エリカ、お留守番
アベリアは街へ石鹸を買いに、エリカは山小屋でお留守番です。
アベリアを見送り玄関の扉を閉めた。
「うふふふ、石鹸、石鹸、石鹸、楽しみだなあ。この世界の洗剤の香りってどんな匂いなのかなあ」
リビングの中を喜びながら、ボロボロの箒で掃いて回る。
この家、立派なんだけれど山賊が全く掃除や修復していなかったから、至る所傷んでいる。
「掃除道具や工作道具も欲しいわ」
「エリカ!」
と、いきなり玄関ドアが開いて、今家を出たばかりのアベリアが勢いよく入ってきた。
「わあ! アベリア、何? 忘れ物?」
浮かれていた私は驚いて箒を握り締めた。
「いや、忘れ物は無い。エリカにもう一度しっかり注意をしておこうと思って。
いいか、俺が帰宅するまでこの山小屋から出るんじゃないぞ!
山は危険でいっぱいだからな。
あと、知らない人間を見ても関わってはいけない!
山に入って来る奴なんて、たいがい危ない奴だから。
分かったか?」
言いながら私に迫って来るアベリアに壁まで追い詰められる。
「わかった! わかってます!
もう、昨日から何度同じことを私に言い聞かすの!
私、子供じゃないから大人だから大丈夫よ」
アベリアの顔を睨みつける。昨日から耳にタコができるくらい聞かされた。
腹が立った私は、両手を伸ばして彼の背中を玄関の外へ押して行く。
「子供なら家の柱に縛り付けておけるのに、大人のお前は子供より質が悪い!」
「それ、虐待!
もう、アベリアが買って来てくれるの楽しみに待っているんだから、早く行って来てちょうだい!」
テイッと突き飛ばして、玄関からアベリアを出しドアを閉めた。
アベリアは力が凄く強いけれど、何故か私に暴力を使わないし私の抵抗は甘んじて受け止めてくれる。
きつい言葉を言うけれど、私に絶対に手を上げないアベリアは紳士なのかしら?
バッと、また玄関が開いてアベリアが私に向かってくる。
「エリカ、何度言ってもお前が俺の言う事をしっかりと理解しているのか……不安だ。
いいか! 絶対にこの家から外へ出るなよ!
例え外出しても怪我した動物を憐れんで治したり、動けない人間の世話とかするんじゃないぞ。
エリカ、……わか……」
「うるさーい! 家から出ないって言ってるでしょうが!!」
私は右足で思いっきりアベリアの腹目掛けて蹴りだした。
「ぐはあ!」
背中から地面に叩き付けられるアベリア。まあ、下は枯れ葉がいっぱいだから怪我はしないでしょう、多分。
「石鹸を買ってくるまで家には入れてあげないからね!
無事に帰って来ないと許さないから!!」
アベリアにツンデレ? して、 勢いよく扉を閉めて南京錠をかける。
ガチャリッ。
鍵の音を聞いて流石に私が家の中にいるだろうと安心したのか、アベリアはやっと街への道を駆けて行った。
この小屋から街までアベリアの足で50分くらいらしい。
アベリアはオーガという種族で人間よりも足はとても速い。
はあー、やっと出かけた。
アベリアの心配症にも困ったものだが、彼を不安にさせる私にも原因があるのは分かる。
アベリアと森で暮らすようになって兎を見かけた時に、今まで私に近寄ってこなかった兎が、その時は跳び跳ねて私の方へ来たから
「わー、可愛い。今日は触らせてくれるの?」
と、私が両腕を広げたら
「危ない! エリカ」
私の目前で兎はいきなり頭から鋭くて長い角を出して跳ねた。
私はアベリアに襟首を持たれ後ろへ引きずられ、アベリアは開いた片手を握りしめて兎の横腹に叩き付ける。兎はアベリアの一撃で倒された。
「エリカ。
一角兎は通常角を隠して生きているが、縄張り意識の高い動物であの鋭い角で心臓を狙ってくる危険な生き物なんだ。2度と安易に近づくな」
と、アベリアに注意された。
「……助けてくれて、ありがとう」
フアフアの可愛い兎は頭に長くて鋭い角を隠すモンスターだった。
そのまた別日。
木の上にリスがいた。私はちょうど大きなドングリを持っていて、リスが欲しそうに見ていたから
「ドングリ食べる?」
と木の上のリスに話しかけたらスルスル高い所から下りてきた。
おお。初めての餌渡しだと指でドングリをつまんでリスに渡そうとしたところ
「待ったあ!」
と、大声を出してアベリアが走って来てリスは逃げた。
「エリカ! あのリスは指の爪に猛毒を持っていて、万が一リスの毒爪がエリカの皮膚をひっかくと大変な事になる。
この山に住むリスくらいの大きさの動物は大体毒持ちだ。むやみに餌を与えるな」
「……毒……分かった、餌は上げない……」
小動物は毒を持っているらしい。
そして、一番衝撃的だったのは、ある時山を散策していたら、
「ねえねえ、そこの可愛いお嬢さん」
え? 人間の声がする?
と、振り向くとタヌキの頭に筋肉盛り盛りマッチョな直立二足歩行の裸の生き物が、あそこを丸出しで歩いて来た。
「僕と付き合わない?」
「ぎゃー! 変質者あー!」
「エリカに近づくなぁ! この野獣があ!」
私の叫び声を聞きつけ疾風の如き速さで変態狸に跳び蹴りを入れるアベリア。
変態狸は勢いよく木々の間へ飛んでいき姿が見えなくなった。
「エリカ! 女一人で山の中をうろつくな!
キツネやタヌキが化けて、人間の娘を孕まそうと狙っているぞ!」
はあはあ肩で息をしながら注意してくれるアベリア。
人間の女を孕まそうとしてくるキツネやタヌキ……絵本の世界の様だと感じていたこの山の生き物たちはとても危険な動物達でした。
アベリアに出会うまでよく無事だったな私。
こうして、アベリアは私の事を子供以上に危険に突っ込んでいく女だと思うようになった。
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