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アベリア①

アベリア視点のお話です。

 ああ~くるしい……くそ……何でもいいから食い物を食いたい。

 何日、まともに食えていないんだ俺は……。


 かすむ目線の先に斧を持った獣人が襲ってくる。


 腹が減っていなければ……せめて短剣でも持っていれば……こんな奴らに後れを取る事は無いのに。

 最初に斬りかかってきた獣人の剣で肩を斬られてしまった……いてえ。


 腹立だしく幌馬車にいる騎士を目の端でとらえると、俺の事をニヤつきながら眺めている。


 こんな奴らに主従関係を結ばれるなど全く俺はついていない。


 いや、奴隷にされてしまったのだから主人など選べぬのだが、それにしてもなんと非道な奴らなのか。


 空腹と肩の痛みでふらつく俺に挑んできた若い獣人の斧を避け、横から獣人の腕首を掴み投げ飛ばす。

 そして、若い獣人の斧を奪った。

 山賊の仲間が俺に向かい突進してこようとしていたので、斧を投げそいつの頭を割る。まずは1人倒す。


 俺に投げ飛ばされた若い獣人は腰に付けていた短剣を抜き、俺に突っ込んできた。


 馬鹿かコイツ。敵の力量が図れなすぎだろう。


 斧の時と同じように腕首を掴んで短剣を奪い、そのまま男の頸動脈を短剣で斬る。2人倒す、あと4人。


 そうだ、この山賊たちは馬鹿の集まりだ。

 こんな昼間に幌馬車を襲うのに、何百メートルも前から山賊の姿を見せて正面から襲ってくるなんて。

 余程腕に自信のある山賊かと思えば……何の考えも無いただの馬鹿達だった。


 ああ、息がしづらい、腹が減りすぎて力が出ない……くそ。


 剣を持った獣人が俺に斬りかかってくる。こいつはまあまあ良い太刀筋だが、それでもまだ力任せだ。

 いい加減、俺との技量に気づけ! 俺はあの騎士達と違って無駄に血が流れるのは好きじゃない。


 獣人が大きく呼吸をしようとした隙に懐に入り、獣人の胸に短剣を突き刺した。……3人。


 体の力が入らず、俺は地面に膝をつく。


 弱った俺に残りの山賊が総攻撃してくるかと思ったが、今俺が倒した獣人が頭だったらしく、残りの山賊は及び腰になり逃げようとした。

 だが、騎士たちは山賊が逃げるのを許さなかった。

 4人の騎士たちは猫がネズミを殺すように遊びだした。


 本当に胸糞悪い男の物にされてしまったと、薄らぐ意識で考える。


 遊びが終わると主人が俺に立ち上がるように命令してきた。

 命令に背けば首輪が締まり、死なないまでも苦しい思いをしなければならない。


 死ねるなら良いが、無駄に苦しむのは馬鹿らしいと命令に素直に従う。


「これで今までの無能は許してやる」


 主人は山賊の頭が持っていた剣で俺を斬った。


 その瞬間、俺の首に嵌められた細いリングがカキンと音を立てたのを耳にする。

 地面に倒れる俺から幌馬車は遠ざかって行った。


 ……まさか……

 俺を捨てた……これは……想像出来なかったが……今俺は……


 奴隷から解放された。


 ああ……主人の気が変わって……俺を拾いに……来るかもしれない。

 あいつらの……方向と……逆の街へ……にげ……

 く、からだが……うごか、な……い。


 いやだ……じゆう……自由になれた……


 死に……たくない……


 真っ暗な淵へ落ちる……あ……何だあたたかく感じるものに包まれている。

 薄っすら見える……人間? 


 は、何だ何でだ首輪が俺に新しい主人を迎えるように命令してくる。

 いやだ、もう、奴隷は……なのに……口が勝手に……勝手に動く。


「……な、……名前……なまえ……け……やく、な……」


 やめろ! 俺に名前を言うな! 名前を教えないでくれ!


「蛇目エリカ。私の名前はジャノメエリカといいます。エリカ、分かる?」


「……エリカ……」


 チョーカーはエリカを主人と認めて光った。


 ああ! 主従関係を結ばれた。俺は自由になれたはずだったのにまた奴隷に戻されてしまった。


「しまった!」

 何てことだ! 俺の横に座る人間め!

 そんなに俺をお前の奴隷にしたいのか!


 ……ぐううううううううううううううううううう


 うう、急にまた腹が……いたい……腹が減りすぎて気を失いそうだ。

 しかし奴隷は主からの施ししか受けられない。


「エリカ様、薄汚い私に……どうか食べ物をお恵下さいませ……」


 くう、どんなに屈辱的でもエリカという人間に食事を貰わなければ……


 何故無言で俺を見ている。早く何でもいいから食べ物を取りに行ってくれ!

 こいつも奴隷に満足に食わせない最低な人間なのか!


 パチンツ


 エリカ様が指を鳴らすと湯気の立った汁物が現れた。


 ……何が起こった……この白い良い匂いのする物は何だ?


「貴方の口に合うか分からないけれど、一緒に食べましょう」


 ええ! 食べ物を指を鳴らすだけで出せるだと! 

 この人間は何者なのだ! 

 それに奴隷の俺と一緒に食べる? どういう意味だ? 

 一緒に食事など俺の聞き間違えか?


「はい、あ~んして」

 エリカ様は美しい銀色のスプーンで汁をすくい俺の口前に持ってきた。


 な、何故幼子に親がするような事を俺はされているのだ。この主人は何だ? 

 奴隷を何だと思っているのだ?


「ほら、口を開けて」

 ああ、もう訳が分からないが、今の言葉は命令だ。口を開けるしかない。


 コクッ……


 う、う、う、うまいー。


 初めて食べる味だがまろやかな味が口の中に広がって、空腹の胃の中に優しく落ちていく感じだ!


 白い汁が終わると、今度はオレンジと黄色の穀物が煮込まれた食べ物をスプーンですくって口に入れられた。

 これも初めて食べる食べ物だが上手い。酸味と甘みそれに先程の食べ物よりもこってりとした重みがあって胃が満たされてきた。


 食い物に夢中で気が付かなかったが、俺は信じられない事に主に食べさせられているのだ。


 エリカ様を見れば……楽しそう? 


 ……分からない。今度の俺の主人は随分と変わった人間のようだ。



ここまで読んでいただきありがとうございました。

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