瓶、家の汚れを落とす洗剤を1箱持って店主の所へ行った。


 店主は金額だけ告げて商品を渡す。俺は無言でコインを渡して店を出た。店を出る瞬間「毎度~」と店主の声が聞こえた。店主は愛想は無いがどの客にも同じ対応をしている。

 この店は良い店だ。


 俺は来た時と同じように街中を足早に歩き出て、山道を全力疾走した。エリカが危険でないように無事に留守番している事を願いながら。


 全力で駆けて帰宅するとエリカはちゃんと家にいた。安心した。


 買ってきた石鹸を見せると可愛い笑顔を俺に向ける。俺は心が温かくなる。

 俺が選んだ香料も気に入ってくれたようだ。

 俺はエリカが出してくれたとても香りの良い冷えた飲み物を飲みながら、喜ぶエリカを見ていた。

 心の中に春の陽だまりが差すのを感じる。


 ところで、俺がいない間エリカはこの家で一人、何をやっていたのか気になって聞いた。


 エリカは山賊の部屋を掃除していたらしい。

 その部屋で新品の男物の服を見つけたと言って渡された。


 エリカの見つけた服は布地も良くサイズも俺が着られそうで、エリカが俺の事を考えて俺の事をよく見てくれている事に嬉しくなった。しかし同時にエリカに対して申し訳ない気持ちになる。


「女性のエリカが男物の服を着るのは屈辱だろう。

 俺が街で買って来ても良いのだが、女の服はサイズを採寸しないと着られないから。

 かと言って、エリカを街に連れて行くのは不安だし」


 正直、エリカを街に連れて行く気にはなれない。


 危なすぎる。


 しかし、エリカにはちゃんとした女の恰好をさせてやりたいと本当に思っているんだ。


 エリカは男物の服装でも気にしないと健気にも言うが、エリカの性格は優しくてとても女性らしいと俺は感じている。だから本当はエリカは女らしく着飾りたいと思っているはずだ。


 エリカは俺の主人だが、エリカは俺を奴隷にしたことは知らない。

 エリカと暮らすようになって俺は空腹でいる事はなくなったし、夜寒さで寝られない事も無く満たされた生活を送っている。


 俺は生まれて初めて自分から主人に奉仕したいと思っている。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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