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アベリア②

 上手い食事をたらふく胃にしまい、久しぶりの満腹感に気持ちが満たされた俺は、目の前の新しい主人を見て奴隷として過ごす日々に気持ちが憂鬱になった。


 だが、この新しい主人は俺に食事をさせて片付けまで自分でやりだす。

 何故、奴隷の俺に命令しない?

 首に嵌る銀の輪を触りながら考える。このリングは確かに目の前のエリカ様を俺の主人と認めた。

 だが、エリカ様はもしかしたら俺がエリカ様の奴隷になった事に気が付いていないのではないか?


「エリカ様は、俺のこの銀色のリングの意味をご存知ですか?」

 そうだ。この隷属契約を結ぶ時の奴隷の輪をもしかしたら知らないのかもしれない。

 世界は広い、知らない奴がいる事も稀にある。


「知らない。その細い首輪を何故しているの?」

 俺の問いに案の定、エリカ様はこのリングの意味が分からないのだ。という事はエリカ様は俺を自分の奴隷にしたと気が付いていない。

 やった。

 俺はまだ自由だ。

 エリカ様が俺を奴隷だと気が着いた時にどうなるかは分からないが、俺から教える必要はないだろう。


 俺のこの首にしている銀輪はオーガの証のために付けている物という事のしよう。

 この世界のオーガの数は少ない。街中で見かけるオーガは大抵、誰かの奴隷なのだ。

 街で見かける大抵のオーガはこの銀輪を首に嵌めているから、エリカ様は気が付かないだろう。


「……様付でお呼びしたのは初対面の貴方に失礼が無いようにと思いまして」

 俺は微笑んでエリカ様を見た。


 エリカ様は自分から名前を呼び捨てにするよう、俺に言った。

 奴隷は主人を傷つけてはいけない。

 もしも主人の肉体又は精神を害した時には首輪が締まる。エリカ様は本心から様を付けないでと言っているとは思うが、今までの主人たちを思うと慎重になる。


「……エリカ」

 エリカが笑顔になった。多少引きつった笑顔だが俺の首はリングに絞められない。

 安心した。

 エリカは本心から俺との隷属関係に気がつかず、俺と友好的な関係を築こうとしていると分かった。


 再度、奴隷になった絶望から希望が見えた時には、辺りは暗くなっていた。

 俺がいつものように焚火を作ったら、エリカは目を皿にして焚火を見つめる。


 エリカが言うには火を出せないらしい。

 そんな馬鹿な。この程度の火、オーガの子供なら早ければ3歳で出せる。

 俺の大怪我を治し指を鳴らして料理を出すエリカが出来ないはずが無い。


 だが、エリカは出来ない。風もおこせない。一般的な魔法は全く出来ない偏った魔法使いだ。

 このエリカに付け込もう。


「エリカはすっごく頼りない奴だから、俺が守ってやろうと思っただけだ。お前は常識がないから。そんなんじゃこの世界すぐに悪い奴に引っかかるぞ」


 隷属契約をした奴隷は主人の元を2日以上離れることが出来ない。

 同じ敷地内にいなければそれは逃げたと判断され銀の輪が少しづつ締まっていく、だが死なない猛烈に苦しむだけだ。


 普通が出来ないエリカのために俺が側に居てやる。


 おれが奴隷だと気がつかれないように、エリカの近くに居られる良い理由だと思ったが、エリカは頬を膨らませて機嫌を損ねてしまった。


 やばい、もっと違う言い方、違う話で考えて言わなければ……そうだ、怪我を治して食事をくれたお礼を言って、

「この先のエリカが俺は心配なんだよ。だからエリカの事を守りたいんだ」


 ぐく、自分で言っておいて何だがこれではまるで女を口説いている様だ。

 エリカは多分人間の女だからこれくらいのセリフを言わないと喜ばないと思ったが、何故か俺に背を向けてしまった。

 会って間もないし気味悪く思われたのか。


「あまり重く考えないでくれ。

 治癒と食事のお礼だと受け取ってくれればいいから、エリカが常識を身に付けるまで俺を側に置いて欲しい」


 エリカと一緒にいられるように必死でお願いする。

 どうやら俺の気持ちが通じたようでエリカが常識を身に付けるまでこの山で暮らす流れになった。


 この山に2人で生活する限り、エリカは俺のチョーカーの意味を知る事は無い。

 この山にいる限り、俺は奴隷としての扱いをエリカから受ける事は無いだろう。






ここまでお読みいただきありがとうございました。

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