アベリア③
アベリア視点のお話です。
エリカと出会ってから山の中での二人暮らし。
ほのぼの?日常です。
俺は不本意ながらまた奴隷にされた。
だが、新しい主人エリカは俺が彼女の奴隷になった事を知らない。
エリカは初級魔法が使えないのに、治癒力と食事を出現させるという大魔法使い並みの魔法を使う。ほっそりと華奢な体なのに胸だけが大きく鍛えられていた。後々エリカが女だと気づき、鍛えらた胸はおっぱいだと分かったが……内面も外見も極端な奴だと思う。
そんな女のエリカが俺に出会うまで、山の中で一人で生きていたと言う。
木の下で食事をして、川の水で顔を洗い、夜は木の葉を寄せ集めた上で眠り、昼は山を散策していたとエリカは言った。
こいつ何で火も熾せない最低限の暮らしも出来ないくせに、こんな過酷な環境で生きていこうとしているんだ?
エリカに会ってエリカの事が疑問でいっぱいだが、突っ込んだ質問して逆に俺の事を聞かれるのは困るから聞けない。
取り敢えずエリカの側を離れられない俺は今の状況を良くするために、生活出来そうな場所を探して山賊の住みか山小屋を見つけた。
屋根と壁、小屋の隣には井戸もあり、これで安心して暮らせるだろうとエリカに言うと、何故か彼女は山小屋で暮らすことを渋っている。
他人の物を勝手に使うのは気が引けるとエリカは言うが、山賊の物で溢れかえっているこの小屋も元々は山賊が誰かから奪った物だ。なぜなら山賊が井戸を掘るとは考えられないし、山小屋の作りも立派だから。真昼間に幌馬車を正面から襲うあの馬鹿たちが家を作れるはずが無い。
山賊たちはもうこの世にいないし、俺たちが住んでも大丈夫だと強引にエリカを山小屋へ入れて、主人と生活を始めた。
山小屋の中は山賊の私物で散らかっていて、エリカと一緒に片付けをする。
エリカは俺が奴隷と知らないからか、4つある部屋の一番広い部屋を俺に使えと言った。その部屋には大きなベッドがある。
正直、奴隷の俺がこの山小屋で一番広い部屋を使うのは戸惑ったが断る理由も探せず、山小屋の中で一番立派な部屋が俺の寝室になった。
エリカには俺の隣の部屋を使うようにした。夜エリカに何かあれば俺がすぐに気が付くように。
部屋の中には山賊の服が沢山ある。その中から俺やエリカが着られそうな物を選んだ。
男物の服は山のように見つかるが、山賊たちは襲って奪った女の衣装はすぐに金に換えていたのか、女物の衣装は1枚も出てこない。
エリカはパンツ(ズボン)を履き、ブーツに足を入れながら自分はこれで良いと言うが……男の恰好で女らしい仕草や動作のエリカを見るにつけ俺は落ち着かない。
エリカは片付けが好きらしく、朝食後はせっせとリビングや玄関、自分の寝室を掃除している。エリカのおかげでリビングは日に日に清潔で綺麗になる。
俺は清掃された美しいリビングの暖炉の前のでかいソファーで、エリカと過ごす時間が好きになっていた。
午後は外の空気が吸いたいとエリカは散歩に出かける。
俺は昼食で腹がいっぱいで眠気に誘われていたので留守番する事にした。
しかし、いざ体を横にするとエリカの事が気にかかり寝られない。仕方がないのでエリカを探しに山へ入った。
エリカは木々の中ですぐに見つかった。彼女は微笑んで何かに話しかけている。
エリカの目線の先には一角兎が威嚇態勢でいた。
「危ない! エリカ」
兎はエリカの目前で頭から鋭くて長い角を出して跳ねる。
俺は右手でエリカの襟首を持ち後ろへ引っぱって、左手の拳を兎の横腹に叩き付けた。
俺は猛烈に腹が立ち、エリカを叱る。
「エリカ。一角兎は通常角を隠して生きているが、縄張り意識の高い動物であの鋭い角で心臓を狙ってくる危険な生き物なんだ。2度と安易に近づくな!」
自分の主人に大声を上げるなど奴隷には許されない。
主人を危険から守るのは奴隷として当然で、主人が危険な行動をしても奴隷が文句をつける事は許されないからだ。
だがエリカは俺が奴隷だとは知らないし、彼女は無知だから俺が教えなければ、俺の手の届かないところでまた危ない目に合うだろう。
俺はエリカに死んで欲しくないと思っている。
彼女との暮らしは今までの奴隷人生の中では快適だからだ。
エリカは肩を落として俺に謝り反省した。しかし一角兎の死体を見ながら、
「……可愛いのに凶暴なのか」
と、寂しそうに呟いている。
可愛くて大人しかったら自然では生きていけないじゃないか? 俺は思ったが気落ちしている主人にそこまで口には出さなかった。
後日、彼女は可愛いリスに餌をやろうとしていたので、俺はすぐに止めてリスの爪の毒を説明した。
俺の説明を素直に聞き入れるエリカを見て、彼女は可愛くて大人しく毒も持たずして、自然の中で生きている唯一の生き物だと思う。
こうしてひとしきり山に住む動物は危険だとエリカに教え、彼女も自分から生き物に手を出さなくなり安心していたら、エリカが一人で山の中に散歩に行ってしまった。
多分、俺がソファーでうたた寝して起こすのが悪いと考えたのだろう。目を開けるとエリカの姿がないのに気が付き慌てて家を飛び出す。
エリカは素直で頭も悪いわけではないが危機感がない。自分を大人だと言って基本俺を頼らないし、俺に面倒をかけないようにと気をつかう。
今まで主に身勝手に使われるのは心底嫌だったが、エリカには俺をもっと頼って欲しいと思う。
「ぎゃー! 変質者あー!」
エリカの叫び声が耳に入り俺は全力で走る。
エリカの近くには発情したタヌキがいた。俺は勢いよくタヌキに飛び蹴りする。
タヌキは木々の間に消えて行った。
俺は荒い呼吸を整えながらエリカに注意した。エリカは俺の注意を頷いて聞いてはいるが、タヌキの下半身が衝撃的だったらしく青い顔で小さく震えている。やはりエリカはまだ子供だな。
俺はエリカの背中を優しく撫でた。
「……エリカは子供より手がかかる」
つい口に出てしまった俺の言葉に彼女は怒った。
エリカと山で暮らし始めて2ヶ月以上が過ぎた。
危険で穏やかなエリカとの日常を俺は気に入っている。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




