隠棲生活始まりました。
異世界に転移してオーガのアベリア(男)と山の中で一緒に暮らすことになりました。
※隠棲=世間から離れてひっそりと暮らすこと
「それじゃあ、行ってくる」
「うん。気を付けて、いってらっしゃい」
私は満面の笑みで玄関から街へ出かけるアベリアを見送った。
異世界生活80日目。
私、日本から転移してきた蛇目エリカは、オーガのアベリアと山小屋で一緒に暮らしています。
同棲じゃないよ、同居だよ。
それでも、年頃の男と同じ屋根の下で暮らすことのなるとは自分でも驚きです。
▽▽▽
アベリアと出会った時は私の身を心配してっていうか、彼は他に目的がありそうなんだけれど無理矢理に聞けないので、私を守ってくれる約束でこの山の中で共同生活をすることに。
山で暮らすのはアベリアの案。
アベリアが言うにはここから街道に出ると1時間くらいで大きな街に着くらしいけれど、常識のない私では街ですぐに悪い輩に捕まり鴨られて売られるとのこと。
腐っても20歳だよ私。人間では大人の部類だよ。
そんな簡単に騙されないわって言い返したけれど、アベリアに街の怖さをコンコンと諭されて……街で暮らすのは諦めました。
娘は道を歩いているだけで攫われるとか、昼間から娼館に連れ込まれるとか、食堂で一服盛られて奴隷市場で売られるとか、身元のはっきりしない女にとってこの異世界超怖いんだけど。
死神様、本当に私に寿命を全うさせる気があるのかしら?
それでアベリアと山で暮らすことになった。
しかし、一人で山にいた時よりもアベリアとの山での生活は便利です。
彼は火を熾せるからお湯を沸かせられるし、山の葉の付いた枝を縄紐で重ねて簡易的な屋根と壁を作ってくれた。
私は久しぶりにお湯で体を清めて、アベリアもお湯で顔や頭の汚れを取る。
「アベリア、その長い髪、動くのに邪魔みたいだから私が少し纏めてあげようか?」
「は? 纏めるって?」
「う~ん、これだけ痛んだ髪だから編み込めば紐で結ばなくてもほどけないと思う」
「エリカの言っている事は分からんが、まあ、お前がやりたいなら好きにしな」
アベリアの髪の毛は彼の腰辺りまで伸びていて、毛を切った事が無いのかと疑いたくなる多さ。
お湯だけでは汚れや垢が全て落とせないし、これだけの毛量だと重いから鋏があれば切ってあげられるのに……シャンプーや鋏を手に入れたいなあ。
アベリアの髪の毛を上から下まで顔に毛が掛からないように編み込んでみた。
「どう? 少しはさっぱり……」
アベリアの顔を見ると彼の美しい瞳が私の視界に飛び込んだ。
うお! 顔の汚れと髪が邪魔で今まではっきりと見えなかったけれど、アベリアってもしかして美形?
扱けた頬って事もあるけれど、小顔に筋の通った高い鼻、薄い形の良い唇に印象的な青い瞳。
磨けば光る原石だわ!
私が思いがけず宝石を見つけて放心していると、アベリアはニッと口の端を上げて、
「今まで髪の毛が邪魔でエリカの顔がはっきり見なかったが、エリカは可愛いい顔をしているんだな」
って、赤面もののセリフをサラッと言われ、
「それにしてもエリカの胸はかなり膨らんでいるが、何を入れているんだ?」
と私のボインをジロジロと上から眺めてきた。
「セクハラじゃー」
と、反射的にアベリアのお腹にグーパンした。
グフッと前のめりに倒れるアベリア。
私は胸を見られて瞬間的に頭に血が上って彼を殴ったけれど、よく考えたら性的な言葉では無かったわ。
アベリアは私の豊かな胸に疑問を持ったみたいだけれど、この世界の女性はもしかしたらおっぱいが大きくない小さいのが普通なのかしら?
だとすると、私サイズのブラジャーが手に入れられないかもしれない。
ちょっと、心配だわ。
と、多少暴力沙汰があったけれど、食事をしたり山を散策したり、割とほのぼのとした数日を過ごしていたある日、アベリアが私と出会った日に殺された山賊が使っていただろう山小屋を発見したのです。
最初は山賊と言えどやはり他人の物だから、この山小屋を住みかにしようというアベリアの提案に私は反対したのだけれど、やはりしっかりとした屋根や壁のある暮らしの魅力には敵わず、山小屋でアベリアと同居することになりました。
血なまぐさい武器は目に入れないようにして、丸太で作られたログハウスの中を毎日片付けと掃除をしています。
「エリカは掃除が好きなのか?」
「まあ、わりと片付けと掃除はする方かな。
でも、今は綺麗に片付けたら前の住人の匂いが薄くなると思って、ちょっと念入りに掃除しているの」
殺された山賊さん達、男所帯だったからかこの家もの凄く散らかっているし、壁や床によく分からないシミまである。……人間の血の後でありませんようにと願いながら、この数日のあいだ山賊さんの誰かの古着でゴシゴシ汚れを落とす。
アベリアは山賊が使っていたであろう武器の中から自分が使えそうな得物を選んでいる。
「はあー、石鹸が欲しいなあ……」
毎日、布を水で絞って一生懸命汚れをこするのだけれどなかなか落ちないので、つい、声に出てしまった。
「石鹸?」
「うん、お湯や水だけでは落とせない汚れを落とすのに使えるものないかなあ」
「……エリカが欲しい物なら多分街で手に入ると思うから、明日にでも俺が買って来てやるよ」
「え? お金は?」
「ここは山賊の住居だったからな奴らが置いていった金が少しある。
あいつら金を貯める習慣が無かったのか沢山はないが、エリカの欲しがる汚れを落とす物くらいなら買えるさ」
「本当! 出来れば体を洗うのに使える物も欲しい」
アベリアはリビングの棚の上から革袋を出して、その中にあるコインを数えだした。
「まあ、それくらいなら買えるか」
「やったー!!」
私は念願のシャンプーリンス、ボディーソープが手に入るかも知れない喜びに湧いた。
そして、冒頭のセリフに続きます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




