石鹸
エリカついに念願の石鹸を買って貰いました。
「た……た……ただ……い……ま……ゴホッツゴホッツ」
玄関で両手を床に着き荒く呼吸して、えずくくらいの急いで帰宅したアベリア。
街から山小屋までの往復を全力で走ったらしい。
そこまで私は信用無いのか。
「お帰りなさい。アベリア。
……大丈夫? 治癒魔法かけようか?」
「い、いや……大丈夫……だ……、これ、エリカの……欲しがって……いた、石鹸だ」
アベリアは震える腕で背中に背負った布から、ゴロッと3個の丸い包みをダイニングテーブルの上に出した。
薄いグレーの紙に包まれたそれを1個手に取る。
1個は私の片手より大きくて結構重い。期待に胸を膨らませて包みを広げた。
中からは桃色の固形石鹸によく似た物があり、甘い果実の香りが部屋に充満する。
「うわあ! これとてもいい匂いね。嬉しい」
私が喜んでアベリアを見ると、彼はダイニングチェアに座りながら私を見て頬を染めた。
「ところでこれはどうやって使うの?」
「ああ、まずは数回使う分、これくらいをナイフで削って、これをお湯で濡らすと泡が出るからその泡を体につけてこすり、湯で泡を落とす」
「おお、石鹸とほぼ同じ使い方だわ。分かったよ。ところでこの洗剤は髪の毛も洗えるの?」
「ああ、髪も洗えるが女はこの洗剤で洗った後に、香料を付けているはずだ。
髪の毛の艶と纏まりが良くなるらしい」
そう言ってアベリアは懐から2個香料の入った瓶を取り出した。
ガラス瓶だ、綺麗だわぁ。
香料は琥珀色のガラス瓶に入っていて、香水のようで魅惑的なとても良い香りがする。
私は瓶のふたを外して香料の香りを嗅ぐと、とても幸せな華やかな気持ちになった。
アベリアは私が女性だから気を使って、自分は使わない香料を買って来てくれた。
彼の気遣いに胸がきゅんとする。
「この香料も本当に良い香りだわ。買って来てくれてありがとうアベリア。
明日の朝の入浴がとても楽しみだわ」
私は香料の瓶と洗剤を大事に持ってリビングの棚に置いた。
ずっと欲しかった物が手に入って嬉しい。
「ところでエリカは今日は何をしていたんだ?」
アベリアは私が出したアイスティーを飲みながら、部屋の中を見回した。
今、私達が暮らす元山賊の小屋は4LDKと広い一軒家のログハウスなのだけれど、山賊が手荒く生活していたからアベリアが見つけた時には、ここはゴミ屋敷の様だった。
それを私とアベリアで片付けて住みだした今でもまだ全部が綺麗になっていなくて、毎日少しづつ掃除している。今いる10畳ほどのリビングキッチンと自分たちの寝室を優先して片付けたから、後の2部屋はまだ手付かずだった。
「アベリアに言われた通り家にいたから大丈夫よ。
それで山賊の持ち物を片付けていたら新品の衣服が出てきたの。
これとかアベリアの体でも着られそうなサイズだと思うの。はい、良かったら着てみて」
それで、今日はまだ片付けていない部屋を掃除しだした。ほとんどが古着で着ることが出来ない状態の衣類が多かった中、クローゼットの中から紙袋に入った衣装を見つけた。
白と空色のシャツが2枚、黒いパンツが1枚、ブーツが1足。アベリアに渡す。
「へー、新品かぁ。しかもなかなか良い生地だし。見つけてくれてありがとうエリカ。
俺ばかり悪いな……エリカの服はこの小屋にはないだろう」
申し訳なさそうにアベリアは言う。
そう、女物の服はこの山賊のアジトには置いてない。
見つかるのは男物の衣装で、その中から私でも着られそうな小さなサイズのシャツを選んで着ている。
パンツも元々着ていたジーンズを脱いで、この小屋で見つけた濃いブラウンのパンツに膝まであるブーツを合わせた。
因みにブーツのサイズが合わなかったが、アベリアがとても器用に短刀で切って叩いて縫って、私の足に合うように革のブーツを調整してくれた。彼の過去はまだ話してくれないけれど、もしかしたら靴職人かも知れない……。
私的には今着ている衣装で満足だけれど、アベリアには私の恰好は可哀想に思えるらしく
「女性のエリカが男物の服を着るのは屈辱だろう。
俺が街で買って来ても良いのだが、女の服はサイズを採寸しないと着られないから。
かと言って、エリカを街に連れて行くのは不安だし」
私の服装は彼を悩ましている。
アベリアはお堅いというか真面目というか、こう有らなければならないという固定観念が強い性格みたい
まあ、その彼のおかげで私は貞操の危機も無く、山小屋で男のアベリアと2人きりで暮らしていける。
「アベリア、気にしないで。スカートが履けなくても、私が女であるのは変りないんだからね」
そう、私にはこのボインがあるもの。
例え男物のシャツを着ていても、この豊かな胸は隠れていないわ。寧ろシャツを隆起させて女らしさがアピールされているし、襟元から谷間も見える。
私は自分の格好をエロカッコイイとすら思っている。
アベリアは気にしてくれるけれど、パンツスタイルは日本にいた時から定番だったから、私は全然着慣れている自分で平気。
「さ、今日はアベリアが石鹸を買って来てくれて私とっても嬉しいから、夕食はアベリアが食べたい料理を出すよ。何が食べたい?」
テーブルで頭を抱えるアベリアの肩を叩いて食事の注文を聞いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




